第13話 「もう夏も終わりかぁ」って思います!
建物の建築が始まってから数日が経過し、救世たちは新しい世界での生活をそれなりに楽しく過ごしていた。
優斗が開けた洞窟からはたまに鉱石の欠片が出て、ついには山を貫通して果物の森へと繋がった。おかげで果物狩りに今までより楽に行くことができるようになったのだった。
いやぁ、みんな頼もしい……。よいクラスメイトを持ったなぁ……。
「そんなわけで!」
「お前、誰に向かって喋ってんの? ぼっちくんなの? それに、クラス担任みたいなこと言ってるし。言っとくが、俺はお前の下についた覚えはないからな!!」
「……」
唾を飛ばしながら人差し指をこちらに向けているのは、我らが隊長、
「いや、俺も自分から学級会の司会者になった覚えはないからな!?」
救世も負けじと迫力のある絵柄で言い返す。
「それはドンマイだ。救世」
そう救世に慰めの言葉を言い、毅はこの場を立ち去った。
その背中を見届けながら、救世は言う。
「そんなわけで、今日は我々のハウス第1号の完成日です……」
教室から出てすぐ目の前、山の崖を削って無理やり作ったスペースに建てられた建築物。これこそが、建築家土山によって設計と建築された我々のハウス第1号「
「おお! すげぇー!」
「だろ!」
救世が声を上げると、土山が嬉しそうに言う。
「啓太と頑張ったんだぞ〜」
救世は玄関を開けて中へ入っていく。後ろからいつの間にか着いてきていたクラスメイトたちが続いて入ってくる。
「おお〜」
土台以外は基本的に木造で、所々に洗練された石の細工がしてあり、強度や設備を整えている。1階建ての全6部屋で、入って右側が男子部屋、左が女子部屋である。
下駄箱に靴を入れて男子部屋の一室に入ると、そこそこに広く、寮より少し大きいくらいだった。
まぁ、正直ここに5人住むって考えると狭い気もするが、これに限ってはしょうがない。
「さりげなく窓もついてるし」
「ああ、それは砂を燃やした」
「そんな簡単そうに言って……」
某クラフトみたいな……。実際、めっちゃ苦戦しただろ……。
「次は一人一部屋で二階建てのを作ろうって土山が計画してるみたいだ」
啓太が言うと、土山は頭の後ろを掻いて言う。
「まぁ、狭いと思うけど、しばらく辛抱してくれ」
「まじか! 楽しみにしてるぜ!」
「おう」
拳を握って、土山が元気に返事をした。
救世は荷物を移動させるため、一家の外に出た。すると、爽やかな風が頬を撫でる。
「もう夏も終わりかぁ」
涼し気な風に心地良さを覚えながら、その場で立ち止まる。
ひとしきり涼んでから、救世は教室へ入っていった。
時はすぎ、満月の登る頃。救世たちは新居でくつろいでいた。
「いや〜新居さいこー!」
床で寝っ転がってそう叫ぶのは高村:琉緯だ。その横で壁にもたれているのが眠月だ。
「学級長ーあんま暴れるなよー。お前が寝相悪いのは経験済みだからな……」
「あれは確かにひどかったよね」
眠月の反対側の壁にもたれて座る田中:陽太が笑いながら朗らかに言う。
「そうだったんですか?」
ドアの近くに布団を敷いていた優斗が訊くと、眠月が言う。
「そっか、優斗と陽太は救世と俺が壁になってたから被害受けてなかったんだな!」
「なにげに修学旅行の宿メンバーなの草だな」
立てた膝に腕を乗せて座っている救世が言うと、眠月がさりげなく敷かれていた布団を指さす。
「てか優斗、それどうしたん」
「ああ、これですか。ダークウルフの毛を使って作ってみました。玄関に置いてありますよ」
「まじか! 救世、取りにいこうぜ」
「ういよ」
救世が立ち上がると、高村が上半身を起こす。
「俺は荷物整理してから取りにいこうかな」
「じゃあ俺も」
陽太が言い、救世と眠月は部屋を出る。
廊下を眠月の背を追いながら歩くと、少し冷たい木の床の温度を感じる。
「すっかり夜も涼しくなってきたなー」
「そうだなー」
眠月と玄関に着くと、2人は下駄箱の横に積まれている布団を見つけた。
「お、これじゃね?」
救世が言うと、眠月が布団を取りに向かう。
「? ここ、床暖でも入ってんのか? なんか暖かいぞ」
「誰か取りに来てたのかもよ。なんかスパイみたいなこと言うが」
「犯人はまだ近くにいる……みたいなやつな。わかるわかる」
言って、眠月が布団を取ろうとする。
「うわっ!?」
なにか生暖かい風を首に受けて、眠月は飛び上がる。
「救世、びっくりするからやめろよー」
「え? なんのことだ?」
「だって今、首元に息吹きかけたろ?」
言って眠月が振り返ると、救世は廊下に立っていて、眠月とは少し距離があった。
「?」
眠月が首を傾げる。救世はなんとなく外を見ると言う。
「んー外で焚き火でもしてんじゃない?」
2人は靴を出して玄関に置くと、女子部屋の方から彩羽と美里が来た。
「あ、救世くんたちだ」
「ん、やっほ」
2人とも既に着替えたようでジャージだ。ちなみに救世たちはまだTシャツを着ている。
「どこかいくのか?」
「外で焚き火でもしてんのかなと思って見に行くとこ」
彩羽に言うと、2人も靴を出し、4人で一緒に外へ出た。
すっかり暗くなってしまった外は、松明で所々が照らされ、一家の窓からは部屋に吊るされた豆電球の明かりが漏れている。
「焚き火、着いてるな」
眠月が焚き火近くの石椅子に座って言う。
「誰か焚いたのか?」
救世は眠月に近づこうと歩き始めると、
コンコンコン……
と石の上を歩く音が背後から聞こえた。
「ひっ」
救世が振り返ると、美里が少し下がって彩羽の後ろへ、彩羽は少し前に出ていた。
「うわっと!」
「ひいやっ……と?」
美里が悲鳴を上げそうになったところで、かわいらしい掛け声に違和感を覚える。
「おっとっと、バランス崩しちゃった」
「大丈夫ー? 足くじいてないー?」
仲良く会話をする小さな女の子2人。
「又羽と又異か……おどかすなよなー」
上下姉妹だった。
「えー! 救世たちびっくりしたー?」
「びっくりしたー! やったー!」
どうやら最初からおどかすつもりだったらしい。ほっと息をはいていると、ふふふと笑い声が聞こえてくる。
「2人ともいつまで笑って……」
美里が顔を上げると、正面にはキョトンとした双子姉妹の顔が並ぶ。
「?」
美里は救世や彩羽を見るが、笑っている者はいない。
バタン!!
「!?」
「なんだ!?」
救世が声を上げ、音のした方を振り向くと、そこには倒れたムキムキマッチョ象が一体。
「なんだ倒れただけか」
ほっと息をつく眠月。果たしてなぜ倒れたのだろうか。ムキムキマッチョ象には台座が付いているのだが……。
「取り敢えず元に戻そう」
彩羽が言って、像に近づいていく。像を持ち上げようとしゃがむ。
バタバタダンダン!!
「ふぁ!?」
突如、ムキムキマッチョ像が動いて自分で起立した。
「た……立ったぞ」
「うそ……なんで石像が動いてるの……?」
流石の眠月も石椅子から立ち、美里が後ずさる。
「そ、そういえば、ピグリングレートの襲撃のときもこいつら動いてたよな……」
「は?」
救世が言うと、眠月が驚いた顔で救世を見る。
「石像が動く訳ないだろ……ガーゴイルでもあるまいし」
「眠月……お前よくガーゴイルなんて知ってるな……俺は出てこなかったよ……」
「ふっ……救世もまだまだだな……」
ザザッ!
