42credit.太陽の輝き


 ――で、イロハさんを始めとするサンシャイン関係者たちがメディアの人をなだめてくれて、取材はまた後日改めてという体で追い返してくれた。集まった野次馬ファンたちも、スバルがそのリーダーシップでもってサインを渡しながら今日のところはと穏便に帰っていただくことに成功。


 残ったのはサンシャインのホームゲーマーたち。

 そこでスバルが突然地面に正座をした。


「皆に事情を説明する前に、まずは非礼を詫びなければならない。今日のこと、本当に申し訳ありませんでした」


スバルはそのまま頭を地につけ、土下座をする。俺たちは揃って仰天した。


「オ、オイ? スバル?」

「ス、スバルさん?」


 スバルは頭を上げると、動揺する俺やアリスの方に正座のまま向き直る。


「そして、最も謝らねばならないのは君たちだろう。どうか許してほしい」

「いや、ちょ、いきなりなんだよ。オイ、スバル」


 また頭を地につけるスバル。俺とアリスは顔を見合わせて当惑し、ただスバルが頭を上げてくれるのを待つしかなかった。

 やがてようやく顔を上げてくれたスバルは、背筋を伸ばして話を始める。


「弁解をさせてほしい。僕がゲームセンター荒らしの真似事などをしたのは、ただ君と闘うためだった。マナカ・シュンくん」

「お、俺と?」

「ああ。キョウが失踪してからの僕は、彼のいない世界の遅々ぶりに絶望していた。僕をより速くしてくれる存在を求め続けていた。そんなある日、友人からキョウの弟がイケブクロにやってくるという情報をもらってね。しかもアリスくんがずっと待ち焦がれていた想い人だというじゃないか。是非会ってみたいと、闘ってみたいと思ったんだ」

「お、おおおおおもいびとっ!? え、ええと、そ、そういうわけじゃ、あのう」


 めっちゃわかりやすく動揺して真っ赤になっていくアリス。キティや周りのみんなが笑いだし、おかげで空気が和やかになる。

 スバルはさらに続けた。


「しかし、シュンくんはゲームへの熱を失っているという。僕はすぐにピンときたよ。彼も僕と同じなのだと。キョウを失った世界の遅さに耐えられないのだとね」

「……アンタ。まさか、それで……?」


 呆然とつぶやいた俺に、スバルはハッキリとうなずいて応える。


「僕の思考は加速した。キョウはもういない……そうか。ならばシュンくんをキョウにすればいいじゃないか! いいや君だけじゃない、皆をキョウにすればよかったんだ! そうすれば僕はどこまでも速くなれる! 宇宙の真理に到達したのさ!」

「は、はぁ~~~~~!? なんだよその真理! アホかお前!」


 曇りなき眼でぶっ飛んだことを言うスバルに思わずツッコんでしまうる俺。だがアリスやキティ、皆は『あ~』と声を揃えてなんだか納得したような顔をしていた。いやいやコイツなら仕方ないみたいな反応すんなよ!


 スバルは俺を見て言う。


「君をこの世界に引き込みたかった。君の魂を速く呼び覚ましたかった。“遊戯者の魂”を覚醒させるには、極限状態にまで心を高め、鼓動を速める必要がある。そのためには“悪役”が必要だと考えた。悪役になった僕は、敵としてアリスくんやサンシャインの皆を利用した。ホームの大切な仲間達を傷つけてしまった。もちろん大切なホームを潰すつもりなど毛頭ない。しかし、どのような理由があろうとも罪は消えない。許しを請うのは傲慢かもしれない。サンシャインの代表として、世界王者として恥ずべき行為だ。皆がそう望むなら、僕は今このときよりサンシャインを、プロの世界を潔く去ろう。申し訳ありませんでした」


 そう言って、スバルはもう一度皆の方に深く頭を下げた。


 皆の顔を見れば、わかる。

 呆れたような、疲れたような、子供のワガママを聞いてしまう親のような。

 皆はそんな、けれど確かに愛情を感じる表情をしていた。


 アリスがしゃがみ込んで言う。


「スバルさん、顔を上げてください」

「……アリスくん……」

「さすがに驚いちゃいましたけど、もう、今更ですよ。スバルさんがそういう人だって、みんな知ってます。知っていて、あなたをサンシャインの代表だと誇らしく思っています。辞めるなんて言わないでください。世界中のたくさんのファンが泣いちゃいますよ?」

「……だが……」

「それに……同じ、ですから」


 少し気恥ずかしそうに、アリスは笑みをうかべて話す。


「私も、シュンくんを本気にさせたかったから。やり方は違いましたし、ちょっと過激でしたけど、でも、スバルさんが全力で闘ってくれたからシュンくんは目覚めた。もう、悔しい気持ちと感謝の気持ちがごっちゃまぜです!」 


 わざとだろう。ちょっと怒ったような素振りでぷんすかと立ち上がるアリス。

 俺も多少口を挟んでおく。


「なぁ。アンタのホームの仲間たちはどんな顔してる?」


 そう言うと、スバルはサンシャインのゲーマーたちを見渡してハッと目を開く。


「しょーがないよね! だってスバルはスバルだもん!」

「それくらい豪快な男でなくては、この土地は守れんだろう」


 キティやバンさんに続き、皆も次々と声を上げた。


「ホホホ。スバルよ。お主の猛るリビドーはここで尽きるようなものではなかろう」

「そうですよ、スバルさん。やっぱりここにはあなたという一等星がいなくては」

「ヒャヒャヒャ! そーだぜ王子様よォ! 責任とりてぇってんなら、辞めるよりもサンシャインを世界一のゲーセンにしてくれなくちゃあなァ!」

「スバルさまぁ! あたしたちにはあなたが必要なんです!」

「今年こそオレらもSランク目指すんだからよ! もっとしっかり教えてくれや!」

「そうだよスバルさん!」「みんなわかってるって!」「でもこういうのはもうやめてくれよ!」「はははは!」「でもすげぇ勝負だったよな!」「うん楽しかった!」「熱くなったよね!」「やっぱスバルはすげぇゲーマーだよ!」「さすがサンシャインの皇帝だぜ!」

「……皆…………」


 まばたきもせず呆然とするスバル。

 男も女も、すべてのサンシャインのゲーマーたちがスバルのことを心から慕っていることがわかった。だからこそスバルが敵として現れたときにはあれだけ動揺したし、それが嘘だとわかって安堵している。


 しばらくその場でじっと皆の声を聞いていたスバルは、やがて正座のまま声を上げた。


「……感謝するッ!!」


 その感謝の叫びは、サンシャイン全体に広がるように響いた。

 スバルはキリッと精悍な顔つきで宣言する。


「皆の熱き思いが僕の心を打ち、鼓動を速めてくれた。皆の純粋な気持ちに応えるため、僕はこの時代を全速力で駆け抜けることを約束しよう! どうか、これからも僕と走り続ける仲間でいてほしい!」


 そう言って再び頭を深く下げたスバル。

 大きな歓声と拍手に包まれて、今回の騒動はようやく幕を下ろしたのだった――。

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