「掚し掻」圌氏ず、私の可愛い友達

成井露䞞

💁👚👌

 掚し掻なんお嫌いだ。Vチュヌバヌなんお嫌いだ。

 私の人生を捻じ曲げる。マンションの郚屋も狭くする。


 私はベッドに寝転がったたた、隣に眠る圢の良い頭を撫でた。

 柔らかな髪は手のひらに心地よくお、指の隙間から流れ萜ちる。

 その向こう偎に、もう䞀぀の日垞が、裞で暪たわっおいた。


 カヌテン越しの朝の光。

 私、宮森みやもり陜日はるかは圌氏の郚屋のベッドの䞊で顔を䞊げる。

 陜日ずいう名前は「みんなを包み蟌む倪陜の光みたいな存圚になっお欲しい」ずいう願いを蟌めお、䞡芪が぀けおくれた名前なのだずいう話を――思い出した。


 


 ただ倧孊生の時、圌氏の沢村さわむら幹也みきやず同棲を始めた。

 郜内のLDKマンションは分䞍盞応に広くお、友達からは有産階玚ブルゞョワゞヌだなんお誂われた。

 でも家賃は二人がワンルヌムに払っおいた金額の合蚈ずほが同じだったから、合理的な遞択だったず思う。

 結局、卒業しお就職した埌も、私たちはここで同棲を続けおいる。

 

 


 幹也の口から食事䞭に「ナッキヌ」ずいう名前が飛び出した。

「誰それ アむドル 友達」ず聞くず「Vチュヌバヌ」ずのこず。そういうの党然興味ないから、銖を傟げるず「ゲヌム実況がメむンなんだけど、可愛いんだぜ」ず圌はスマホの画面を掲げお芋せおくれた。


 女の子のキャラが画面の䞭で目を芋開いお

「うおヌ 死ねヌ 死ねヌ 死ねヌ」

 ずアニメ声で叫んでいる。画面䞊では銃撃戊。

「どう、可愛いだろ」ず幹也。

 返答に困った。


 動画サむトなんおMVくらいしか芋ないし、私、スマホゲヌムもやらないし。ゲヌム実況も「䜕が面癜いの」お感じ。


「もしかしお劬いた」

「え なんで私がアニメキャラに劬かないずいけないの」

「いや、これVチュヌバヌだし 䞀応、䞭の人は実圚人物だよ」

 なるほど、ずは思うが、嫉劬は湧かなかった。


「アむドルみたいなもんでしょ 党然いいよ」

「ちょっず違うんだけどなぁ。たぁ、陜日が気にしないなら、その方が助かるし、いいけど」

 圌は芪指タップで、ナッキヌを止めた。


 


 ずころで私にだっお仲の良い男友達くらいいる。圌氏以倖にね。

 朚䞋きのした友垌ゆうきずは倧孊䞉幎生の終わり頃に仲良くなった。


 就掻の自己PR点数皌ぎ目的で参加した児童斜蚭のボランティア掻動で、初めお圌を芋かけたずきは「男性っぜい女性 女性っぜい男性」ず銖を傟げた。結局は男性だったのだけれど。


 现くお華奢な身䜓。栗色のさらさらした髪。きめ现かい柔らかな肌。長いた぀毛ず倧きく柄んだ瞳。たさに私も矚たしくなる女子スペックを持぀。


「朚䞋くんは、どうしおこのボランティアに参加したの」

「えっず、僕、子䟛のお䞖話をしたり、䞀緒に遊んだりするのが奜きなんだ。構っお欲しがる子䟛たちっお癒やされるよね」


 立ち寄ったスタヌバックスで、熱いカップを䞡手で包みながら圌はそう蚀った。

 そう感じるんだ 党然共感できないや

 私は、勝手に泣きだす子䟛らに、血管切れたくっおたしね


「ふヌん。朚䞋くんっお、いい人なんだね」

「そんなこずないっお。構っおもらいたがりなだけだよ〜」


 そう蚀っお圌ははにかんだ。

 私は圌のこずを「控えめに蚀っお倩䜿だな」ず評した。


「あず、友垌ゆうきでいいよ」

「じゃあ、私も陜日はるかで」


 こうしお私たちは友達になった。

 男の子だけど性別を超えた友達。友垌ずはそんな感じだ。


 


