曲芸剣士シャムーシェ 〜ようこそカザミド冒険団!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

曲芸剣士はかく語る

「つまるところ、アタシは冒険者やるにも芸人やるにも中途半端な、取るに足らない剣技しか使えないって話なんだけどさ」


 安宿の一室。

 引き締まった体と褐色の肌、曲芸剣士シャムーシェは、両手で二本の曲刀をぶらぶらと振った。


 都市と都市の間。華やかな人の営みにも魔物はびこるダンジョンにも平等に道の伸びるこの町の、冒険者ギルドからは少々離れたこの区画。

 ゴブリンかコボルトの獣道なんじゃないかという細い道を抜けた、このおんぼろな安宿を、彼女が所属する冒険団は半ば貸し切っていた。


「アタシの父親は殺し屋でね、ってもヘナチョコで、成功する方が珍しいくらいの腕前しかなかったんだけど。

 そんな親父がアタシに仕込んだのが、この曲刀の投擲術でさ。

 いわく、『殺しにも美学が必要だ』だそうだけど、殺しの美学ってこういう曲芸技をやることじゃないと思うんだよねえ」


 シャムーシェは曲刀を掲げて、明かりに透かしてみせた。


「結局、ヘナチョコな親父の仕込んだ技だから、たいしたモンにはならなくてさ。

 投げて魔物を狩れないこともないけど、まあ効率の悪いこと悪いこと。

 冒険者やって日銭をかせげないときは、広場で曲刀投げの曲芸やってコインをもらってるけど、それだって曲芸団に所属できるほど華麗な技でもない。

 冒険者と曲芸師の二刀流なんて言ったら聞こえはいいけど、要はアタシはどっちにだって一人前になれない、ただの未熟者なんだよ」


 ベッドに座って、天井を見上げて。


「普通の剣術を学び直す気はなかったかって?」


 ベッドに横たわり、視線は天井から、やがてこちらへと向けられた。

 さみしそうな、いとおしそうな目で。


「なかった。

 どんなに不恰好でも中途半端でも、親父がアタシのために遺してくれた技だから。

 アタシはこれで生きていくって、決めたんだ」


 シャムーシェはしばらく、こちらを見つめて。

 やがて身を起こし、曲刀を置いて、歩み寄ってきた。


「アタシは結局、中途半端だ。

 でもそれが、アタシという人間の等身大の個性なんだって思ってる。

 そしてここは、そんなアタシみたいな者を嬉々として受け入れる、最高級のぬるま湯みたいな場所なのさ」


 手を差し出し、シャムーシェはほがらかな笑顔で、宣言した。


「ようこそ、カザミド冒険団へ。

 ここは半端な者たちが集まる、最高に充実した集団パーティさ」

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