動画配信コロンチャンネル〜これが人気なんて、世も末だ〜【二刀流】

リゥル(毛玉)

第1話コロンチャンネル 二刀流

 俺の名前は三日さんじつ ぬくい

 小さくて可愛いものが大好きで、目付きが少しだけ悪い、極々普通の高校生だ。

 趣味はゲームと可愛いもの鑑賞、他はこれと言って特にない。

 普段はテレビ番組や動画などは動物ものしか見ない俺も、ただ一つ、友人の動画配信だけは欠かさず見ていた。

 

 それが──。


「皆のアイドル、コロンのチャンネルへようこそ!」


 番組が始まると、俺のパソコン画面にはアスト〇フォのコスプレをした友人が現れた。

 これが今ちまたで話題の、コロンチャンネルである。


 このコロンチャンネル。

 俺の友人である芸名コロンが、プロデューサーの出すカンペを堂々と見ながら、次々色んな企画を進めていく番組だ。


「今日のコスプレも可愛い? えへ、ありがとう」


 視聴者のコメントに、ペロッと舌を出しながハニカミ笑顔を見せるコロン。

 身内びいき無しに、本気で可愛いと思う。


 そんな中、突然画面の左下に、一枚のフリップボードが現れる。


【カンペ】

「えっ……『挨拶の台詞が違う、台本通りにやれ』ってあれ本気でやらせるの!? 後カンペ逆転だから、それだと視聴者さんに見えないから」


 コンテンツ自体はあまり物珍しくは無い内容だが、普通と少し違うところがある。それが……。


「うー。仕方ないボクもプロだ、やってやろうじゃないかぁー!」


 そう言うと、コロンは立ち上がり椅子をどかす。

 そしてカメラに自分の全身が映るところまで下がると深呼吸をした、そして──。


「ボクの名前はコロン。皆のアイドルで自他ともに認める。男・の・娘」


 腰に手を当て体を揺すり、リズミカルに暴露した。

 そして台詞の終わりにワンポーズ。

 うん、アイドル顔負けの可愛いさだ。


 そう主演のコロン、実は一見美少女にしか見えない、正真正銘の男の娘なのである。


「そ、それじゃオープニングも終わったし、今日も放送コードギリギリアウトでー頑張るぞぉぉ!」


 視聴者からの『可愛い』や『待ってました』『俺と付き合って』『アウトかよ!』などの様々なコメントで画面が埋まる。

 可愛さもさることながら、やはりコロンの人柄が一番の人気の秘訣だと思う。


【悩み相談のコーナで】

「えっと今日は? なになに『悩み相談のコーナー』みたいだね!」


 椅子に座りカンペを読んだ後、コロンは一通の手紙を手渡される。そして、その内容を口にした。


「ペンネーム、みおラブさんから『好きな人が居ます。でも相手は同じ女性、この恋諦めるべきなのでしょうか?』って、青春だねぇー。お股キュンキュンしちゃう!」


 キュンキュンするのはソコじゃない、っとツッコミを入れたいが他の視聴者がコメントしたから良しとしよう。


 コロンは質問に対する答えを考えているのだろう。

 腕を組み俯く、そして小さく「うーん」っと声を上げた。

 そして顔を上げると、右手を心臓の上辺りにあてがう。


「ボクから言えるのは、自分の胸に手を当て、心に聞け……。かな?」


 そう答えたコロンの表情は、どこか哀愁あいしゅう漂っているようにも見える。

 まるで切ない片思いをしている、乙女のように……。


「諦めた方が良いかって聞いたけど、きっと諦めるなんて出来ないよね? 好きってそういうものだと思うから……」


 目を閉じ、お便りをくれた方へ自身の考えを伝えるコロン。

 その姿は神に使えるシスターの様で、優しく慈愛に満ちているように感じた。

 流石にこの時ばかりは視聴からの茶化す声もへり『マジ天使』などのコメントが流れる程だった。


 そして次の瞬間、目を開けると共にその表情は元の無垢な笑顔を取り戻す。


「だ・か・ら、まずは同性だって特権を利用してお触りのスキンシップを図ったらどうだろう? 引かれない程度にさ」


 ……いや、その案は駄目だろ。

 しかし、コロンのアドバイスは止まらない。


「それで反応を見ながら、徐々エスカレート。行けると思ったら押し倒しちゃえ!! はい、次のお便りは──」


 次に進めやがった!?

