推し活屋谷ちゃん

闇谷 紅

串カツ屋じゃないよ、推し活屋だよ


「最初は何かの冗談か誤植なんじゃないかと思ったわけだが」


 スマホの画面にはしっかりと推し活屋谷ちゃんの文字の下に各種推し活取り揃えておりますといううたい文句と簡易な地図が表示されている。


「なんかシンプルなホームページだな。いや、シンプルでもホームページがあることを驚くべきか」


 エイプリルフールのネタかとも疑うが、今は三月。その線は薄く。


「何だかもうすでに誰かに担がれてる気がする……」


 ロクに評価ポイントを貰えないアマチュア作家だからって、たまにはエッセイだのその他だののジャンルに手を出そうと浅はかに考えてそのネタを探し始めた時点で失敗だったのか。


「見つけた瞬間は『これだ』って思えたのにな」


 まだ件の店のシルエットすら見ていないというのに、不安のせいかどうにも独り言が多くなる。


「この道を三つ先の交差点までまっすぐ、その先のY字路を左に……こう、やや田舎よりの地方都市って感じだが、町はずれに向かう訳でもなし」


 本当にこんなところにそんな妙な店があるのかと心の中の自分が問いかけてくる。私は知るかよと投げやりに頭を振って。一つ、また一つと交差点を通り過ぎ、ただ歩いてゆく。Y字路は思ったよりすぐだった。


「あ」


 Y字路を曲がると、遠くに看板らしきものが見えた。


「琴教室……いや、まぁ、他のなにかが全くないってわけじゃないからな」


 看板が出ていたのは民家だが、住んでる人が琴を演奏してる人だったりするのだろう。私も個人経営している習字教室とかに通っていたことがあったが、あれも民家だった。


「うん?」


 だが、琴教室の前を何とも言えない気持ちで通り過ぎて歩くこと暫し、また看板が見えてきたのだ。


「『推し活屋谷ちゃん』……まさか、本当に存在していたのか」


 二度目の肩透かしなどということはなく、はっきり目的の店名を目にしたことで、気持ち歩みが早くなる。


「思わずこうして探してしまうぐらいなんだ。ネタにすれば私の書いたものもきっと注目を集める筈」


 期待に胸を膨らませ、看板の側にある建物へ向かってゆく。見た目は民家に近い。だが、ドアは曇りガラスの窓が付いた個人経営のお店とかで見かけるタイプで、ドアには何やら張り紙が張ってある。


「ご愛顧ありがとうございました。『推し活屋谷ちゃん』は三月一日をもって営業を終了いたします……」


 読み上げるまでもない。閉店してた。


「『けど、推し活屋』なんて冒険をした店長の僕、谷ちゃんのことはこれからも応援して欲しい。君たちの推し活があれば僕はまだ戦える』ってお前が推し活してほしいのかよ?!」


 本当に意味が分からない。私は何故わざわざここまで来たというのだろう。ツッコミを入れて思わず空を仰いだ。


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推し活屋谷ちゃん 闇谷 紅 @yamitanikou

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