朧守閑話 其ノ二「西組の日常」

夜坂 視丘

西組の日常 休憩時間 その一

 屯所の休憩所に入ると、彰二と夜番担当の林田がジュースを片手に何やら熱く議論を交わしていた。

(えらく楽しそうだな……)

 邪の出没件数によって変わるが、昼番が終わるのはだいたい十七時から十八時頃だ。それから夜番と昼番揃っての引継ぎが行われ、昼番は解散、夜番の一班が巡察スタートとなる。

 夜番が集合するまでの間は時間があるので、昼番のほとんどは屯所の奥の自習室で勉強したり、近くのコンビニに寄っている。

「あ、斎木君! お疲れ様!」

「お疲れ様っス、斎木さん!」

「おう、お疲れ」

 軽く手を上げて応え、一真は何気なく彼らが広げている雑誌を見た。

(…………ん?)

 見間違いかと思わず二度見する。

 それは、流行っているアイドルグループの特集ページだった。

 ライブの一幕らしく、可愛らしい衣装を身に着けたアイドルがページいっぱいに溢れている。

 彰二のアイドルやアニメ好きは前から知っていたし、林田のアイドル好きも隊の中では有名だ。

 人手が足りなくて年中フル稼働の印象がある西組だが、趣味は霊体から邪気を飛ばすのにちょうど良いからと、優音に頼めば、無理のない範囲でスケジュールを調整してくれるらしい。

 一真はまだやったことがないが、彰二や林田は時々、非番を同じ日にしてもらってはライブやイベントに出かけているという。

「あ、斎木君も見る?」

「おお、斎木さん、興味あるんスか?」

 物凄く嬉しそうに二人は雑誌を一真によく見えるように角度を変えた。

「あ、ああ……、興味があるっていうか……」

 一真は一人の少女を凝視した。

 長い茶髪をツインテールにして、赤いフリル付きの制服に身を包んだ華奢な少女がマイクを手にポーズを決めている写真だった。

 人気投票で二位らしく、かなり大きく特集されている。

「……この子、組長が女装してるとかじゃねェよな……?」

 こめかみを汗が流れ落ちた。

 顔立ちというか、ほっそりとした体つきというか、よく似ている。

 本人ではないだろうかと疑うほどに。

 一瞬、シンと鎮まった後、彰二達は手を叩いて喜び始めた。

「やっぱり斎木君も思うよね!? めちゃくちゃ似てるって!」

「昼頭と夜頭も写真見た時、スゲエ顔してたんスよ!」

「いや、どう見ても本人だろ!? つーか、あの人なら、この制服くらい余裕で着れるって!!」

 思わず言ってしまってから、周りを見回す。

 望は療養中だが、ふらりとこの場に現れないとも限らない。

「僕達も疑ったことあるけど……。ライブの日に、組長、普通に巡察やってた……」

「鎮守役とは仮の姿……、じつはアイドルやってました、とかだったら、俺、一生組長についていくとこだったんスけど……」

「ちょっと待て、林田。どっちかっていうと、アイドルが仮の姿じゃねェのか……?」

「でも、僕達、まだ諦めてないから! 組長の真の姿を必ず突き止めるんだ!」

「いや、もう答え出てるよな……?」

「斎木さんも参加しますか!?」

「遠慮しとく……。止めねェけど、本人にバレねェようにやれよ……?」


 その後、「望のアイドル疑惑」は長く深く尾を引くことになるのだが、それはまた別の話。


― 閑話 其ノ二「西組の日常 休憩時間 その一」 完 ―

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