 何、今の冗談じゃなくて本気のアドバイスなのか?

 実践したらどうするつもりだ……。


 画面には視聴者のコメントで多くの草(w)が生えていた。


 ごめんよ、みおラブさん。これ、俺の友人なんです……。


「──次のお便りはペンネームあかねんさんから。えーっと『コロンちゃんは男性と女性、どっちが好きなんですか? あと好みのタイプを教えて下さい』だって」


 ほう、これはまた中々に突っ込んだ質問だ。

 お悩み相談じゃなかったか? なんて野暮なことは言うまい。

 それにしても難しい話だ、答えによっては視聴者の期待を大きく裏切る事になってしまう。

 それに俺も、友人として色々と考えないといけなくなるな……。

 

 コロンは「どうしよっかな、答えようかなー」っと身をくねらせる。

 そして右手でピースを作り、アゴに当てがった。


「に・と・う・りゅ・う」


 俺の背筋に悪寒が走った。 


 こいつ、あっさり言いやがった。

 しかもそっちかよ!? 明日から警戒確定だ!


 流石の内容に、画面はコメントの弾幕でコロンの顔も見えない。


「後好みのタイプだっけ? えっとー優しくて頼りがいがあって……。あと名前にサとンがつく人かな? きゃぁー、言っちゃった!?」


 全身に鳥肌が立った。

 まだ春なのに、不思議と額や手に汗をかく。


「サ、サとンなんて、結構該当する人多いんじゃないか? ほら、例えば皿うどんとか……。何いってんだ俺、明日は学校を休もう、そうしよう」

 

 俺の心が折れてる最中、パソコン画面の端に【俺じゃなくてホッとしたよ】っとプロデューサーがフリップボードを出す。

 視聴者からのコメントには、賛同する者も入れば『コロンちゃんなら是非!』っと受け入れ体制の整っている猛者も居た。

 

 しかしそのフリップボード、それは不幸な結末の引き金だったのだ。


「何ホッとしてるんですか? プロデューサー


 コロンは本日一満面な笑みを浮かべると、何やら配信に使っているのであろうパソコンのキーボードを操作しはじめた。

 すると急に、配信画面が綺麗なお花畑に変わる。

 そして中央に大きく『見せられないよ』の文字が書かれていた。


「──ちょっとコロン? なんでこっちに来るんだ、今放送中……」


 スピーカーから、聞き慣れない男性の声が聞こえた。

 見えないが雰囲気から察するに、コロンのプロデューサーだろう。


 視聴者からも『プロデューサーの声初めて聞いた』とコメントが上がっている。


「近い、近いから!! 名前、さっきの名前じゃないから──って力つえぇぇぇ!? や、やめれぇぇぇぇ!!」


 少しの間、聞くに聞き難い悲痛な叫び声が聞こえた……。

 そしてしばらくすると画面が戻り、若干つややかにも見えるコロンが映し出される。


「──あ、もうこんな時間だ、楽しい時間は不思議とすぐ過ぎちゃうよね。次回の放送も来週のこの時間だよ。チャンネル登録まだの人は、是非登録してね」


 エンディングの決り文句を言い終えると「まった見ってねー」っと挨拶を終えるコロン。

 そしてその後、何事も無かったかのように番組は終了した。


「さて、今日は寝るか」


 俺は考えることを放棄して、ベットに入り込む。

 いつもより早い就寝。それでも今日は何故か疲れた、ぐっすり寝れる気がする。


「……コスプレ、はまり役だったな」


 深いため息のあと、俺は眠りにつく。

 目が覚めたとき、悪い夢だったと思えますようにと、切実に願いながら……。

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動画配信コロンチャンネル〜これが人気なんて、世も末だ〜【二刀流】 リゥル(毛玉) @plume95

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