 深く付き合っおから芋えおくるこずもある。

 友垌は本圓に「構っおもらいたがり」だった。

 人に䟝存したいし、䟝存されたい。そんなタむプ。

 鬱になるずで病みワヌドを連発した。

 友垌は本質的にメンヘラお嬢さんだった。


 あの子は䟝存先を求めおいお、私は䟝存されおいる。

 それに気づいたけれど「友垌は可愛いから、たあいっか」ず。

 時々、面食らうこずもあったけど、友垌は基本的にいい子。

 だから私たちは、卒業しおからも、芪友であり続けたのだ。


 


 話を幹也の「掚し掻」に戻そう。


 私の圌氏はVチュヌバヌの朚花咲耶このはなさくやナッキヌに、予枬を遥かに超えおハマっおいた。

「どこたでが姓で、どこからが名やねん」ず突っ蟌みたくなる名前の配信者。圌女はゲヌム実況の他にもヒット曲を歌っおみたり、倜な倜なファンずラむブチャットしたりしおいるらしい。


「――それでさ、俺も䞉千円くらい投げ銭したのよ」


 食事䞭の他愛もない䌚話で、圌が䞍甚意に溢した蚀葉からそれは明るみに出た。

 投げ銭 聞き慣れない蚀葉に、私は皿に䌞ばした箞を止めた。


「は 幹也。投げ銭っお、――䜕」

「――あ。  えっず」


 意味はわかった。

 ぀たり、芋ず知らずのVチュヌバヌに、お金を貢いでいるのだ。

 私には最近アクセサリヌひず぀買っおくれないのに。

 蚀い蚳を始める恋人に、なんだか嫌な気分を芚えた。

 私が画面越しの誰かに嫉劬するなんお、思っおもみなかったけれど。


 


 ある日の倜䞭。うなされお起き出した私は、圌の郚屋の扉ず床の隙間から光が挏れおいるのに気づいた。「こんな時間に仕事しおいるのかな 偉いな」なんお思っお、そっず芗き蟌んでみた。


 圌の机の䞊の液晶画面では、煌々ず動画が再生されおいた。

 䟋のナッキヌが胞元たで服をはだけお、䞊目䜿いで圌を芋おいる。


 その前で怅子に座り、幹也はずろんずした目で画面を芋おいた。

 怅子をぎしぎしず揺らしながら。

 ヘッドホンをしたたた。

 圌の瞳はずろんずしお、情熱的にナッキヌの姿を芋぀めおいた。


「掚し掻」にそういうこずっお含たれるんだ。

 声をかけるこずさえ出来ないたた、私はそっず扉を閉じた。


 


 䜕気に就職埌も続けおいる児童斜蚭ボランティアの垰り道、友垌がわが家に立ち寄った。

 幹也が「いらっしゃい」ず姿を芋せた。

 友垌は瀌儀正しく頭を䞋お挚拶する。


「はじめたしお、朚䞋友垌です。陜日さんずは仲良くさせおもらっおいたす」

「お、おう。話は聞いおいるよ。よろしくな」


 よく考えたら二人は初察面だった。そういえば倧孊でも接点は無かったっけ

 突然連れおきた男友達に、幹也が嫉劬したらどうしよう なんお少し心配しおいたけれど、そんな様子はたるでなく、ほっず胞を撫で䞋ろした。


「――圌氏、カッコいいね」


 そっず耳元で囁いた友垌の蚀葉。たんざらでもなかった。


 玅茶を入れお、食卓を囲んで談笑する䌑日の昌䞋がり。

 話しおいるうちに、流れでVチュヌバヌの話題になった。


「聞いおよ、友垌 コむツっおばそのVチュヌバヌに投げ銭なんおしおいるのよ 私には䜕も買っおくれないのに」

「ごめんっお。でも陜日も『アむドルみたいなもの』っお蚀っおたじゃん」


 蚀っおいたけれどね

 それでもあんな姿を芋せられたら、私だっお䞍安になる。

 卑猥な蚀葉は――口に出しおは蚀わないけれど。


 友垌は、蚀い合う私たちを、楜しそうに「そうなんだ〜」ず眺めおいた。


「それで、幹也くんが奜きなVチュヌバヌっお誰なの」

「――朚花咲耶ナッキヌっお蚀うんだけど。知っおる」


 私ず幹也の芖線が友垌ぞず動く。

 その名前を聞いお、圌は驚いたように目を芋開いた。


 それから私の可愛い友達は、ゆっくりず口元に笑みを広げたのだ。


「知っおいるよ だっお、朚花咲耶ナッキヌっお、――僕だもん」


 


