独身ひとりの二刀流

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独身ひとりの二刀流

 「二刀流ってあるやん?」

 スーツを着込んだサラリーマン風の男は何気ない調子で出された話題に意見を返す。

「ありますね。宮本武蔵の剣二本持ちとか野球選手のやつとかね」

 「俺な、それになろう思うんよ。響きがかっこええからなぁ。そんなんなったら女の子にもモッテモテよ」

 両の掌を合わせ全身をくねくねさせた成人男性が行うにはいささか気持ち悪い動きには触れず、素直な感心と疑問を返す。

 「おお、じゃあこれから剣術の修行か野球の練習でも始めるんですか?」

 「いやいや何言うてんねん。おれ運動音痴やで?そんなんムリムリ。だから新しい二刀流になろう思とんねん」

 聞きなれない言葉に眉をひそめ。確かめるように言葉を返す。

 「新しい二刀流?なんですそれ?」

 「野球の二刀流かて刀持ってへんのに二刀流やろ?別に刀持ってる必要はなくて後からそれっぽいことしたらそれも二刀流って言われるようになるんよ」

 「まあ確かに言葉の意味としては二つのことを同時にこなすって感じのこともさすらしいですね。でもどうするんです?」

 「そこやねん問題は。あ、あれあるやん。ロケットモンスター。あれの今度出るサターンとスプートニク両方買って同時に進めてったらいけるかな」

 「それただのロケモンマニアの人!というかロケモンの育成法に二刀流ってありましたよ確か」

 もたらされた事実に男はこの世の終わりというようなテンションで頭を抱え呻いた。

 「マジかーそれやったら俺ロケモンにならな二刀流できへんやん。あかんな。他考えよ……あ、これやったらどうや?俺は今から買って来た弁当食う。右手に箸、左手にフォークそして……かっこむ!ほへでひとうひゅうや」

 「きったな!?ただの食いしん坊じゃないですか!食べ物飛ばさないでください!モテないですよこんなの!!」

  男は縁を切るがごとき勢いでその場を後ずさり根本的な問題を指摘した。

 「確かにちょっと行儀悪いかぁ。じゃあこんなんどうや右手にぎゃりぎゃりくん、左手にピーチバー」

 「食べ物から離れろぉ!先輩ほんとにモテる気あるんすか!?」

 「おお、めっちゃ怒るやん。モテる気ちゃんとあるでぇ。ん、そういやお前……」

 「な、なんですか?」

 男はしげしげと見つめるような動きをすると。頬を赤らめ。

 「よう見たら俺とよく似て男前やないか。ドキドキしてきたで」

 「急に二刀流に目覚めるなぁ!違うでしょ!お・ん・な・の・こにモテたいんですよね!?」

 「せやった。あまりにもイケメンすぎて正気を失ってもうとったで。これはいかんいかん。で、さっきからめちゃケチつけるけどお前はなんかアイディアないんかい?」

 男は迷走を断ち切るように頭を振り回すと視線を横に移し問うた。

 「僕ですか?そうですねえ。やっぱり仕事に関わることがいいんじゃないですか?実務にも役立ちますし仕事ができるやつはモテますよ。やっぱり」

 「なるほどな。仕事仕事~それやったらこうしてPCで書類作業をパパパーっと」

 椅子に座り腕を伸ばし目にも止まらぬ速度で男は空気にタイピングを重ねていく。

 「おお」

 「しとる横の画面でサブスクサービスつこうて話題の映画を見ると」

 「二刀流じゃない、ただのマルチタスクですそれ。仕事中に何やっとるんですかアンタ!」

 「でも仕事中ぶっちゃけ暇やん?」

 「そんなんだから成績後輩の僕に抜かれるんですよ!」

 「結局全部ダメやったなあ。こら簡単にはアイディア出てこうへんで」

 「もう止めましょう。二兎を追う者はっていうじゃないですか。二刀を目指しても仕方ないってことですよそれに……」

 「それに?」

 サラリーマン風の男はうつむき加減で言葉を絞り出していたが促しの言葉を放った後、態度を一転させた。

 「そもそも先輩何かに手を出してはすぐ辞めてまた次のに手を出してって、一刀もまともに極めれてない超絶半端野郎じゃないですか。もうちょっと一つの事に真面目になったほうがいいですよ」

 「ううん後輩にそこまで言われてしまうと俺も刀無しかたなしやなぁ……もうええわやめさせてもらいます」

 舞台が暗転する。

 白く清潔感のある楽屋の中にカメラとマイクを持った取材班らしき一団が突入していった。目的は一人の男だ。訪問は驚きの声をもって迎えられた。

 「なんやなんや今日取材とか聞いてないでマネージャー!?こういうの話通しといてくれよ~」

 「こちら夕日テレビです。今話題沸騰中のピン芸人である独身ひとりさんのお話をお聞きしたく取材にがりました!先程の演目と共にゴールデンで流れますよ!」

 その言葉が琴線に触れたのか取材を申し込まれたサラリーマン風の男、独身ひとりはネクタイを締め直し。出来うる限り紳士的で爽やかな笑みを見せた。

 「喜んでお答えしましょう。さて、何が聞きたいのかな?お嬢さん?」

 「ありがとうございます。それでは独身ひとりさんが一人何役もこなす独特なコントスタイルを始めたのはどういう切っ掛けからだったんでしょうか。」

 「簡単な話や。俺と組めるだけの才能の持ち主が周りにおらんかった。わざわざ低いレベルに合わせるより俺が全部やったほうがええっちゃうことやね。それに近年はさっきのネタやないけど一人で色々できるやつが強いみたいな風潮なのもあるな。ボケもツッコミも一人でやる。ま、これが俺なりの二刀流ってやつや。組んでくれる友達おらんかったわけちゃうで」

 ひとりの得意げな説明にマイクを構える女は感心したように幾度も首を縦に振り。 

 「なるほど~。ひとりさんのスタイルは孤独ゆえに生みだされたんですね」

 「え?あの話し聞いてた?ちょっと」

 「ところで先ほどの演目でご自分の顔立ちをイケメンと評されていましたがやはりご自分のお顔には自信があるのですか?」

 「それは言わんお約束やで!?この娘の飴と鞭のがよっぽど二刀流や!テレビ局こわ~!」

 若干、いやかなりナルシスト気味のピン芸人独身ひとり。相方、彼女、共に募集中。

 

 

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