625.ニワトリたちはどこへ行ったのか
落ち着いてから、山唐さんに礼を言った。
ニワトリたちへの餌についてである。奥さんは何度もボウルを運んでいっていたから、トラネコやうちのニワトリたちだけでなくドラゴンさんにも餌を持って行ってくれたに違いなかった。
「いえいえ、イノシシを狩って下さったのはニワトリたちですから、それぐらいは当然です」
お会計は帰る時ということで、桂木姉妹は山唐さんとその奥さんと話をすることになった。多分山唐さんのメインはそこだったんだろうなと思う。俺と相川さんはテラスに出た。
暑いは暑いんだけど、木陰だしやっぱり山の上だから過ごしやすいと思う。
冷たいジャスミン茶を飲んで少しぼーっとしていた。お茶請けは向日葵の種である。歯で種のつなぎ目のところを軽く噛むと種がパカッと割れる。中身を取り出して食べるんだけど、これがなかなかクセになるのだ。俺も向日葵の種買ってこようかな。
カッ、パカッってのがさ。
「サノー」
「あれ? ユマ……」
テラスの下から声がかかった。姿を確認すればユマだった。ちょっと口の周りが汚れている。シシ肉をしっかり食べられたようだった。
バサバサッと羽ばたいてユマがテラスに下り立つ。
「わぁ……」
思わず声が出た。でかくて重そうなのによく飛べるなとか失礼なことを考えた。気づかれたらつつかれそうである。
「サノー」
ユマはご機嫌だ。
「いっぱい食べさせてもらったかー?」
嘴をタオルで拭いてやる。ちょっと生臭い。
「タベター」
「そっか、よかったなぁ」
羽を見るとそれほど汚れてはいなかった。
「ポチとタマは?」
「イノシシー、シカー」
「……は?」
どゆこと?
「え……」
さすがに相川さんも絶句した。
「ユマさん、それはイノシシとシカを捕まえたってことですか? それとも狩りに向かわれたのでしょうか?」
相川さんが気を取り直してユマに聞く。確かにその確認は大事だ。
「ンー?」
ユマは首をコキャッと傾げた。質問が理解できないみたいだ。
今度は俺が聞いてみることにした。
「ユマ、イノシシ獲った? 獲ってない?」
「ナイー」
ユマが全身をふりふりさせた。尾は邪魔にならないように上に少し上がっているように見える。こんな動きどこで覚えたんだろう。かわいいじゃないか。
「じゃあ今狩りに行ってるんだな。ポチとタマと……ドラゴンさんとトラネコもかな?」
「ミンナー、カルー」
「……それは生き物を全部狩るって意味じゃないよな?」
なんかニュアンス的にそう聞こえたのだ。そんなことはないと思いたいがうちのニワトリたちとドラゴンさんがいたら根こそぎ狩るとかできそうで怖い。想像するだに恐ろしかった。
「ミンナー、イッター」
ユマがコキャッと首を傾げてから言い直した。なんかうちのニワトリ、どんどん頭よくなってないか? それとも俺がダメダメなんだろうか。
「そっか。ユマは行かないのか?」
「サノー」
「一緒にいてくれるのか?」
「イッショー」
「ありがとな」
羽を撫でて、側にいてもらうことにした。ユマに甘えているという自覚はあるが、側にいてくれると言われたら嬉しくてしかたない。相川さんもにこにこしていた。
「狩りに行かれたんですよね」
「そうみたいですね」
「……張り切りすぎてなければいいですよね……」
「……そうですね」
アイツらには自重って言葉がないからな。冷汗を掻いた。頼むから狩ってくるにしても一頭ぐらいにしてほしい。
それから、できれば四時ぐらいまでに戻ってきてほしいと思った。ここまで来るのに片道一時間はかかるから、それぐらいに戻ってきてもらえないと困るのだ。今の時期は七時ぐらいまで明るいが、山の中はもっと早く暗くなってしまう。
ユマをなでなでしていたら、テラスへ続く窓が開いた。
「終わりました。暑かったでしょう。中へどうぞ」
奥さんが声をかけてくれた。山唐さんの話は終ったらしい。
「いえ、ありがとうございます。あ、ええと……ユマは」
俺たちはいいけどさすがにレストランの中へユマを入れるのはどうかと思って聞いた。
「ユマちゃんは行かれなかったんですね。じゃあ、このブラシだけかけていただいてもよろしいですか?」
「はい」
奥さんに手渡されたブラシでユマの羽づくろいをさせてもらった。夏の羽はけっこう柔らかい気がする。
「ユマ、痛くないか?」
「イタイー、ナイー」
ユマは嬉しそうに答えてくれた。ユマはもう本当に……。
相川さんには先に入ってもらうよう言ったのだけど、「ユマさんの羽づくろい、見ててもいいですか?」なんて言うから「どうぞ」と答えることしかできなかった。こうやって付き合ってくれるんだから優しいと思う。
羽をブラシで撫でてみると、意外といろんなものがくっついているということがわかった。けっこう自分たちでも羽づくろいをしているから、キレイなもんだと思っていたけどそうでもなかったらしい。うちにもブラシはあるんだが、ここまで汚れは取れないんだよな。これがどこで売っているのか聞いてみようと思った。
そうしてブラシの汚れをごみ箱に落とさせてもらってから中に入った。
桂木姉妹はぼうっとしているみたいだった。そんなに意外なことでも言われたのかと、俺は首を傾げたのだった。
次の更新は、20日(火)です。
1600万PV記念何書こう~(まだ言ってる
昨日コミカライズ第五話が配信されました。ユマがかわいいですよー♪
リンクは以下からどぞー
https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330658873259515
サポーター連絡:昨日サポーター限定SSを近況ノートに上げました。楽しんでいただけると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます