656.普通の釣りとは異なる気がしたけど、いい気がする

 ……見なかったことにしよう。

 規格外って話をしたらうちのニワトリたちも十分規格外だし。ってことで気にしないことにした。

 リンさんが濡れた髪を搾っている。相川さんが替えのシャツを着るように指示していた。

 そういえば池を泳いだりするのかなと思ったら、日向ぼっこをしていたテンさんがゆうるりと動き始めた。テンさんはリンさんの側に寄る。


「マカセヨ」


 そう言い残して滑るように池に入った。


「えええええ」


 あの巨体で泳げるとかなんで?

 身体はほぼ水に浸かっているのだが、泳いでいるのが見えるのだ。ところどころでテンさんの胴体が浮き上がるのがわかる。なんつーか少し離れて見ると、ネス湖のネッシーってこういうのなんじゃないかなと思った。実際にはもっと小さい蛇が泳いでいたのを見たとかそんなことなのかもしれない。


「テン、けっこう泳げるんだな。よかった」


 相川さんはにこにこしている。


「佐野さん、釣りをしましょうか」

「あっ、そうですね!」


 相川さんに声をかけられてハッとした。今日は釣りに来たのだった。

 コイは食パンでも釣れると聞いたので試してみることにした。もちろん山唐さんに許可は取ってある。餌がなければタニシを捕るようなことを山唐さんが言っていた。

 池の縁から池の中を見ると、壁際にタニシがくっついているのが見えた。これもコイは好んで食べるらしい。というかコイは雑食だからなんでも食べると言えば食べる。

 相川さんは固めたマッシュポテトを準備して釣りを始めた。少し離れて俺も釣りをする。相川さんの側にはリンさんが、俺の側にはユマがいる。ユマは近くの草をつついたりしていた。


「あー、平和だなー……」


 思わず呟いた。

 ……池を大蛇が泳いでるとか、時々山唐さんがソウギョを投げる以外は。その度に利山さんが不機嫌そうな顔をしていた。

 午前中いっぱいで、俺はコイを二匹釣った。上々である。相川さんはハクレンだけでなくコクレンも釣った。そしてテンさんはでかいアオウオを口に咥えてきた。

 テンさんは悠々と池から上がると、山唐さんの側にアオウオを放した。


「アオウオを捕まえるなんてすごいな」


 山唐さんはとても機嫌が良さそうだった。

 釣りをすると言っていたのにながれ夫妻は山唐さんの奥さんとお茶をしていただけだった。奥さんの護衛のつもりで来たのかもしれない。

 山唐さんはソウギョを四匹も釣った。……うん、釣り、なんだよな?


「ありがとうございます。一匹はいただけますか?」


 利山さんが山唐さんに聞く。


「二匹持っていくといい」

「ありがとうございます」


 交渉は済んだみたいだ。


「おなかすいたー……」


 奥さんが呟く。そういえばお茶をしていただけで、お茶菓子などはそれほど持参していなかったようだった。俺たちも朝が早かったので言われると空腹に気づいた。


「おなかすきましたね」

「そうですね」


 呟くと相川さんも同意してくれた。


「昼食の準備はしてありますので戻りましょう」


 山唐さんに促されて片づけをし、レストランの方へ戻ることにした。途中でタマと韋駄天君だか疾風君だかが走ってくるのが見えた。(韋駄天と疾風の区別が俺にはできない)


「タマ?」

「疾風? どうしたんだ?」


 流さんが反応した。疾風君だったらしい。


「シカー」


 タマがとんでもないことを言う。


「えええええ」


 こっちが釣りをしている間に、本当に何か狩ってしまったらしい。


「タマさん、疾風、ありがとう。魚を置いたら向かうから待っていてくれ」


 山唐さんが嬉しそうに礼を言う。


「私たちが参ります。京さん、向かいましょう」

「は、はい!」


 利山さんはそう言うと担いでいたソウギョを下ろして流さんと共にタマ、疾風君を促して行ってしまった。


「全く、勝手な……」


 山唐さんがため息をつく。でもシカを狩ったなら早く対処しないといけないだろうから流夫妻の行動は間違ってないと思った。フットワークが軽くてすごい。

 利山さんが担いでいたソウギョは相川さんが担いだ。コクレンとハクレンも持っているのに大丈夫だろうか。


「俺が持ちますよ」

「これぐらい大丈夫です」


 相川さんはにっこり笑んだ。リンさんとテンさんは悠然と付いてきている。とても機嫌が良さそうに見えた。

 それにしても「シカー」としか言わなかったけど、いったい何頭狩ったんだろうか。一頭だけならいいんだけどな。

 俺はコイを二匹釣っただけだが、意外と重かった。

 レストランに戻って厨房に魚を運ぶ。


「花琳、悪いんだが冷蔵庫に入っている物をおかずとして出してくれ。利山たちが戻り次第シカの解体もする」

「わかりました」


 山唐さんはまず魚を捌いてしまうことにしたらしい。ごはんと汁物はできているらしく、俺たち二人に昼食を出すのを優先してくれるみたいだ。


「忙しそうですからこちらのことは気にしなくていいですよ?」

「いえいえ、私も一緒にいただきますから是非食べてください!」


 奥さんに押し切られてしまい、俺と相川さん、山唐さんの奥さんの三人で昼食をいただいた。ちなみにユマはチンゲンサイをもらってしょりしょり食べていた。

「魚とか肉は後でなー」と伝えたら「ワカッター」と嬉しそうに返事してくれた。

 ユマはなんてかわいいんだろうなぁ。(少し現実逃避中)



次の更新は6日(金)です。よろしくー

コミック発売効果なのかアクセスがすごいことになっています。ありがとうございます!


ニワトリは人化しませんし、佐野君たちは恋愛しませんのでよろしくお願いします。(最新話を読んでる人はわかってるはず)

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