そんな意味不な会話を眠月としている間に、ムキムキマッチョ像「怪」が動いた。
さきほどキャラに似合わずかわいらしい悲鳴を上げた(余計)彩羽もじりじりと下がる。
「だっ……お、お前! あの時、岩運んでくれてありがとな!」
近づいてくる石像に対して急に感謝を述べる救世。その言葉に石像は一瞬動きを止めると……
「うわーーーーーー!」
「「「「うわー!?」」」」
石像と一同は叫んだ。双子姉妹を除いて。
石像のからは子供の笑い声が聞こえていた。
「おお〜石像さん、久しぶり〜」
「石飛ばした以来だね〜久しぶり〜」
双子が言うと、石像は直立する。すると、石像の中からぬっと子供が出てきた。
「ゆ、幽霊!?」
眠月が声を上げると、そのキョンシーのような着物のような服を着た子供が喋り出す。
「お兄さんたち面白いね〜。もっと遊ぼーよ!」
「そうそう〜ぼくたちと遊ぼ〜」
「わたしたちとも〜」
すると、次々と周りから子供たちが現れる。
「ガチで幽霊なのかぁ……?」
救世が言うと、周りの子供たちが囁き合い始める。
「ゆうれい? アンデットのことかな〜?」
「精霊のことかもよ〜」
「ぼくたちは〜」
すると、石像から出てきた子供が答える。
「妖怪族だよ〜」
「やっぱ幽霊の類じゃねぇか!!」
「ショタにロリ……だと!?」
「おーっと、救世さんー今それ言うー?」
手を顎に添え、鑑定した救世は「完璧だっ!」といってこちらを見た。どうやら救世の基準では満点らしい。
「ふふふ。お兄さんたち不思議な単語使うけど面白いね〜」
「お姉さんたちも面白かったよ〜」
「気に入った〜! ここいいね〜!」
こうして、謎に出会った妖怪族と名乗る子供たちに救世たちは気に入られた。
「そういや、結局アンデットなの? 精霊なの?」
「妖怪族〜!」
「は、はぁ……」
さすがの眠月もこれ以上は追求できそうに無かった。
「あ〜でも〜」
「来てるよ〜」
「え、なにが?」
嫌な予感がして周りを見る。
「誰かー! そいつ止めて」
そう言って門に立つのは小沢:香奈。
そして、上空に見えたのは、所々が切り裂かれた巨大な蜘蛛だった。
「ガチモンのアンデット来たぁあああ!!!」
「おいお前、これは一体どういうことだ」
「あー……解剖してたらなんか動き出した」
蜘蛛のアンデットはなんとか彩羽が倒し、救世は香奈に尋問をしていた。が、尋問というほど尋問でもなく終わった。
「ガチ焦った……」
倒した蜘蛛は香奈に返却され、香奈は解剖を再開した。
妖怪族はうろちょろして遊んでるし、突然の蜘蛛の襲撃も防いでひと段落したので、救世が一家に入ろうとしたとき、彩羽に声を掛けられた。
「なあ、救世」
「な、なんだ……彩羽」
まさかあの事かと思ったが、彩羽から出た言葉は全く別の、なんてことない日常的な話題だった。
「なんか、肌寒くないか?」
「まぁ、もう夏も終わりだしな」
それだけ言って、俺は一家の部屋に戻った。それから布団の有り難さを噛み締めてその日は眠った。
ー作者よりー
次回、第1章最終話です……! ここまで読み進めてくれた読者様に感謝を! あと、更新遅くなってごめんなさい!!!!!
長めの物語にしようと思っているので是非、フォローお願いします! この作品が少しでも面白い! 他の人にお勧めしたい! と思っていただけましたら、星and応援andレビューをして頂けると嬉しいです!
今後も二階の守人をよろしくお願いいたします!!✨
異世界召喚されたクラスメイトの皆さんは! 二階の守人 @nikainomoribito
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