ライブハウスで会える推し

結騎 了

#365日ショートショート 064

 今日も私は、推しに会うためにライブハウスに来た。実は昨日も来た。推しに会うためだったら、辛い仕事だって頑張れる。

 あなたを推すようになって、もう半年くらいかな。ステージと客席っていう距離はあったけど、びびっ!と、視線があったんだよね。あの時のことは忘れない。誰よりも情熱的な目で、私を真っすぐ見てくれた。そこからはもう、周りに何人いようと、あなただけしか見えなくなった。あなたが手を振り、飛び跳ねる。小さな体でこれでもかって、感情を伝えようとする。その動き全てにくぎづけになった。ああ、なんて眩しいんだろう。あんなに可愛らしいのに、あんなにたくましい。華奢だけど、とってもパワフル。あなたがくれる元気が、私の生きる糧。

 だから会えない日は寂しくなる。あなたのことを思いながら、ただひたすら仕事を頑張る。実はこの前、同僚と揉めてしまった。私が出しゃばりすぎだと面と向かって文句を言われた。ごめんね、でも仕方がないの。あなたのことを考えている最中だったから、つい、体の奥底からみなぎってきて……。自分でもびっくりするくらい、積極的になっちゃった。

 あなたとは、ライブ終わりの握手会の時だけ、触れ合うことができる。緊張している私の手を勢いよく掴んで、真っすぐに見つめてくれて。いつもありがとうって。その感謝の言葉が全身に染みわたる。うんん、お礼を言うのは私の方だよ。何度だって言うよ、あなたがいるから、頑張れるの。

 さあ、そろそろ幕が開く。いつも最前列でサイリウムを持っているあなたに向けて、今日も全力で踊るわ。

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