【完結】推し変したら幼馴染がヤンデレになった件

悠/陽波ゆうい

推し活。推し変にはご注意を

【推し活】

 簡単に言えば、推しの子を応援すること。


 推しと言うのはあらゆるジャンルにいる。声優やアニメのキャラ……などなど。「好き!応援したい!」という存在がいるなら、それは推しなのだ。


 俺は4人組アイドル『Milky』というアイドルユニットにハマっていた。そして推しは、シイナちゃんだ。


 彼女のグループでのライブや単独ライブには、毎回行っているし、握手会やサイン色紙等にも幸運な事に毎回当たっていた。


 だが人間、飽きやすい生き物だ。

 飽きやすいというか、1人だけを応援し続けるのではなく、推しの範囲を広げる。


【推し変】 


 推しを変えること。また、元推しより、今推しの方が熱量が多いこと。


 そして俺はまさに今、推し変の状態にいた。


 スポットライトが3人の少女に当たる。白色の衣装を見に纏い、高らかな歌声。

 

 客席は埋め尽くされており、高々と掲げられたサイリウムは歌に合わせ振られる。

 俺もそのうちの1人だ。


「以上、新曲でした。みんなありがとうーーっ!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


 最後の曲が終わるまで、俺たちの熱気は冷めなかった。


 3人組アイドル『scarlet』 俺が最も力を入れているアイドルユニットだ。


 今日は抽選で選ばれたファンのみの限定ライブ。幸運なことに俺は当たったのだ。


「いつも応援ありがとうございます♪」


 ライブ終わりの握手会。

 俺は今推しではある、ユズユちゃんと握手を交わす。


「今日のライブも最高だったよ!」

「本当ですか! 練習頑張った甲斐がありました〜。そういえば新山さんって前まで『Milky』のシイナちゃん推しではなかったでしたっけ?」

「あー……」


 シイナの名前が出て、思わず苦笑。


 俺には幼馴染がいる。実はその子が大人気アイドルのセンターを務めるシイナなのだ。

 知ったのは最近。彼女の方から打ち明けてくれた。

 それはもちろん驚いたさ。推しが自分の幼馴染だったのだから。シイナのファンにバレたら恨みを買ってフルボッコだろう。  


 彼女とは家が隣で、会いに行こうと思えば行ける。

 俺はそれに安心してしまった。

 そして違うアイドルに目移りしてしまい、推し変したのだ。


「じ、実は推し変したんだよね、ユズユちゃんに」

「そっなんですか! じゃあこれからも推してもらえるように頑張りますね♪」


 おふっ、推しの笑顔が眩しい……!!


 だ、大丈夫……アイツは俺が推し変してもなんとも思わない……よな。






「ただいまー。喉が乾い——!?」

「遅い、どこ行ってたの」


 両親は出張中で、1人で住んでいるはずの家。リビングに入るなり誰かが飛びついていた。


 幼馴染の椎乃由那しいのゆなだ。

 両親が出張中の間は、由那がこうやってたまに来て、家事をしてくれるのだ。


「ど、どうした由那?」


 いつもならキッチンで出迎えてくれるのに。


「なんだっていいじゃん。それともハグしちゃダメとかあるの?」

「ダメではないけどさ……」


 由那は俺の腰にギュッと手を回し力を入れる。


 今は変装を解いているが、解いた姿もまた美少女。


 スンスンと何やら俺の匂いを嗅ぎ出した。


「ねぇ、優斗。私に隠していること、ない?」

「え? 隠していること?」

 

 エッチな本は……電子だから見つかることはないし、その他には何もないけど……。


「特に思い当たる節はないぞ」

「……ふーん。じゃあ質問を変える。……誰? 私の優斗にこんな香水の匂いつけたの?」

「誰って……」


 俺はもちろん香水などというオシャレなものは使ってない。


 じゃあ誰かから匂いが移ったのか? さっき居た人といえば、ユズユちゃんだ。だが、正直にいえば、推し変したと察っするかも知れない。今日のライブ自体、由那には言ってないし……。


「正直に言ったほうがいい。私、何するか分かんないよ?」

「って言いながら目から光無くすのやめてくれませんかね」


 あと、腰に回した手の力がドンドン強くなってきてるし……。


「まぁいいや。後から吐き出させるもん。そういえば喉が渇いたって言ってたよね。——ん」

「んぐっ!?」

 

 冷たいものが喉を通る。


「げほ、げほ!! な、何を飲ませた!?」


 口に何かをいれてそこにさらに水を含むと俺の頬を挟むように手を押し付けてきた。むちゅーっと唇が開いたところで、キスをされ、水ごと何かを飲まされた。


「何って……ばっちり効き目の出る興奮剤」

「こ、興奮剤?」

「もちろん合法のものだからご心配なく」


 いや、興奮剤というワードだけでもう危険だわ。


「そ・れ・で、優斗にこんな匂いつけたの誰?」


 ……怖いのよ圧が。


 何やら体が熱くなってきた。これが興奮剤の効果……頭もボーとしてきて……


「……です」

「なに? 聞こえない」

「『scarlet』のユズユちゃんのところに行ってました……」

 

 頭が回らず、言ってしまった。

 由那の顔が険しいものになる。


「チッ、よりによって……最近、私のライブとか握手会に来てくれないのって、その女のところに行ってるから?」


 問いかけに俺は、ゆっくり頷く。


「優斗。私がシイナだって打ち明けたのは優斗が私の推しだと言ってくれたから。一番って言ってくれたから。お互いお互いが一番の関係……のはず。なのに……あんな量産型クソビッチなんかに推し変しないでよッ」


 怒りが含んだ声色。

 由那が俺から離れた。


 すると、着ていた服のボタンを外し、衣類が次々床へ落とされる。


「由那、何を……?」


 興奮剤とやらが本格的に効いてきたのか、身体が燃えるぐらい熱い。特に下半身が痛いほど。


 由那も俺の異変に気づいたようで、その部分から目を離すことなく、ペロリと舌を舐め、


「大丈夫だよ。優斗の推しが私だけなのを身体に教えるだけ……優斗……好きだよ♡」


 



 あれから数週間。俺の日常生活は変わらない——こと以外は。


「じゃあ優斗。今日も始めよっか。君の推しと好きなひとが誰か……ちゃーんと理解しようね♪」


 見下ろすような体勢のまま、由那はペロリと口端を舐めた。

 

 ジィィィ――っと、チャックを下ろす音がする。


 一度決めた推しは最後まで推すべき。

 そう思いながら今日という日が終わるのを待った。

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【完結】推し変したら幼馴染がヤンデレになった件 悠/陽波ゆうい @yuberu123

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