赤混じりの二刀流狩り

寺澤ななお

第1話

強くなければならない

負けてはならない

祖国のために

あの人から受けた恩に報いるために


俺は両腰から双剣を抜き、走り出した。


大陸最南端に位置する「ナコステ」

祖国であるこの国は20年前までは、興ては潰れる、そんな小国の一つだった。


その祖国が、大陸有数の大国へと成り上がったのは一人の英雄の功績に他ならない。


シグマ・アルテウス

またの名を「双騎」


当時、殆ど使い手のいなかった二刀流で戦地を駆け回り、数々の戦果を上げた。

そして、多くの捕虜を開放した。


俺もその一人だ。


住んでた街が戦地となり、住民の半数が死んだ。相手国にも余裕がなかったのだろう。労働力とならない子供が犠牲となった。

俺より年下はみんな死んだ。

当時、8歳。たった3ヶ月早く生まれたおかげで俺は生き延びた。


だが、その先も地獄だった。大人同様の労働にあてられ、身体は常に悲鳴を上げていた。同部屋の捕虜は異国同士。生きるために、わずかな食料を取り合うこともめずらしくない。捕虜生活が3年続き、俺は生きることに疲れていた。


絶望の中に強く輝く一筋の光。

あの人に救われたときは、本当にそんな感じだった。


ナコステの民の証である赤色の瞳を見た双騎はニカッと俺に笑いかけた。枯れ果てたはずの涙が溢れ出した。


双騎は俺を祖国へ連れて帰り、亡骸のない親父の墓まで建ててくれた。同じく双騎に救われた母さんは老衰で死ぬ直前まで、感謝の言葉を口にしていた。


戦場で双騎の勇姿を見たのは一度だけ。

ただ、その光景は今でも脳裏に焼き付いている。鮮明に。


あの人のようになりたくて、双剣を手にした。双騎の勇姿をなぞるように刀を振り続けた。


当然、双騎に憧れたのは俺だけではない。

あの人に助けられた男は例外なく、心を奪われ、双剣を手にした。


先駆者たちにより二刀流は正式の流派となった。優れた二刀流の使い手のみで構成される第一騎士団は、国の戦力の柱であり、国民からは羨望の眼差しを受ける存在となった。


戦乱が落ち着き、非戦闘民の生活がまもられるようになった今もそれは変わらない。

捕虜から開放されてから約20年後、俺は第一騎士団の一員となった。


正直、祖国の派遣などどうでもいい。


双騎の剣が最強だと示す


そのためだけに俺は今も戦地を駆けている。




ぴいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!


ナコステと並ぶ大国「リヤンダ」との戦いの中、仲間の鳴らす笛が響いた。


驚異の存在を知らせる合図だ。


音の方向に走っていくと、まもなくして土煙が見えた。

第一騎士団の数名が交戦しているようだ。


さらに近づき、目を凝らすと、双剣の戦士と互角以上に渡り合う、敵国の戦士の姿が確認できた。


使う剣は一つのみ。

だが強い。

双剣の戦士3人が連携して斬りかかるも、そのすべてを躱し、受ける。時にはあえて剣を鎧で受け、致命傷を確実に避けている。


双剣の戦士たちの疲れは蓄積していくばかり。一方、敵の動きは衰えることはない。


リヤンダの兵の鎧は白銀色。だが、目の前で戦う戦士のそれはひどく黒んずんでいる。さらに、錆なのか、返り血なのか、所々に赤い変色もみられる。


俺の口角は自然と上がった。味方が劣勢にも関わら笑みを浮かべてしまった。


探し求めた相手がここに居た。


「赤混じり」


第一騎士団の猛者たちを何人も葬ってきた二刀流狩り。要注意人物として名前が挙がってから一年以上がたつ強者だ。


程なくして、交戦の決着がついた。


赤混じりは一人の双剣を払ったあとに間髪入れずに胴体に蹴りを放ち、包囲網を破壊。

残された戦士のスキを見逃さず、間合いを詰めて首を刈りとった。返しの一閃で、もうひとりの右腕を落としたのも、また見事だった。


剣を軽く振り、血を落としながら蹴り倒した戦士の元へ歩み寄る。そして、足で喉元を潰した。


赤混じりは綺麗な剣を俺に向け、静止した。

深く兜をかぶり、その瞳こそ見えないが、確実に俺を見つめている。


「囲め!背後を取れ!」


俺の近くにいた味方の戦士が指揮をとる。

数人がすぐに陣形を取るが、赤混じりに動揺は見られない。


「やめろ」


俺は赤混じりに近づきながら仲間に指示した。


「たいした自信だな」


赤混じりは口を開く。


「いや、邪魔なんだ。二刀流に中途半端な連携はいらない。むしろスキを生む」


「へぇ」


感心するようにそう応えた赤混じりは剣を構えた。


味方の陣形が解かれる。


俺は双剣を構えたままその時を待つ。


ちっ


赤混じりの舌打ちの声が聞こえる。

奴は刀を上段に構え切りかかってきた。


二刀流の神髄は守りにあり


双騎流と名乗る流派にはこんな言葉がある。

一刀もしくは両刀で相手の攻撃を受け、耐え忍び、相手のスキを待つのだと。

決して自分から攻めに出てはいけない。

防御。からの一閃。

それが美学であり、双騎の教えだと。


祖国の最大流派であるその教えに従う



・・・・わけもなく、俺は赤混じりの刃と交差する瞬間に防御態勢を解き一歩後退。

即座に両刀の切っ先を相手の喉元に突き出した。


赤混じりは身をかがめ、それをなんなく躱す。

多くの敵を欺いてきた奇襲もこいつには効かない。


心が躍る。


そうでなくては困る。

だからこそ倒す価値がある。


俺は息を深く吸い、地面を蹴った。


特攻に出る。

両手に持った双剣を駆使し、

上下左右、そして突き。

相手に反撃の契機を与えないよう攻撃を出し続けた。

赤混じりはただただ俺の攻撃を受け続けた。


俺はギアを上げる。

あの時見た英雄のように

「双鬼」のように

敵に襲い掛かった。


俺があこがれた英雄に美学などない。

あの人は言った。


「成し遂げたいことのために、あるものすべてを使う」


それが二刀流の由縁だ。美しさなんか不要だ。

そう信じ、俺は鍛え続けた。


だが、届かない。俺の刃は赤混じりには届かない。

俺は高みを感じていた。



プオオオオオオォォォォォォ


自軍の撤退を知らせる笛の音が響いた。


俺は渾身の力を込めた一撃を叩き込んだ後、攻撃を止めた。


「諦めるのか」


赤混じりが言う。


「ああ」


「なぜ?」


「お前に勝って二刀流が最強だと証明する。それが俺の望みだ。ここで朽ちてはそれが成せない」


「ははっ」


赤混じりは嬉しそうに笑った。


「あんたが二刀流を目の敵にするのは復讐心か?」


「違うよ。俺は双騎に負けたわけじゃない」


兜を脱いだ。


彼の目はナコステの民であることを示す赤色だった。


「俺も同じだ。あの人に救われた。だから弱い二刀流は許せない。再戦を楽しみにしてる」


赤混じりはそう言って去っていった。

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赤混じりの二刀流狩り 寺澤ななお @terasawa-nanao

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