短編63話 数ある僕の最推し美術女子
帝王Tsuyamasama
短編63話 数ある僕の最推し女子
「うまい! これうまいよ! めっちゃうまい! ごはんおかわり!」
「はいっ」
僕は今、思いっきり食事中だ。特にこのキャベツとベーコンを、ごま油としょうゆでじっくり炒めたって聞いたこれ! しんなりしてて食べやすいこれ!
でもこの特別なおかずに限らず、いつもの食事とは全然違う要素がある。いや、見た目では普通の食事の光景に見えるかもしれない。ではどう違うのかというと……
「ありがと! これむぐ、ごはんともぐ、ひっひょにんぐ、はべるはめの」
「ゆっくり食べていいよ?」
「ごちそうさまでした!」
「今まででいちばん食べたかもしれないね?」
今日の弥美ちゃんは、赤色がベースなチェック柄の服を着ている。テーブルで今は見えないけど、淡いピンクのスカートも装備。
髪は肩にかかるくらい。白いヘアバンドをしている。プラスチックのじゃなく、白い布で。
「そうかも! 特に白ごはんの量っ」
「うんうん。炊飯器からっぽ。炊かなきゃ」
……僕はまぁ、白い長そででポケット付きな厚手のシャツと、ジーパンだけど。
「ぼ、僕も手伝うよ!」
「じゃあ一緒に炊こっかっ」
弥美ちゃんは立ち上がり、自分が食べた後の食器を持った。僕もそれに合わせて立ち上がりながら、青い茶碗と白い皿、こげ茶色のはしは皿に乗せて持った。
「『
「前に作ったとき、お父さんもいっぱい食べていたなぁ」
僕たちは横に並んでしゃがみ、僕は茶色い紙製の大きな米袋から、計量カップを使って精米されたお米をすくった。すりきり一杯分計って、弥美ちゃんが両手で持つ炊飯器の釜にじゃら~っ。
この一合分の計量カップは、180
……ところで。なんで僕は弥美ちゃんのおうちで、こうして二人でごはんを食べていたのかというと………………
(……おなかすいたって言ったら、作ってくれちゃうんだもん!)
弥美ちゃんとは小学校のころからの友達。こうして休みの日も遊ぶ仲。いや、ただの友達じゃないかも。
(い、弥美ちゃんがどう思っているかは、わからないとしてっ)
僕は実は! 弥美ちゃんのことが
普通は、アイドルやアニメのキャラクターとかで使うみたいだけど……そんなみんなの
(僕の最推しは、弥美ちゃん!)
まぁその、弥美ちゃんは別にアイドル活動とかをしているわけじゃないから、これはあくまで僕の心の中で~って感じだけど……でも、小学校のころからの思い出を振り返ったら、やっぱりこれは推しているんじゃないかな!? って思ったんだ。
弥美ちゃんは、小学校のときはアートクラブ、中学校でも美術部に所属しているんだ。
あれは忘れもしない。小学校では一年に一度、図工で作った絵が学校の体育館を使って展示された学童展。小学一年のとき、あの笑顔の女の子が描かれた絵を見たとき、
(楽しい!)
って。名前を見て弥美ちゃんのことだとわかったら、次の日の朝、僕は弥美ちゃんに友達になってくださいとお願いしにいった。
すんごく明るく、いいよって言ってくれたあの笑顔は、今でも変わらず弥美ちゃんの象徴。
同時に、いちばんあの絵が楽しかった(というセリフだったと思う)って感想も伝えたら、ありがとうって笑ってくれた。やはりこのありがとうの声のトーンも、弥美ちゃんの象徴。
二年三年四年~と時間が過ぎていっても、いつも学童展では笑顔の人の絵を描いていた。
(……僕? 車とか恐竜とか宇宙用戦闘機とかだったかな)
中学校になると、
体育祭に使う応援旗のデザインを、全員ひとつずつ美術の時間で描いて、後日デザインの投票を行う、という企画もあった。当然、弥美ちゃんに一票入れた。
たくさんの体操服装備の人たちが、笑顔で応援している絵だった。
文化祭でも美術部では投票コーナーがあって。展示されている絵の番号を書いて投票箱に入れると、抽選でその絵が当たる~というもの。
黄色い額縁を買って、部屋の勉強机の上辺りの壁に飾ってる。それが当選結果。
薄い水色の服の女の子が、麦わら帽子に手を添えて、笑顔で空を見上げている絵だった。
……とまぁ、推し活って、つまりこういうことだよね!? 実は一応、グッズ販売の予定は? って聞いたら、ないって笑いながら言われた。残念。
もちろん今年も文化祭では投票しちゃう。
……ほんとはさ。そういう投票しているところとかを(特に同級生とかに)見られるのって、ちょっと恥ずかしいところもある。後でなんかひじでうりうりされるんじゃないかとどきどき。
でも! それでも僕は! 弥美ちゃんを推していきたい!
「ん? なに?」
「へぁ?」
改めて弥美ちゃんを見たけど、この距離結構近い!
