43credit.約束を果たすために
諸々が片付いた後、俺はアリスと共に外に出ていた。
「いやほんと急に現れたとは思ったけど……まさか今回のためだけに遠征中の海外からぶっ飛んできてたとはなぁ」
サンシャインの近くでめちゃくちゃ目立つように止められていたのは、運転手付きの
なお、このリムジンはスバルの好みだとかではなく協会からの王者待遇であって、“王者”や“王子様”といったイメージを守るため、ファンをがっかりさせたいために受け入れているのだとか。コイツやっぱ紳士的なイケメンじゃん。ちなみにプライベートでは世界一の速度を誇るドイツ製20億のスポーツカーに乗っているらしい。でしょうね。
アリスが後部座席の開いた窓へ話しかける。
「スバルさん、プロとして仕事はちゃんとしないとダメですよ? ご迷惑をお掛けした方にはお詫びも」
「ああ、そうだね。手土産を持って帰って、しっかりと働かせてもらおう」
「そうしろそうしろ。――あ、そういやあの『謎の男S』ってふざけた投稿者名なんだったんだよ。ひょっとしてアレ、スバルのSだったのか?」
「ああ、それは速いからさ」
「は?」
「Sは最も速いアルファベットじゃないか!」
意味がわからんがスバルの満面の笑みを見るとマジでそんな気がしてくるしなんとなくニュアンスだけは理解出来るのが怖かったのでさっさと話を打ち切ることにし、アリスは隣で苦笑いしていた。
静かに車のエンジンが掛かり、スバルがもう一度こちらへ顔を出す。
「シュンくん、最後に少し話を。キョウのことなんだ」
「キョウの?」
「ああ。僕は世界王者になってからその特権と資金を存分に使ってキョウを捜した。それでもキョウは見つからなかった。唯一の手がかりは、裏世界のゲームセンター『ニブルヘイム』に関わりがあるらしいということのみ。それはアリスくんも掴んでいたんだろう?」
アリスはこくこくと二回うなずく。つまりその情報は王者でなくとも手に入るレベルのものだったということだ。
「どうやらキョウもまた、元王者の特権を使って自分の情報に規制をかけているようだ。『ニブルヘイム』に関わる情報も、彼が意図的に流出させたものかもしれない」
「キョウさんが……でも、どうしてそんな……」
思案するアリス。
そのとき、俺は決めた。
「――なぁ。俺、プロになるよ」
「「えっ?」」
アリスとシュンが同時に俺を見てそんな声を上げた。
困惑した様子の二人に、俺は言う。
「今のスバルの話を聞いてわかった。キョウはなんで『ニブルヘイム』の情報だけを残したのか。それってわざとなんじゃないか? アリスやスバルだからこそわかる情報を掴ませて、弟である俺と関わらせようとした。二人を利用して俺を挑発したんじゃないかって気さえするんだ。『早く追いかけてこい』ってな」
「「!!」」
「それに、情報を規制してるってことは確実にキョウの意志が介入してるってことだろ? ならアイツは生きてる。安心したっつーか呆れるっつーか。邪魔者が来ない場所で、自由に、今もどこかの誰かと闘ってるはずだ」
「キョウさんが……」
「今も……そうか……キョウ!」
「結局さ、全部キョウの狙い通りなんじゃないか? そう考えたら腹立ってきた! とにかく俺も早くプロになってランクを上げて、力をつけて、アイツを捜すよ。そんで、見つけたらぶん殴ってやらないとな。もちろんゲームで。どうよ? お前らも乗るか?」
そう尋ねて拳を前に突き出した俺に。
アリスとスバルは、揃って笑い出した。
「うん! 思いきりぶん殴っちゃおう!」
「さすがはシュンくんだ! その速すぎる提案に乗ろう!」
二人とも拳を作り、俺の拳とぶつけ合う。ゲーマーたちの挨拶みたいなものだ。
「プロを目指すなら善は急げ。シュンくん、君さえよければいつでも練習に付き合おう。二十四時間問わず呼んでくれ。二人きりで、特別な超高速訓練をしようじゃないか!」
「超高速訓練てなんだよ……いやありがたいけど……」
「シュ、シュンくんとは私がお付き合いします! スバルさんは忙しいんですから、その、シュンくんのことは私に任せてください!」
「おお、アリスくんの方からお付き合い宣言をするほどにシュンくんを想っているのだね! 素晴らしい愛だ! では急いで戻ってくるとしようか。その時は、僕のシュンくんへの愛とどちらが速いか勝負しようアリスくん!」
「な、なななな何言ってるんですかスバルさんのバカぁっ! で、でも勝負なら受けて立ちます負けません!」
「お前らさっきから何の話してんの!? どっちもアホかあああああ!」
そんな頼もしくて馬鹿なヤツらを前に、俺は決意する。
絶対に――キョウとの約束を果たす!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます