第12話 満開の桜……でもって万年の桜がでました。後半

桜だ。いや、サクラだろうか。カタカナの方が割としっくりくる。

場所は教室の横、お風呂側の崖にある、少しなだらかになったところだ。


「今さっきまでこんなんなかったよな……」


「それは確かだぜ、ご主人。さっきまでこんな――」


ウォジェルは言いながら目の前に反り立つ大木を見上げる。


「満開のサクラなんてなかった」


突如として地面から生えてきた……いや、出てきた巨大なサクラの木。

なんでそう思うのかと言われれば、勘でしかないが。


「でもまぁ、なんであれ、綺麗だな」


花びらが舞う中で、救世はサクラの大樹を眺めながら一周して教室の方へ向かい始めた。


「え? ご主人、帰るの?」


「ま、なんかあれば、そのときになんとかするさ」


そうして、ウォジェルもその場から立ち去った。

それから時は流れ、夕方。


「なんでサクラが光ってるん?」


「知らねぇよ」


救世の言葉に眠月が突っ込む。

2人は教室の上に登って、沈む夕日を横目に仄かに光る大樹のサクラを見ていた。

救世の隣にはウォジェルも座っていた。

少し遠い場所から見ると、草原と立ちこみ始めた夜闇と合ってなんとまあ絶景なことだ。


「花だけじゃなくて幹もちょっと光ってるな」


「説明どうもありがとう」


コンクリートの床に手をつきながら、救世はサクラから目を離し、淡く橙色に輝く地平線を眺めた。


「救世さーん! 狩り班が戻って来ましたよー!」


「お、やっと帰ってきたか」


救世は立ち上がってはしごを降り、優斗のところへ向かった。入口近くでは帰ってきた狩り班が獲物を担ぎながら入ってきていた。


「お疲れー。お、ダークウルフか」


すると、美里が救世に気づいて向かい合う。


「ほとんど勝人さんがやってくれたけどね」


「いや、今回はみんなにも協力してもらいましたよ。その一体はみなさんの獲物です」


ほほう、なるほど。戦い方を教えることもしていたのか……。やるじゃないかね。勝人くん。

謎に上から目線なことを心の中で呟く救世。もちろんふざけている。


「少し暗くなってきましたね」


優斗が言って、救世は空を仰ぐ。


「そうだなあ……」


日は既に地平線の向こうへと沈み、焚き火もまだしていないので辺りは暗い。


「ではここで1つ、披露をしましょうか」


優斗は何やら壁に近ずき、そこに設置された白いボックスのスイッチをカチッと入れた。

すると、いつの間にか所々に設置されていた電球がパッとオレンジ色の明かりを灯す。


「おお! 明かりだ!」


電子的な明かり見て、クラスメイトが歓喜をあげる。


「豆電球か?」


「そうですね。まだ小さいものしかできてませんが」


「なるほどな。ありがとな、優斗。本当、お前がいると助かるぜ」


珍しい救世の正直な褒めに、優斗は少し驚きながらも


「どういたしまして」


と答えた。


「あ、そういえば、救世ー。果物の森でこんなもの見つけたぞー」


果物回収班の烈花がなにやらカバンの中を探りながら救世の近くまでやってくる。


「ん」


「ん?」


差し出されたのはなにやら赤い果実。見た目は元の世界で言うピーマンのような……。


「もしかしてこれ、唐辛子か?」


「ご名答! 試しに食べてみるかい?」


「いいのか?」


烈花が頷くので、救世はその赤い果物をひと齧りした。


「!?」


「どう?」


「うまい」


親指を立ててそう口にする救世。


「いや待てぃ!?」


「ん?」


もぐもぐしながら振り返ると、そこには毅がいた。


「うまいかどうかの前にもっと言うことがあるだろうがあ!」


明かりのお陰で、若干、毅の目が赤く腫れていることに気づいた。


「ああ。辛いな。普通の唐辛子よりも」


「そうだろう! そうだろう! そのトウガラシは辛さが異常なんです!」


たぶん毅も食べたのだろう。


「烈花もだが、なんでそれ丸齧りして平気でいられんだよ」


「もし、烈花も辛いもの好きだったのか」


「ふん」


同じくトウガラシなるものを丸齧りしながら烈花は親指を立てる。


「辛いもの好きが俺の人智を超えている……」


諦めたのか毅は肩を落とした。


「まぁ、さすがにこのままだとあんまりだけどな」


それからいつもの流れで火を焚き、救世は石の椅子に座る。


「石焼だが勘弁してくれ」


取り出したのは石でできた普通よりも広いフライパン。なるべく底は薄く作ってある。もちろん啓太と土山の制作物だ。

美里の支援魔法で強化した火でフライパンを炙り、十分温まったところに切ったウルフの肉とトウガラシを入れる。

ちなみにだが、強化した火は燃焼物の消費が早いので、せかせかと木の枝を入れる人たちも存在する。熱伝導率が悪い石なので、火力は鉄の倍くらい必要かもだが、しょうがない。


「さて、そろそろかな」


いい感じに焦げ目がついたところで、救世が言うと、優斗がやってくる。


「実は山から岩塩が取れたのですが使いますか?」


「まじ!? もちろんさ!」


ということで石ハンマーで砕いた岩塩をフライパンへ投入する。


「できたぞ! ウルフの肉とトウガラシの炒め物!」


『おおー!』


クラスメイトから歓声があがり、みんなは順番にフライパンから自分の皿に炒め物を取っていく。


「いただきまーす」


なぜかクラスを代表して炒めた感じはあるものの、一応救世にも炒め物くらいはできるので結果良かった。

救世が炒め物を食べていると、ふと近づいてくる影があった。


「あ……そういえばなんですけど、森を抜けた先に海が、ありましたよ」


そう話しかけてきたのは風月:夜見だ。

メガネをかけ、全体的に長い髪で、前髪も長いので表情が見えづらく感情が読み取りにくい。大人しいながらも清楚な雰囲気を持っている、というのが救世のイメージだった。


「ほう。まじか」


「はい。みなさん、伝えるのを忘れているようですなので、いちおう……」


人と話すときに俯き気味になるのはなぜだろうと思いながら、救世はお礼を述べる。


「そうなのか。ありがとう」


「はい」


言って、夜見は教室の方へ歩いて行った。

見えなくなってから気づいた。


「あれ? あいつ、お皿持ってたか?」

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