626.うちのニワトリたちは何をやっているのか

「桂木さん?」


 ちょっと心配になって声をかけてしまった。桂木さんははっとしたように少し俯かせていた顔を上げた。


「あ、ええ……大丈夫です」

「本当に大丈夫?」


 奥さんも一緒にいたから何かあったわけではないんだろうけど、少しだけ引っかかった。


「ええ、本当に大丈夫です……あ、はい。なんともありません」


 また視線を落として、それが上がった時にはもう普通だった。俺の気のせいだったのだろうか。

 ユマにばかり気を取られていたけど、そういえばメイは? と思った。今更である。なんで俺、メイのこと忘れてたんだろうな。


「ユマ、そういえばメイはどうしたんだ?」

「メイー、ミンナー」

「マジか……」


 一羽だけでどっか行ったよりはいいけど、ポチやタマたちと一緒に行ったというのが気にかかる。メイ、ついていけてんのかな? あ、でもドラゴンさんも一緒だからそこまでスピードは上がらないか。タマのことだからメイを置いてったりはしないだろうし……。内心ほっとした。

 ひどい飼主もいたもんだと反省した。


「……遅くとも四時ぐらいまでには戻ってきてほしいな」


 ぼそっと呟く。それを山唐さんには聞かれていたらしい。


「ああ、そうですね。ちょっと声をかけてきます。花琳、おもてなしを頼むよ」

「はい、いってらっしゃい」


 奥さんはにこにこして山唐さんを送り出した。それがあまりに自然だったから、口を挟むこともできなかった。声をかけてきますって、えええ? アイツらがどこに行ったかわかるもん? ここって、三座連なってる山、だよな? かなりの広さがあったはず……。


「あ、あのぅ……」


 奥さんに声をかけると、奥さんはきょとんとした顔をした。


「佐野さん、どうかなさいましたか? 今お茶をお淹れしますね。それともコーヒーの方がよろしいですか? アイスコーヒーもご用意できますよ」

「あ、じゃあ……アイスコーヒーをお願いします……」


 ヘタレ度が増している気がする。でもなんというか、奥さんからちょっとした圧を感じたのだ。……気のせいかもしれないけど。

 みなアイスコーヒーを頼んだ。お茶請けにチ〇ルチョコが出てきた。なんか嬉しい。

 ところで山唐さんはいったいどこまで行ったのだろう。アイスコーヒーの入ったグラスの中でカラン、と氷が音を立てた。

 それから少しして、山唐さんが戻ってきた。

 なんだか表情が困っている。


「山唐さん?」

「いやあ……佐野さんのところのニワトリたちと桂木さんのオオトカゲは優秀ですね」

「え」


 なんだかとても嫌な予感がする。アイツら、いったい何をしやがったんだ?


「ま、まさか……」

「ちょうどシカを狩っている最中でしたので、これから取りに行ってきます」

「えええええ」

「僕も行ってもいいですか?」


 相川さんが立ち上がった。


「すぐ支度ができるのでしたら。暑い季節ですので」

「わかりました」


 元々作業着姿ということもあるが、相川さんは常に軽トラにちょっとした道具は積んでいるらしい。狩猟、やっぱ好きなんだろうなと思った。


「佐野さんと桂木さんたちは待っていてください。行きます」


 山唐さんと相川さんはレストランを出て行った。もう何がなんだかわからない。ニワトリたちって、ポチとタマだけじゃなくてメイも一緒だったよな。ってことはメイも狩りをしたってことか? あんな小さな子に狩りとか教えちゃだめだろ? これはポチタマに抗議しなければと思った。


「おにーさん、百面相してるー」


 桂木妹に笑われてしまった。


「メイが……」


 俺は足元でおもちのようになっているユマを見やった。ユマがナーニ? というようにコキャッと首を傾げた。かわいい。

 じゃなくて。


「ユマ、メイもみんなと狩りに行ったんだよな? 大丈夫かな?」


 ユマが反対側にコキャッと首を傾げた。俺の言っている意味がわからないというような仕草だった。


「メイ、まだ小さいからさ」

「チイサイー?」


 またコキャッ。

 ユマとしては小さいに異論があるらしい。


「小さい?」

「小さくは……ないよね? ニワトリとしては標準かなぁ……」


 桂木妹と桂木さんの声が届いた。

 あれ?

 俺は顔を上げた。

 何言ってんのこの人って目で、奥さん、桂木姉妹に見られていた。あ、とやっと気づいた。


「ちいさ、くはないか……」


 どうもポチタマユマがでかいからメイが小さく見えていたみたいだ。確かに養鶏場の鶏よりははるかにでかいかもしれない。


「あの……佐野さん、失礼ですけど……メイちゃんって麓で飼われてるニワトリより大きいですよ?」


 奥さんにまで言われてしまい撃沈した。俺、恥ずかしい。

 でもサイズを対比したら絶対メイは小さく見えるじゃないか。確かにもう生まれて二か月半以上経ってるけど。


「佐野さんって過保護なパパみたいだよね~」


 桂木妹に言われてしまった。そうですよ、過保護ですよ、文句あっか。


「でも卵から産まれるところを見たらそうなっちゃうかもね。生まれた時って、小さくて頼りないでしょう? 佐野さんは責任感が強いから、守らなきゃって思ったんだと思うよ」


 桂木さんがフォローしてくれた。

 まぁでも冷静になったことで、迷子にならなければいいかぐらいには思えた。ユマを撫でる。ユマは気持ちよさそうに目を細めた。


「そろそろ戻ってくるかな」


 なんて呟いたりしたのだった。



ーーーーー

次の更新は22日(木)または23日(金)です。よろしくー


今日明日辺りで書籍に関するアナウンスがあるかもしれません。その時はどうぞよろしくお願いします。


「Web版と書籍版はところどころ違うのですーな解説(何」に宣伝追加してますー

https://kakuyomu.jp/works/16816927861337057957/episodes/16817330655646256273

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る