第15話 物語の終わりに
師匠の怒りは大変なものだった。あれから一週間ほど経つというのに、私は、まだ許されていなかった。
「当たり前よ。死んだらどうするつもりだったの」
シラサギさんの声にも私を責めるような響きがあった。みんな、私が、誰にも言わずに一人で、とんがり山の悪魔の家に行った事を怒っているのだ。
「タロットカードが私のするべき事を教えてくれたのよ。私はそれを信じただけ」
ユキさんだけは、怒りながらも、私の行動を理解してくれた。
「同じ占い師として、あなたの気持ちはわかるわ。多分、私も同じ行動をとったと思う」
そう言って、師匠に一緒に謝ってくれたのだった。
「一人前になるまでは、一人で行動しないように。とにかく、無事でよかった」ようやく、師匠はそう言って笑ってくれた。
魔法の書を盗んだ魔法使いは悪魔になる。そんな言い伝えがあるという事を、ユキさんは教えてくれた。
「ホーホは、そんなに悪い人じゃなかったわよ」私は言った。ホーホとの出会いは、ほんの数分間の出来事だった。でも、私には彼が悪魔だとは思えなかった。少なくとも、まだ、悪魔にはなっていなかった。あの時、私のタロットカードは確かに答えたのだ。あの家に悪魔はいないと。
「そうね」
ユキさんは、私が知らない何かを知っているようだったが、それ以上、何も語らなかった。
星見さんは、しばらくの間、師匠の家に滞在していたが、その間は、ほとんど、図書室にこもりっきりだった。時折、夜中までヒソヒソと師匠と話をしているのを見た事があった。でも、その内容まではわからない。
私は、この十三年間の出来事や、自分の想いを、結局、何も話すことができなかった。本当は、話したい事が山ほどあったというのに。
星見さんも、多くを語ろうとはしなかった。十三年前の嵐の夜、何があったのかも、決して話そうとはしなかった。
やがて、星見さんは自分の家に帰っていった。
「いろいろと、ありがとう夕子ちゃん。また、いつでも遊びにおいで。今まで通りにね」
最後に言った、星見さんのその言葉に救われた気がした。そうだ。これからは会おうと思えばいつでも会えるのだ。私は、泣きながら、でも、笑顔で、星見さんを見送ることができた。
その後。
私の魔法使いとしての修行の日々はどちらかと言えば単調なものだったが、一度だけ、驚くべき出来事があった。
ある夜。師匠のところにホーホがやってきたのだ。以前会ったときは古い型のスーツを着ていたが、今回は、大きな猫の絵が描かれたTシャツを着ていた。少しばかり若作りが過ぎる。突然の訪問に私は自分が飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。
「どうやって出てきたの?」
私が尋ねると、ホーホは残念そうに言った。
「星見さんの好意で、時々、入れ替わってるんです。今は、星見さんがこの中に」
そう言って、ペンダントを見せてくれた。
星見さんとホーホは、今や、親友同士だそうだ。お互いに会うことは出来ないが、こうして入れ替わりながら、解決策を探しているのだという。
「フクロウさん、白紙の魔法の書をお持ちでしたら、譲っていただけないでしょうか」
ホーホは言った。
「やっぱり、魔法使いとして最初から出直すには、新しい魔法の書が必要かなと、思いまして」
師匠は喜んで、一冊の魔法の書を提供した。ついでに、『魔法解除』の項目を写していくようにと、提案した。
私の脳裏に、初めて師匠と出会った時のことが生き生きと蘇った。私の初めての魔法も『魔法解除』だった。そうだ。あの時、師匠は、フクロウの姿から、元に戻れなくなっていたんだっけ。
「ふふふ」
思い出し笑いをする私を、師匠とホーホがきみ悪そうに見ていた。
最後に一つだけ。実は、師匠の勤め先がひょんなことから判明した。それは、誰もが知っている大手のIT企業だった。師匠はそこでもこう呼ばれているらしい。
『情報の魔法使い』
ふくろうの魔法使い 加賀山みやび @KagayamaMiyabi
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