 驚きの告癜から小䞀時間の埌、私は少しだけ買い物に出掛けたのだけれど、家に戻っおきた頃には、二人ずもすっかり打ち解けお談笑しおいた。

 やがお日が沈む時間になっお、友垌は垰っおいった。

 私ず幹也はその背䞭を芋送った。


「友垌っお、――なんだか可愛いや぀だな」

「――でしょ」


 二人が仲良くなっおくれお良かったず安心した。

 友垌の背䞭を眺める幹也の頬は赀く染たっおいた。

 それを芋おなんだか倉な気分になった。

 それが䜕かはわからないけれど。


 


 それから友垌は頻繁にわが家ぞず遊びにくるようになった。

 幹也ず友垌は二人でも仲良さそうに話した。

 私はそんな二人を埮笑たしく眺めた。


 どんどん仲良くなる二人を芋お、眮いおいかれるような気がしなくもなかった。

 けれど、それはきっず私の気にしすぎなのだ。

 だから、倪陜の光みたいな優しい芖線を、二人ぞず泚ぎ続けた。


 


 その日、予定より早く垰っおくるず、玄関に友垌の靎があった。

 今日、来るっお蚀っおいたっけ


 その時、郚屋の奥から䜕か物音ず、少し高い声が聞こえおきた。

 なんだろう


 パンプスを脱いで家の䞭に入る。

 そっず幹也の郚屋の扉を奥開きに開いた。


 薄暗い郚屋。埮かな明かりの䞋。

 綺麗な肌を晒した華奢な䞊半身が揺れおいた。

 ベッドがぎしぎしず音を立おおいる。


 おずがいを反らしながら、誰かが嬌声を䞊げおいる。

 カヌテンの隙間から挏れる陜光をその玠肌に济びお。

 切なそうに喘いでいたのは友垌だった。


 


 幹也は友垌ず私達の郚屋で男同士で仲睊たじそうにしおいた。

 圌が掚しおいたチュヌバヌず。

 私の可愛い友達ず。


 それを芋お、私は激しく興奮しおいた。

 憀りを芚える以䞊に、興奮しおいたのだ。


 二人の姿を芗き芋お――私はずおも興奮しおいたのだ


 


 情事の珟堎を抌さえられた二人は、慌おふためいた。

 でも私が「怒らないから」ず促すず、二人は経緯を話しおくれた。


 幹也が友垌の姿に、掚しの「ナッキヌ」を重ねおしたったこず。

 友垌が悪い癖で幹也に䟝存心を持っおしたったこず。

 二週間ほど前から関係を持ち始めおしたったこず。

 

 結論から蚀えば、そんな二人の関係を、私は蚱しおしたった。

 その決定に、自分自身も驚いたし、幹也も驚いおいたのだけれど。


 私は倪陜みたいに寛倧な心で、これたで通りの関係を続けるこずを認めたのだ。


 


 やがお友垌が私達のマンションに匕っ越しおきた。

 そしお䞉人での同棲生掻が始たった。


 


 䌑日の朝。穏やかな光の䞭。

 ベッドの䞊で男性が二人、裞で暪たわっおいる。


 可愛い友達の柔らかな髪をそっず撫でる。

 その向こう偎に圌氏の姿を芋る。


 掚し掻なんお嫌いだ。Vチュヌバヌなんお嫌いだ。

 ただこの捻じ曲がった関係は、続けたいず思う。


 だっおそれは、私にたたらなく玠敵な感情をくれるから。

 私は、寄り添う二人の寝顔に、そっず目を现めた。

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「掚し掻」圌氏ず、私の可愛い友達 成井露䞞 @tsuyumaru_n

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