624.真ん中山レストランのごはん再び

 気を取り直して山唐さんの料理である。

 和食も作れるらしいのだが、元々の出身は中国らしく中華料理が得意なのだと言っていた。でも国家公務員ってことだから、きっと帰化されているんだろう。(外国人が公務員になれるかどうかは俺は知らない)

 今回は先日うちのニワトリたちが獲ったシシ肉を使うと言っていた。さすがに内臓は危険なので処分したらしい。やっぱ真夏はすぐに冷やせないとダメだよな。

 肉も臭みが少し気になるということで、シシ肉を使った料理は味の濃い物が基本となるみたいだ。そんな説明をされたけど、山唐さんの料理は絶対おいしいからなんでもいい。

 北側のでっかい池(湖だったかな)でソウギョも獲ってこられたらしいと聞いてにこにこになった。今日は四人もいるからいろいろ食べられそうである。


「中華料理の前菜ではトマトには砂糖をかけるものがあるのですが、そちらは如何ですか?」


 山唐さんに聞かれて桂木妹が首を振っていた。


「む、無理です。トマトに砂糖はちょっと……」

「日本ではなじみが薄いですね。では別のやり方をしますね」


 こういうことは確認してくれると本当に助かる。

 前菜にトマトは出てきたけど、タマネギのみじん切りとドレッシングがかかっていてとてもおいしかった。トマトは湯剥きまでしてある。やっぱ料理人は違うよなと思った。他にピータン豆腐、干豆腐の和え物、きゅうりのたたきにみじん切りのニンニクがかかっているもの、ブラウンエノキの和え物などが出てきた。前菜からして豪華である。女性がいるからか、前菜は精進料理っぽかった。もちろんうまいけど。


「ピータンて、見た目アレだけどおいしいね~」


 桂木妹がおそるおそる食べて気に入ったらしかった。よかったよかった。


「せっかくのシシ肉を狩っていただいたので、そちらを中心に使ってみました」


 山唐さんがそう言って出してくれた料理は、シシ肉を使った酢豚(肉がとても柔らかく臭みもなくていくらでも食べられると思った)、シシ肉と野菜のオイスターソース炒め、シシ肉を使った中華風肉団子、鶏肉とカシューナッツの炒め、シシ肉のミンチを使った麻婆春雨(中華料理では違う名前らしい)等すごいラインナップだった。


「どれもこれもおいしい~」


 桂木さんは頬に手を当てて幸せそうな顔をした。

 メインはそれだけでは終わらなかった。

 最後にソウギョの姿蒸し(清蒸魚)が出てきて、みんなで目を剥いた。


「こ、これは……」


 相川さんが思わずというように声を上げる。

 1mはありそうな大きさである。これを調理する蒸し器を持っているのもすごいし、これを載せる皿を持っているのもすごいと思った。


「魚はそれほど腹に溜まりませんから、食べられると思いますよ」


 こんなに入るかなと思って腹を撫でていたら山唐さんに言われてしまった。ちょっと恥ずかしい。

 もちろん中華料理なのでただ蒸すだけではない。ショウガとかネギ、唐辛子などの香辛料と一緒に蒸した上からアツアツの油(ピーナッツ油とか聞いた気がする)をかけて最後に醤油ベースのたれがかけてある。作っている最中からいい匂いがして、大いに期待していた。


「クセもなくて本当においしいですね」


 相川さんがしみじみと呟いた。白身なのだけど食べ応えがある。みんなソウギョはさすがに無言で食べた。


「ソウギョってこんなにおいしいんですね~」


 桂木さんが感心したように言う。


「隣山の池は湧き水が豊富で水が澄んでいるので、どの魚もあまり泥臭くはならないみたいです」


 先ほどボウルを持って表に出ていた奥さんが戻ってきて、そう説明してくれた。多分あのボウルって動物たち用の餌が入ってたんだろうな。俺も餌を出すぐらいは手伝えばよかった。


「そうなんですか。そこの魚って……」

「ご自身で食べられる分であれば釣って行かれてもかまいませんよ」

「佐野さん、今度釣りに来ましょう!」


 桂木さんが食いついた。


「いいけど……でも俺魚とか捌けないんだよね……」


 おいしいはおいしいけど、切り身とかになってないと厳しいかな。


「ただ来ていただくとしたら朝からの方がいいと思いますので……」


 奥さんに言われて桂木さんも「そうですよね」と頷いた。また来る気満々らしい。相川さんもそのつもりのようだ。

 メインを食べ終えた後は、ごはんの代わりに水餃子が出てきた。今回の餡はシシ肉とキャベツである。ショウガの風味がきいててとてもおいしい。肉の臭みを取る為に入れたんだろうなと思った。そして中華コーンスープも出てきた。相川さんが作ってくれるスープである。

 もう幸せすぎてほっぺたが落ちそうだと思った。


「シシ肉ってちょっと臭みがあるけど、調理次第でこんなにおいしくなるんだねー」


 桂木妹は終始にこにこしていた。

 デザートにはマンゴープリンが出てきた。これもまた口の中で蕩けてたまらなかった。腹はいっぱいなのにホント中華料理は後引くよな~。けっこうな金額はしそうだけどまた食べにきたいって思うし。


「とてもおいしかったです。ごちそうさまでした!」

「お口に合ってよかったです」


 山唐さんも笑顔だ。あんなにいっぱいあったのに全て食べ尽くしてしまった。中華料理のうまさ、というか山唐さんの料理恐るべし。


「シシ肉、それなりに臭みがあったのではないですか?」


 相川さんが聞く。


「ええ、やはり少し臭みはありましたが中華は味が濃いですからね。そこらへんはいくらでもやりようがあるんですよ」


 料理人ってすげえ。

 食後のお茶(ジャスミン茶だ)をいただいてしばしまったりしたのだった。



次の更新は、15日(木)または16日(金)です。

1600万PV記念SSどうしよう~(まだ言っている

15日にはコミカライズの第五話が配信されます。楽しみですねー♪

よろしくです~

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