第2話 有馬家の日常

 

 俺は母さんをじっと見つめて、こう言った。


「母さん……、妊娠にんしんしてたの?」

「ぷっ、違う、違う。糸愛しあはロナウドの連れ子で、私が産んだんじゃないの」


 けらけらと笑う母さんにキレそうになったが、今は止めておこうと一旦冷静になって考える。


 つまり、血はつながっていない。

 その事実にほっとしたような、どこかがっかりしたような、複雑な気持ちになった。


 そしてどうやら、新しい旦那だんなは「ロナウド」という名前の男で、妹は「糸愛しあ」というらしい。初情報だ。


としは? いくつなの?」

「日本でいうところの中学生かな」

「そんなに大きいんだ……」


 自分とそんなに変わらない年代の、外国人の妹が突然できてしまった。少しショックだが、そんなに動揺どうようはしていなかった。

 何故かって?

 普通ならあせったり心配するところだが、俺には何も関係ないからだ。

 だって俺は日本で1人暮らし、妹はアフリカで母さん達と暮らしている。

 ビデオ通話ぐらいはするかもしれないが、同じ屋根の下で暮らしてはいないのだ。

 自分のテリトリーをおびやかされる危険性がこれっぽっちもない!

 

 素晴らしきかな、1人暮らし!!


 この時ばかりは、ぼっちに感謝した。

 母さんは画面ごしに、俺の顔をうかがっている。


「勇生、怒った?」


 年齢よりもずっと若く見える母さんにため息が出たが、まゆ八の字に下げ冷静に答える。


「怒ってないよ。こんな事で母さんに怒ってたら、きりがないからね」


 母さんのとんでも行動や発言は日常茶飯事にちじょうさはんじ。これが有馬家の通常運転だ。

 こんな事で騒いでいては、心臓がいくつあってもりない。「だって母さんだから」という一言で大抵の事は許されてしまうのだ。

 本当にずるいよな。


「で、なんで今さらそんな話しをしたの? そっちで何かあったんでしょ?」


 母さんの事だから俺に一生言わないという選択肢もあったはずなのに、このタイミングで話したということは、あちらで何か想定外の事態が起こってしまったのだと容易よういに推測出来た。


「そうなのよー、本当に勇生は察しが良くて助かるわ!」


 興奮したように母さんの顔が画面に近づいて来た。近い、近い。


糸愛しあなんだけど、1人で日本に行っちゃったみたいなのよー」

「日本に? 目的は?」

「んーー……、多分勇生に会いに行ったんじゃないかしら」

「俺に!?」


 何故存在も知らなかった妹が、俺に会いに遠く離れた日本にやって来るのか。

 まったく検討けんとうがつかず、首をかしげた。


 単純に考えて兄に会いたいから?

 1度も会った事がない兄に、そこまでするだろうか?

 

 とりあえず、ご飯やら寝具やらの心配をした。

 何が食べれるんだろう。

 新しい歯ブラシやシーツも用意しないといけない。

 中学生の女の子って何が好きなのかな?

 やっぱり甘いもの? 

 可愛い小物なんかも買っておくべきだろうか?


 ーーーーはっ!!


 これではまるで、妹が来るのをわくわくしているみたいじゃないか。

 みたいではなく、実際俺は浮かれいた。

 その事実に少し、恥ずかしくなる。


 だって嬉しいじゃないか。

 ずっと1人だと思っていた俺に、妹ができたなんてさ……。


 おそらくだが、俺に会いたいというのは口実こうじつで日本で数日遊びたいだけなのだろう。遊びざかりの女の子だしね。それでも、俺に会いに来てくれる事は嬉しかった。


「じゃあ、そういう事だから。後の事は、よろしくね勇生」


 ちゅっ、と投げキッスをしたご機嫌な母さんはビデオ通話を切ってしまい、画面から消えてしまった。


 突然の事が2度も起こったが、俺はいたって落ち着いていた。

 

 だって母さんだから!!


 それよりも今は、妹が来た時に備えて色々と買いに行かなくてはと、買い物袋をカバンに入れ玄関へ向かった。

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アフリカのサバンナからやって来た義妹は金髪美少女の野生児で俺のお嫁さんになると言っている 能海 春火 @haruhinoumi

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