第2話

「おーーい!ルーク!来たぞ!」


 昼前、畑仕事を手伝っていると、ひときわ大きな野太い声が僕のことを呼んでいる大男が近寄ってきた。


「師匠!おはようございます!」

 コリン村には魔物を討伐をしたり、薬草を採取したり、何か村で困ったことがあれば助けてくれるなんでも屋のようなギルドがある。

 王都にももっと大きなギルドがあり、この村のギルド長「ラーク・ダン」は、その王都のギルドからコリン村のギルド長になるべく来たらしい。

 驚きなのが、60歳で衰えを感じさせないほどの筋骨隆々とした肉体で、身長はゆうに2mは超える。

 そんなギルド長は、4歳になった時から剣の稽古を受けている僕の師匠でもある。

 村の子供たちで、勇者ごっこをしていたところ。


「おいっ坊主!お前には才能がある!この俺が見てやるから、一緒に稽古をしないか?」


 というような感じで誘われたのだが、当初は、ほんとに才能なんてあるのか?と思いつつ、剣の稽古が無料ただで受けられるチャンスはこの先ないのかもしれないと思い、指導を受けてもうすぐで1年だ。

 剣の実力は実際上がっているのかよくわからない。師匠が強すぎるのだ。

 未だに、師匠に勝てたためしがない。まぁ、まだ4歳である僕が、筋骨隆々な大男に勝てるわけないのだが、それでも!一矢報いようと日々頑張っている。


「おはよう!今日も畑仕事手伝ってえらいな!」

「少しでもパパの役に立ちたいので!」


 今の言葉に、ジーンと少し涙目になっている父は持っていたクワを置いてこちらへ近づいてくる。


「どうですか?ルークは、頑張っていますか?」

「頑張っておるよ!流石、勇者の生まれ変わりと言われるだけある!日々確実に進歩しておる。これじゃいつ俺が抜かされてもおかしくないな!わははは!!」

「さすが!ルークだ!」


 そんなことはないと思うのだが、二人して褒めてくれる。父にいたっては頭をこれでもかっていうほど撫でまわしてくれる。

 ちょっと照れくさい。


「よしっ!ルーク畑仕事はもういいから行ってきなさい」

「いいの?」

「あぁ。ルークが頑張ってくれたおかげで、あと少しで終わるからな」

「わかった!行ってきます!」


 父にいってきますを言うと、師匠の肩に乗り、ギルドへと向かう。

 肩の上に乗るのは断じて僕が好きだからではない!師匠と歩く速度が結構違うため、いつも肩に乗れとうるさいのだ。


 そうして、ギルドに着きいつものように入っていく。


「おはようございます!」

「あら、ルーク君。おはよう。今日は早いわね」


 ギルドに入り、一番に声をかけてくれるのは受付のお姉さん、「アイナ」である。

 いつもは昼過ぎになるので、確かにちょっと早い。いつもお酒を夜遅くまで飲んでいるせいか、コリン村のギルドに所属しているいわゆる冒険者と呼ばれる者たちは、昼過ぎからしか働かないのだ。

 なんて情けない。閑散としているギルド内を見てそう思っていると、受付のアイナが話しかけてくる。


「ごめんね。だらしない連中ばっかりで。昼からはちゃんと働いてはいるのよ」

「はい。知ってますから」


 情けないと思いつつも、冒険者たちがいなければ、魔物たちからコリン村を守ってくれる人がいなくなるので感謝はしている。


「おーい!そろそろ始めるぞー」

「はい!師匠!!」


 師匠の後を追って訓練所の中に入って行く。

 訓練所は、ギルドの建物の後ろにあり、いくつかの人の形をした木の人形や、訓練で使う武器などが揃ってある。

 まず、訓練所に入ると、軽く柔軟をした後、訓練所内を20分ほどかけて20周する。そのあと、腕立てに腹筋と基礎的なトレーニングを30分ほどし、身体を壊さないようにしっかりとほぐした後、師匠との実技訓練に入る。

 師匠との実技訓練は、主に剣を教えてもらっていて、一年ごとに扱える武器を増やして行くと伝えられている。


「よしっ!しっかりほぐれたな。始めるぞ!来い!!」

「はい!よろしくお願いします!!」


 しょっぱなから僕は、木剣を上段に構えながら師匠に突っ込む。それを真っ向から木剣を打ち合わせに来る。

 だが、子供の力じゃ打ち合わせても負けるのがわかっているからそこで、僕は力を一瞬抜き、後方へ剣を引くように体を回転させて師匠の木剣を受け流す。そして、回転させた力を生かして師匠の背後を取り、切りにかかる。

 しかし、師匠はそれを読んでいたと言わんばかりに一瞬で地を這うようにして僕の木剣を避ける。そして、木剣ではなく、拳で僕を殴りに来る。

 それを、とっさに腕を十字にし受け、わざと後方へ飛びながら拳の威力を少しでも和らげ、一旦距離をあける。

 痛い。和らげても、あの筋肉から放たれる拳で、腕がじんじんする。

 折れていないのが不思議なくらいだ。それだけ、僕の体も鍛えられて来ているので、頑張って稽古をやっているだけある。それと、単純に他の子に比べて僕の体は丈夫なのだ。


「よしっよし!その調子だ!どんどんかかってこい」

「はいっ!」


 今度は、木剣を下段に構えたまま師匠の隙を伺う。だが、木剣を片手で持って仁王立ちしているだけの師匠に、どこにも隙が見当たらない。

 額に汗をにじませながら今か今かと探っていると、師匠が一瞬にして視界から消えた。どこに行ったかとすぐに探すが、見当たらない。

 ちゃんと見ていたはずなのに!足音も聞こえない。いったいどこへ!?


「ここだっ!!」


 声が真上から聞こえ、すぐ上を向いた頃にはもう木剣が目の前に迫っていた。

 やられた!と思い。痛みを耐えようと目をつぶってしまった。

 すぐ来ると思ったが、痛みが来ないのになぜ?と思い目を開けると、師匠がにやけ顔で僕を見ていた。


「参りました。」

「うむ。最初はよかった。だが、一瞬でも俺から目を離したのがダメだったな。隙がないなら、自分で作ればいい。覚えておくように。今日は、相手に隙が無い場合。自分から隙を作り、相手を自分が動きやすいように誘導する方法と反撃を教える」

「はい!よろしくお願いします。」


 このあと何回かの手合わせと反撃を教えてもらい。お昼過ぎになったころ、アイナが訓練所に来た。


「ギルド長~。ルーク君~。お昼食べましょ~」

「もうそんな時間か!食うか!食べるのも修行だぞ。ルーク!いっぱい食べろ」

「はい!いただきます」


 おなかの虫が鳴りながら、ギルド内へと入って行った。

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勇者として生まれました @moru20220223

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