第11話 満開の桜……でもって万年の桜がでました。前半
朝だ。
朝だった。
あの後、特に何もなく朝を迎えた。
従魔に轢かれて意識を失い、頭にデカいたんこぶを作ったことと、毅が自分の妹にボコられたこと以外は。
「おはようございます……」
「おっはー!」
『おはようございますー』
今日も今日とて黒板の前に立った救世がウォジェルと共に挨拶をすると、そうみんなから返ってきた。
「今回はですね……。みなさんに訊きたいことがあります。それは、いま、我々に足りていないものです」
昨日の夜からズキズキと訴えてくる頭の痛みを無視して、俺は続ける。
「まぁ、黒板に書いてくんでどんどん言ってってください」
そう言って、俺は黒板の方を向き、思いっきり顔をしかめる。
どうしようめっちゃ気まずい~~~!
詳細は語らないぞ。思い出すと色々と危ないからな。主に命が。
「まずはやっぱ、電気だよなー」
言って、俺はチョークで黒板に「電気」と書いていく。
「あと、家も欲しいです」
陽太が言い、俺は書きながら言う。
「確かになー。この教室で全員が寝ると結構狭いもんな」
「電気」の下に続けて「家(町)」と書く。
「いっそのこと町まで作っちまおう。臨時で作ってもコスパもタイパも悪いしな」
クリエイティブなゲームもやっていた救世としては、一応の設備が整っている今、もっとちゃんとした設備を作り始めてもいいと思ったのだ。
「以上か?」
「もうないのかー?」
まだ二つしか書かれていない黒板を見てから、クラスメイトたちの方を向くと、特に他の意見はでなさそうだったので、俺は次の話題に移った。
「じゃあ、今日は班ごとに分担して色々やってもらおうと思う。まず果物を取ってくる班。次にモンスターを狩ってくる班。あと町の設計をする班。行きたい班に移動してくれ」
指を折りながら言い、教室を見渡すと、行動の実に速いこと。すでに三つの班に分かれていた。
「あ、うん。じゃあ、一班ずつ説明してくから待っててください?」
言うまでもなく、モンスター狩り班が一番人が少なかった。
そして、それぞれの班が作業を始めたころ、俺は、なにやら山の崖をじっくりと観察している世紀の天才、優斗へ声を掛けた。
「やあやあ」
「あ、救世さん。それにウォジェルさんも」
「おっす~」
「電気の開発頼むな。優斗」
「あ、はい。任せて下さい」
「ところで、なんでこんな教室の敷地内の崖なんて見てるんだ?」
俺も一緒にその崖を見て言う。ここはちょうど脱衣所やトイレに繋がっている廊下の突き当りで、入って正面の壁の先には風呂。左手には脱衣所やトイレがあり、右手に今見ている山の崖がある。
「ここ、少量ですが火薬が出ているんですよ」
「ほほう? あ、この黒い粉か」
「そうです。それで、ここを掘ってみようと思うのですが、いいですか?」
「お、おお。いいけど、掘れるのか?」
「はい。僕にはこれがありますので」
そう言って、優斗は右手に持っていた大賢者を開く。すると、その本の中から球体と周辺を浮遊する物体が出てくる。
「なるほどな。大賢者があれば穴くらい掘れるか」
「ちょっと下がっててくださいね」
「え、お、おう」
急に言われて、俺とウォジェルは脱衣所の入り口の方へ下がる。
「では、大賢者さん。よろしくお願いします」
優斗も少し下がってから言うと、浮遊していた球体が前に出る。その周りに浮遊していた物体が横向きになり、球体を中心に徐々に風を切り始める。
やがて浮遊していた物質が見えないくらいまで加速すると、崖に向かってゆっくりと進み始めた。
「さながらドリルのように」
「がががががっと」
崖が削られ始めた。
「なんだこれ、チートじゃねぇかあ!!」
「すごーーーーーーい!!」
鳴り響く轟音に負けないように声を張って言う救世とウォジェル。
「救世さんがくれたお陰です! ありがとうございます!!」
後から聞いた話によると、大賢者にはいろいろなスキルが入っており、それらを組み合わせてドリルを優斗が考案したそうだ。
こいつ、もう異世界の秩序に対応してきてやがる……。さすがだぜ、二人目のマイブラザー。
二人目だから。一人目はウチの犬。お前だから。だからそんなにほっぺをつねらないでくれ。
そうして、俺たちは教室へ向かった。中では町の設計班がノートを中心に丸くなって話し合っていた。
「どうだー調子は」
「やっほー」
言って、ノートを覗くと、そこには教室前の草原を中心に地図が書かれていた。
「ん、救世」
ここの班の班長は土山だ。どうやら彼は建築や都市建設に興味があるらしく、みんなの意見をまとめながら水道などがあるとして設計書をまとめていた。
「なるほどなるほど。家はマンション式で、前の草原に作るのか」
「そうだよ。あんまり作るのに時間がかかるといけないと思ってマンションみたいに一人一室で、技術的に二階が限界だから複数棟を作るつもり。向かい合ったところは道路にして、教室から水道を引く前提で設計してるんだ」
「水道は教室からなのか?」
「ああ。それなら」
すると、土山の横に座っていた啓太が説明を付け足す。
「優斗に相談したところ、教室の方が高い位置にあるから、できれば教室方面から水道が通るような設計にしてほしいって言われたからな」
「あー、なるほどね」
なかなかスムーズに話し合いは進んでいるらしく、俺は安心する。
「ああー! ウォジェル、ここに噴水あるといいと思う!」
「おおー? いいな! 作れそうだったらやってみるか!」
そこにウォジェルも参加し、啓太が答えた。ウォジェルの参加を受けて、町設計班のみんなは次々と意見を出していき、それをまとめて土山がノートに書いていく。
そんな平和な光景に、俺はふと笑みを零した。
「にしても、あちいな」
最近になって日の光が強くなってきている気がする。夜も、最初は涼しかったものの、段々と気温が上がってきているのを感じる。
今日はクラスメイトのほとんどがジャージを着ているが、半袖や、半ズボンの人もちらほらいる。
「体調管理ちゃんとしないとな……」
体力のない救世は恒例のごとく夏は熱中症で倒れるので、注意しなければならない。
「エアコンが欲しい……」
電気が開発できたらエアコンも付けられるのだろうか。
そんなことを考えながらふと俺は思い出す。
――そういや、今年、桜見てなくね?
陰キャではある救世だが、青春との関係を無視して、桜は綺麗なので毎年家の近くの桜並木を見に行っていた。
段々と熱くなっている今、春に咲く桜は散ってしまうのではないだろうか?
「あー、桜、見たかったなー」
半ば諦めながらぽつりと言う救世。
すると……。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「!? なんだ!?」
突如、鳴り始める地響きに、教室が揺れる。
これはまだこの世界の誰も知らない事実。
”地脈”が動き出した。
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