1600万PV記念SS「歯みがきをしてみよう」

1600万PV記念お待たせしました!(え? 待ってないって? そんなぁ

今回は最初の年の秋頃の話です。三巻の内容にかかってきます。

楽しんでいただけると幸いです。



 常々思っていたが、うちのニワトリたちには鋭い歯がある。

 普通のニワトリには歯はあっても退化しているので、せいぜいどこかに一つついているぐらいらしい。

 しかし、うちのニワトリにはギザギザの歯があるのだ。(大事なことなので二度言いました)

 歯があるということは、虫歯になったりもするよな?

 朝の餌をバリンバリンと音を立てて食べているニワトリたちを見ながら、そう考えた。(なんであんな音がするんだろう)

 虫歯になるということは歯周病にもなるだろう。確か猫も歯槽膿漏になったりすると聞いたことがある。それで寿命が縮んだりしたら嫌なので、歯ブラシを買ってきた。一応端切れも仕入れてきた。歯を磨くのを嫌がった場合、せめて濡らした布で拭かせてもらえないかと思ったのである。

 俺の手間は増えてしまうが、ニワトリたちには長生きしてもらいたいからがんばろうと思った。

 しかし問題はだ。そもそも歯ブラシを口の中に入れさせてもらえるのかということだ。

 とりあえずどうしたら歯ブラシを素直に口の中に入れさせてもらえるかを考えた。

 それこそ赤ちゃんの歯磨き方法とかそんなことまで調べてみた。ニワトリは赤ちゃんじゃないだろう。何考えてんだ俺。

 と、試行錯誤したあげく考えたのは、ユマに歯磨きをしている俺の姿をできるだけ見せることにした。いつもなら洗面所でしている歯磨きを居間でやってみる。

 ポチとタマは興味を示さなかったが、ユマは俺が歯を磨いているのを見てコキャッと首を傾げた。


「サノー」

「ん?」

「ナニー?」


 よしよし疑問に思ってくれたぞ。

 とりあえず台所で口を一旦ゆすいでから話すことにした。


「ユマ、これは歯ブラシっていうんだよ。歯を磨く道具だ」

「ミガクー?」


 ユマがコキャッと首を傾げた。ポチとタマはそっぽを向いているが、タマはちら、とこちらを見た。うん、悪くない反応だ。


「そう、餌を食べると歯が汚れるだろ? その汚れをほっておくと、歯がだめになって取れてしまったりするんだ」

「ハー、トレルー?」


 ユマはよくわかっていないらしく、コキャコキャと首を傾げた。かわいい。じゃなくて。


「ユマにも歯があるよな。ちょっとごめんな」


 俺はユマにそっと触れ、嘴を開かせた。うん、かなりこわい。

 噛まれたら穴が空きそうである。でもかわいいニワトリたちの為だと、そっとその歯に触れた。


「これが歯だよ」

「ハー?」

「ユマはこれで肉や野菜を噛むだろ? 汚れたままにしておくと取れてなくなったりするんだ。困るだろ?」


 ユマは一瞬きょとんとした顔をしたが、やっと意味がわかったらしい。


「サノー、サノー」


 ユマはバサバサと慌てたように羽を動かした。なんだこのかわいいの。


「だから歯磨きさせてくれないか? 歯磨きすると汚れが落ちてキレイになるぞ。そしたら歯が取れてなくなったりしないから」

「サノー、ミガクー」

「よーし、じゃあ口を開けてくれなー。噛んじゃダメだぞー」


 ボウルに水を用意して、それで歯ブラシを濡らしてユマの歯を磨かせてもらった。気になるのか、歯の内側を磨く時は歯ブラシを何度か噛んだりしたが、「ユマ、磨けないよ」と声をかければ離してくれた。とはいえこの調子だとすぐにボロボロになりそうである。


「よーし、終わったから水を飲んでくれ」

「ワカッター」


 さすがに水を口に含んでゆすぐなんてことはできないだろうから、水を飲んでもらうことにした。歯磨きはしたけどさすがに歯磨き粉は使っていない。人間はともかく動物には有害な成分が含まれてるかもしれないしな。

 歯ブラシを洗っていたら、いつのまにかタマが側にいた。


「タマ?」

「ミガクー」

「え? タマも磨かせてくれるのか?」


 どうやらタマも歯がなくなっては困ると思ったみたいだ。

 歯の裏側を磨くのは何度も噛まれて難儀したが、磨かせてくれた。うん、うちのニワトリたちは優秀だよな。


「ポチはどうする?」


 ポチはその日は近づいてこなかった。そのうち磨かせてもらえると嬉しい。

 さて、ユマとタマは歯磨きをすると口の中がすっきりすることに気づいたらしく、何度も歯磨きをしろと迫ってくるようになった。

 ちょっと表へ出て草や虫を啄んで歯磨き! というのはいただけなかったので、朝の餌の後と、夜にすることを決めた。


「ナンデー?」


 タマが珍しくコキャッと首を傾げて迫ってきた。


「一日に何度も磨く必要はないんだよ。せめて朝晩にしてくれないか? がんばって磨くからさ」

「ワカッター」


 納得はしてくれないみたいだったが、磨くのは俺なので妥協してくれたみたいだ。よく考えたらニワトリってずっと何かを啄んでるよな。そう思うと、歯が退化したのも合理的な進化だったのだろう。ユマは一日二回と言ったらちょっと寂しそうな顔をした。


「あんまり磨きすぎると歯が削れてなくなっちゃうかもしれないぞ」


 研磨剤は使ってないからそんなことはないだろうが、苦し紛れにそう言ったらショックを受けたような顔をしていた。かわいい。

 そのうちポチもしぶしぶだが歯磨きをさせてくれるようになった。きっとタマにつつかれたりしたんだろう。

 手間は確かに増えてしまったが、ニワトリたちの健康の為だと毎日歯磨きをさせてもらうのだった。



おしまい。


来週中にまたちょこちょこ三巻のお知らせなどするかもしれません。


6/15にコミカライズ第五話が配信されました。ユマがかわいいですよー♪

リンクは以下からどぞー

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330658873259515


これからも「山暮らし~」をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る