「お米、こぼれちゃうよ?」
「あぁあ、うんっ」
僕は気を取り直して、お米をまた一合、弥美ちゃんが持つ釜の中へ、しっかりとじゃら~。
今度は薄い緑色の大きなソファーで、横に並んで座った。ガラスのコップにりんごジュースをついでくれた。これもおいしい。
テレビをつけるでもなく。なにかボードゲームを出すでもなく。庭から見える外の景色を、一緒に眺めているだけ。
(……あの絵も。あのごはんも。津山スペシャルも。みんなこの弥美ちゃんが、作ったものなんだ)
改めて、何かを作ることって、すごいことな気がしてきた。だって弥美ちゃんがいなかったら、これまでのいろんな感動がなかったんだもの。
(なんとかして、この僕の『弥美ちゃんいてくれたから感動ありがとう』想いを、伝えられないだろうか……)
だってなんか、いつも弥美ちゃんからはもらってばかりで、僕からはなにもしてあげられていない気がするから。
でも残念ながら僕は、絵も料理も弥美ちゃんのようにはうまくできない。
(はぁ……僕はだめだなぁ)
なにか弥美ちゃんのためになるようなこと、したいな。でも僕に何ができるんだろう。
「有雪くん」
「ぅわわ、なにっ?!」
ちょっとだけ目が点な感じだったけど、すぐにいつもの弥美スマイルへ戻った。つい弥美ちゃんのこととなると、いっぱい考えちゃう。
「……えへ、なんかぼーっとしているだけなのに、楽しいなって思っちゃって」
「あ、うんうん!」
ええそうですともそうですとも! すっごく楽しいよ弥美ちゃんの横にいられること!
「うぅ~んっ。やっぱり有雪くんと遊ぶのが、いちばんリラックスできるかも~」
と、両腕を上げて伸びをしながらそんなことを言ってくれた。
「普段リラックスできてない?」
「ああううん、そこまででもないけど。でもやっぱり、いちばんのんびりできるかな、有雪くんといると」
いいのだろうか? 僕うれしすぎて窓ガラス突き破りそうだよ?
「一人でいるより?」
「一人でいたら、いろいろ考えちゃうの。筆とか紙とか見たら、部活のこと考えちゃうし」
「なるほど……」
伸びを終えた弥美ちゃんは、指先を軽く組んで下ろした。
「だから、また一緒に遊んでほしいなっ」
それは……そんなのもちろんっ。
「ぼ、僕の方こそ! もう一生だって弥美ちゃんと遊び続けられちゃうよ!」
「そんなにもっ? でもありがとうっ。私も有雪くんとなら、ずーっと遊んでいられちゃいそうっ」
(ああ……もうその笑顔……)
最推しにして最好きな存在、弥美ちゃん。
二人っきりでいられる時間は、僕の人生で最高に幸せな瞬間だっ。
(……とか、言いたい気もするし、言ったら言ったで大げさに思われちゃうかもしれないし)
まあでも、言うだけなら…………
「僕の人生は、笑顔の弥美ちゃんとの幸せな時間で、作られているよ」
(……あれ? なんか間違っちゃった? でもだいたい合ってるよね!?)
僕は思ったことを、正直に弥美ちゃんに言った。僕のうれしい気持ちを伝えたかった。
(…………あれ?)
一瞬、時間操作を習得したかと思ったけど、弥美ちゃんがにこっとしてくれたので、時は止まっていなかった模様。
「……ありがとうっ。私も、有雪くんと一緒に過ごす時間……大好き」
(ズキュゥウーンッ!!)
だ、だっ、だっ…………え、ええっ?!
「もちろん、有雪くんのことも……好き、だよ」
(ズキュバキュドシュゥーンッ!!)
そんな、まっすぐこっちを見て、そんな、そそんなっ
「ぼ、僕も、好き。弥美ちゃんのこと、最推しなくらい好き」
「さ、さいおし?」
「ぁああえっと大好き、だれよりもいちばん、超」
またにこにこしてくれた弥美ちゃん。もっかいごはんおかわりできるや。
「……えへ。なんだろね、これっ。いっぱいいっぱい……ありがとうっ」
「えああっ?!」
なんと! なななんと! あの弥美ちゃんが! 推しすぎる弥美ちゃんが! ぼ、僕に向かってだだだ抱きだ抱きだだだだ
(ちょ強い強い強い!)
痛いとかはないけどそんな腕がっちり僕の背中まで回してそんな弥美ちゃそんなそんなっ
「有雪くんは……いつも私のことを気にかけてくれて。優しいし、楽しいし、なんていうか……私にとっても、有雪くんが元気の源! って感じ、なのかなぁ」
そんな僕の顔の真横でぁあぁぁぁっ
「ぼ、僕なんか、弥美ちゃんなしじゃ生きられないよ」
「そんなにもっ?」
「ああ、うん、ほんと。これはほんとだから……」
ってだからなんでまた一段と腕に力込めてるのってばあっ! 顔もくっつけてきてるしぃ!
「じゃあ……」
ほっ、顔は離してくれた。でも僕のどきどきはまったく収まっていない! だめだ!
「……ずっとそばに…………いたいなっ」
「ふぇっ」
顔が離れたはずの弥美ちゃんなのに、僕の右ほっぺたに……これ…………
「…………やっぱりいいなあ、有雪くん。ずーっとくっついてたいなっ」
「それ僕の心臓もたないよ!!」
ってだからすでに最推しカンストしてるんですってばーっ!!
短編63話 数ある僕の最推し美術女子 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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