623.真ん中山レストランへ、みんなで

 お盆も過ぎてもう八月も下旬である。

 もう、と言うよりやっとと言うべきか。

 今月は前半が濃かったからなぁ。ごみ拾いウォークもつい先日だったのに一か月ぐらい前のことのように思える。

 もしかして夏バテだろうか。

 そんなことを考えてしまった。

 さて、今日は山唐さんのところへお邪魔することになっている。

 桂木姉妹とドラゴンさん、相川さんも一緒だ。山唐さんの山に行くということをニワトリたちに伝えたら、全員行くことになった。今回は全員とか言われてはいないのだけど、うちのニワトリたちも思うところあるのだろう。あっちの山を駆け回りたいだけかもしれないけど。

 俺の軽トラを先頭として、桂木姉妹、相川さんが殿しんがりだ。


「今日はよろしくお願いします」


 桂木さんからLINEが入った。隣村までちょっと遠いんだよな。


「よろしく」


 と返して、S町へ向かう道に進む。S町は山を越えた先にある。峠の途中に左手へ向かう道が見えた。隣村に向かうのでそちらの道へ入る。そこからまっすぐ東へ向かうとやがて左へ曲がる太い道が現れるからそちらへ向かう。(まっすぐ向かうと更に奥の集落へと続いているけど、道は細くなっているからわかりやすい)山の間の道を通り抜け、村に入らずに左の道を道なりに進んでいく。そうしていくと看板が左側に見えてくる。

 真ん中山レストランと書いてある看板だ。

 その看板の通りに山を上っていく。

 うちの方からかれこれ一時間ぐらいかけて、ようやく開けたところへ出た。以前来たことがある建物が見えてほっとした。山唐さんの住居兼レストランである。

 砂利が敷かれた駐車場にそれぞれ軽トラを停めた。


「山唐さんに聞いてくるから待っててなー」


 俺だけ先に下りて建物の方へ向かったら、扉が先に開いた。山唐さんの奥さんだった。エプロン姿である。


「あ、こんにちはー。虎雄さーん、佐野さんたちいらっしゃいましたよー!」


 奥さんが建物の中に声をかけてくれた。


「すみません、うちのニワトリたちとか、オオトカゲはどうしたらいいですか?」

「少々お待ちください」


 さすがに許可もなく降ろすわけにはいかないしな。奥さんの顔が引っ込んですぐに山唐さんが顔を出した。


「佐野さんすみません。ニワトリたちとオオトカゲを降ろしていただいてもいいですか?」

「わかりました」


 桂木姉妹に両手で大きく丸を作って知らせ、俺は助手席のドアを開けた。メイがぴょんと降りる。ユマは自分から降りるかんじではなかったので、「俺が降ろしていいのか?」と聞いたら頷くように頭を動かしたからだっこして降ろした。はー、ユマかわいい。ポチとタマは自ら荷台から降りた。

 ドラゴンさんも台を出してもらって降りている。

 いかん、ユマを降ろさないと。ニワトリってけっこう体温高くて暑いのだが、なかなかだっこする機会もないから無意識ですりすりしていたのだ。ユマも怒らないしな。


「佐野さん、本当にユマちゃん好きですねー」

「おにーさんかわいー」


 桂木姉妹に言われてしまった。ちょっと恥ずかしい。なんで人様の土地でそんなことをしているのだろうか。

 やっとユマを降ろした。ユマは降りても俺にすりっとしてくれた。ああもうかわいいいいい。

 山唐さんが近づいてきた。なんかのっしのっしと音がするような気がする。それぐらい山唐さんはがたいがよく堂々としている。


「桂木さん、こんにちは。タツキさんを連れてきていただき、ありがとうございます」

「い、いえ……」


 かっちりと頭を下げられて、桂木さんは狼狽えたみたいだった。


「少しタツキさん、ニワトリたちと話があるのでよろしいですか? すぐに終わりますので。すみませんが、先に中へ入っていてください」

「わかりました。ポチ、タマ、ユマ、メイ、失礼のないようにするんだぞ」

「タツキもよろしくね~」


 俺たちは山唐さんに言われた通り、レストランに足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


 奥さんがお茶と漬物を出してくれた。きゅうりとナス、そしてカブの漬物である。たくあん、野沢菜もあった。

 漬物ってついつい摘まんじゃうよな。


「ねー、おにーさん」


 桂木妹が小さく声をかけてきた。


「山唐さんて、いったいどういう方なのー?」

「うーん? 国家公務員とは聞いてるな」

「おー、なんか強そうな響きだねー」


 そうかな? と首を傾げた。音の響きが強そうに感じられたのだろうか。桂木妹の感性がよくわからなかった。相川さんはしっかり俺の横の位置を確保している。絶対に女性の隣には座らないという意志が感じられた。ま、こればっかりはしょうがないよな。


「……国家公務員が強そうって何よ」


 さすがに桂木さんからツッコミが入った。


「えー、国家権力とかすごそうじゃん。だから国家ってつくとなんとなくー」

「リエ、おバカが露呈するからやめなさい……」


 俺はとりあえずそっぽを向いた。そこはもう感性とかで片付けた方がいいと思うんだ。俺は何も聞かなかった。相川さんも微妙に視線を逸らしている。これは単純に女性が苦手なだけの反応っぽかった。

 そんなことを話している間に山唐さんの方で話がついたらしい。戻ってきた。


「お待たせしました。これから調理しますが……トラ」

「え?」


 つい後ろを振り返ってしまった。どうもソファの後ろ辺りにでっかいトラネコがいたらしい。全然気づかなかった。


「トラ、ニワトリたちとオオトカゲに遊んでもらっておいで」

「に゛ゃああ~」

 トラネコがだみ声を発し、のっそりのっそりとレストランを出て行った。またなんかでかくなっているように見えたけど、それは俺の目の錯覚なんだろうか?


「遊んでもらうって……」

「できれば狩りの仕方を教えていただければと」

「えええええ」


 トラネコとニワトリとドラゴンさんじゃ狩りの方法とか違うと思うんだが、山唐さんが真面目な顔で言うものだから冗談なのかどうなのかわからなかったのだった。


ーーーーー

次の更新は13日(火)です。1600万PV記念SSは何を書きましょうかね~。


「山暮らし~」3巻の発売は7/10ですよーい♪ 待ち遠しいですね~

https://kadokawabooks.jp/product/yamagurashi/322304001296.html

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