44credit.挑戦者

 こうしてスバルを見送った俺たちはサンシャインへと戻る。

 そこでは馬鹿なゲーマーたちが後夜祭と称して様々なジャンルのゲームで熱いバトルを繰り広げていた。キティやバンさんも参加していたが、俺たちに気付いてこっちに手を振る。


「これがサンシャインか?」

「ふふっ、そうだね」


 朗らかに笑うアリス。

 俺はその横顔を見ながら言った。


「なぁ。もうずっとタメ口でいいからな」

「え?」

「たまになってたろ? 今になって思うとお前の敬語なんて全然しっくりこないんだよ。初対面で『むかつく!』ってケンカ売ってきた過激少女だぞ」

「そ、そそそれは小さな頃の話ですっ! 私だって今はちゃんと成長して、その、少しは女の子らしくなったと思うし……シュンくんだって、きっと、そういう子の方がって…………だ、だから……あの……」


 もじもじと小さくなっていくアリスを見て、俺は少し思い返しながら言う。


「“ゲームにはその人間のすべてが出る”。伝説のプロゲーマーマツさんが言ってたろ。どうせバレバレなんだからいいんだよ。俺は昔のままのアリスが好きだしな」

「……え?」

「い、いいから行こうぜ。俺たちもなんかやるか! あー、でも“約束”の勝負はしばらくお預けな! 俺が勝っちまったら大変だし!」


 さっさと歩き出す俺。


「……うんっ!」


 アリスはすぐに駆け寄ってきて、俺の隣で瞳を潤ませながら笑った。


「でもシュンくん、スバルさんに勝ったからって調子に乗らないでよね! 私、どんなゲームでも負けないよ!」

「それでこそトキノミヤ・アリスだな。ああそうだ――」


 そこで足を止めた俺は、端末を取り出してあるサイトの画面を開く。アリスが不思議そうに覗いてきた。


「? シュンくん?」

「ちょっと待ってくれ。前にもうすぐ締め切りだってメールが来ててさ、一度申し込み済みだから簡単に……………………よし!」

「よしって……あ!」


 びっくりしたような声を出すアリス。

 浮かんだ立体映像に表示されているのは、『プロゲーマー試験』の受付完了画面。


「シュ、シュンくん!? 今試験に応募したの!?」

「ああ。どうせプロになるなら早い方がいいだろ? どのみちキョウを捜すならクリアしないといけないミッションだしな。心配すんなよ。マジで練習すりゃあ今度こそ絶対――」

「で、でも次のプロ試験って二週間後だよ!?」

「は?」

「しかもちょうど学校の試験と重なってるよ!?」

「は?」

「プロ試験は人生で二回しか受けられないから、も、もしまた落ちちゃったらもうプロになれないんだよ!?」


 呆然と自分の受付完了画面を見つめる俺。


「…………ドウシヨウ?」

「も、も~シュンくんのバカぁ! わかった! 試験まで私がつきっきりで練習してあげる! 毎日ずっとだよ! そうだ、その間はうちで暮らしてもらおうかな? うんっ、そうしよう! 早速学園寮にも連絡しておくね!」

「は? お、お前んちで!? い、いやいやちょっと待てアリス! いきなり決めんなって!」

「非常時だしスバルさんにも一応連絡して…………うん、よし! みんなぁ! 大変なの! シュンくんが――」


 俺の制止など聞かずにスバルへ連絡を入れてから走り出し、サンシャインのゲーマーたちに呼びかけていくアリス。するとキティやバンさん、みんながどかどか駆け寄ってきた。いやなんだなんだ!?


「あははは! いーよいーよ! シュンのためなら協力したげる! アクションやシューティングならキティに任せて!」

「ふむ。ならばうらはクレーンゲームの秘技を伝授しよう。応用を利かせればほとんどの景品は狙えるはずだ」

「ヒャヒャヒャ! 面白ぇじゃねぇか新星! リズムゲーならオレ様に任せなァ!」

「ホホホホ。ならば少年よ、まずはワシの秘蔵Vでリビドーを高めようぞ。エロスの魂が牌を引き寄せるのじゃ!」

「……仕方ありませんね。では、私はクイズの傾向と対策でも……」

「お、お前ら……」


 なんと、皆がそれぞれ得意なジャンルで俺に特訓をつけてくれることになってしまった。プロのヤツだって多いし仕事もあるだろうに、面倒見が良いというかお節介というか……いや。


「……これがサンシャインか?」

「うん!」


 アリスが笑う。

 そのタイミングで端末にスバルからのメールも届いた。超高速で仕事を終わらせて戻ろうとのこと。


 さーて、ここまでされて落ちるわけにはいかねぇな。これで実技は問題ないだろうし、やっぱ問題は筆記か。まずは一度も見返してなかった前回の試験結果を参考に――。


「ねぇシュンくん。それで、前回の試験で落ちちゃった原因はなんなの?」

「ん? ああ、筆記だよ。実技は満点だったんだけどな。筆記が真逆。そんな難しくなかったはずなんだけどなぁ。――ほら。これが前回の試験結果。ひどい点数だろ?」


 端末の画面をスワイプして宙に立体映像を浮かべる。アリスは前回の俺の筆記試験データをまじまじと見つめて――なぜか小さなため息をついた。


「シュンくん。このテスト、一度も見返してないでしょう?」

「え? な、なんでわかるんだよ?」

「解答欄、最初から全部一つずつズレてるよ」

「は?」


 言われてすぐテストデータへ目を落とす。

 アリスの指さす最初の問に答え忘れの空欄があり、そこから先の解答がすべてズレていた。


「………………オイオイオイ! マジかよおおおおおお!」

「もう、おかしいと思ったんだよ。シュンくんが試験に落ちるはずないもん。パッと見ただけだけど、ちゃんと答えられてたら絶対に合格してたよ」

「ええ……そういうことなの……俺には才能ないってヘコんでたのがバカみたいじゃん……」

「実際おバカなんですっ! 勝負は1回。プロの世界には“たられば”とかないからね? これで安心しないように、試験までみっちりしごいてあげます! ほら、みんなだってすごいやる気だからね!」

「マジスカ……お手柔らかに頼みます……」


 いろんなことがありすぎて心が追いつかない俺を見て、アリスがおかしそうに笑った。そんなアリスの顔を見ると、気持ちが上向きになる。


 俺にはキョウのように未来は見えない。

 それでも、進むべき道は見えた。


 アリスたちが照らしてくれたこの道の先に、きっとアイツはいる。


 いつの日かにキョウがそうしたように、俺もこの日、サンシャインを『ホーム』として登録させてもらった。


 さぁ、あとは進むだけだ!



「待ってろよキョウ。すぐ追いついて、お前の退屈をぶっ壊してやるからな!」



          <A new player is coming!!>(第1部 了)

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ニュー・ゲーム・パラダイス ~ゲーマーズソウル覚醒~ 灯色ひろ @hiro_hiiro

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