メンズ地下アイドルをしてる俺、ゴリマッチョの巨漢に推されています。
或木あんた
第1話 ゴリマッチョに推されて
メンズ地下アイドル。
それは、ライブやイベントなどを中心に活動するアイドルのこと。
俺、『かーくん』こと田中カズマは、メンズ地下アイドルグループ、『グラディウス』にて活動中の23歳。
脱サラして奇跡的にオーディションに受かり、小規模ライブ中心に活動をしている。
さぁ、会場に人が集まってきたことだし、今日も、ファンのみんなをキュンキュンさせてやるぜ!
(……と、思ったんだけど)
「……おい、今日も来てんぞ、あれ」
「誰かの身内? ……にしても貫禄がやべぇ」
「むしろどっかのスカウトだったりして」
幕内から会場を盗みるメンバーの視線の先には、
ドォンッ!
と効果音が聞こえてきそうな筋肉隆々ボディ。推定身長190センチ、逆三角体型の巨漢がサングラスをかけ、白のタンクトップをピッチピチにして、腕組をして仁王立ちしている。濃い眉と割れた顎、短く刈られた頭髪や、足元のごついコンバットブーツが放つ異彩は、もはやカオス、いやコマンドー。
「ま、今日も担ファンのためにがんばんなよ、……かーくん?」
(そう。何を隠そう、あのオッサンは俺のファン、通称「かー坦」なのだ! いや、なんでだよ!?)
「ありがとー!!」
熱気に包まれる会場が沸き、アンコールの曲が終わる。今日はいつもより声が出てたし、なかなか悪くなかった。何よりめちゃめちゃ盛り上がったし、五本の指に入るほどの出来だ。
「じゃーこれから、特典会を始めまーす! チェキの方はこちらにお並びくださーい!」
特典会、つまり物販のことだ。中でもチェキ券は、地下アイドルの真骨頂。ここでするファンとの密接な交流が、何よりもウリなのだ。……なのだが。
ドゥンッ!
「……!」
「……え、マジ、今日あの人、チェキに並んでるんだけど!」
「いつもは物販で「かー物」を大人買いしてるのに、ついにチェキ!?」
「てかさ、てかさ、……あの人、もしかして……」
ファンの女の子たちから黄色い声が聞こえる。その言葉の続きは、きっと、
「……ホモ、ホモなの!?」
「……てことは、やっぱ、かーくんが受け?」
異様に盛り上がる特典会の雰囲気に、
(……ですよね。俺も内心それを恐れてます。てかあんなガチムチが本気を出せば、俺の尻を掘るなんてたやすいことだろ。めっちゃ怖ええ!)
内心ガクブルの俺を尻目に、ファンの女子のヒソヒソは止まらない。
「可愛い系のかーくんが野獣のように襲われて、怖くて泣いちゃう、でも、感じちゃう! みたいな!?」
「あー、いいね。わかってるわ!」
(うおおおおい! 腐女子ぃぃ!! なんだそれ頭大丈夫か!? ……って、)
「……うおうッ!」
気が付くと、ゴリマッチョのおっさんが正面に立ち、俺(身長170)を見下ろしていた。緊張の一瞬、周囲も物販の手を止め、固唾を飲んでこっちを見ている。思わず息が止まった。
(……なんだこの暴力的な筋肉量、間近で見るとやべぇ。抵抗なんて無意味だ。た、助けて警備の人……、え、何……、急に近づいてきた。怖い怖い! お、犯されるぅうう!?!?)
「……すいませェん。……ポーズ指定ェ、お願いできますかァ?」
……、……?
「いいですけどー、その、どんな?」
「………………あごクイ」
「――え」
一瞬何を言っているのかわからなかった。しかし、巨漢はもう一度、
「……あごクイで、ツーショット写真お願いしまァす」
(えと……その割れてるあごで? や、まぁ、襲われるよりいいけど)
「……えーと、じゃあ、いくよ?」
「…………」
「ハイ、……こっち見て」
いつものように、イケボ風のセリフを、俺は吐いた。
その瞬間、
パシャ。
「……ッ」
まるで少女の様に心底恥ずかしそうに、オッサンが顔を逸らした。
(……反応が、よっぽど乙女……!!!)
意外過ぎる様子に、俺は、「そっか……」と。
「いつも応援してくれてありがとう。えっと、名前を聞いてもいい?」
物販も買ってくれてるし、順番を乱したりしないし、実はすごい優良な担当なんじゃないかと。
「……
田中カズマ(23)。今日もいろんな乙女?の幸せのため、元気に推されてます。
完
メンズ地下アイドルをしてる俺、ゴリマッチョの巨漢に推されています。 或木あんた @anntas
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