眠り姫は目覚めたくない

織川玉子

第1話 とある女性の悩み

 夢


 記憶には残らずとも、人は眠る時に必ず見ているもの。


 夢の中で意識があり、自由に行動できる人もいる。

 夢源大むげんまさるもその一人。


 対象の相手に身体の一部に触れながら寝る、そうすることで相手と同じ夢を過ごすことが出来る。

 夢源はその力でユメ・ミホーテという店を営業していた。




「今日も…ダメか」


 夢源は暗い部屋の中でぽつりと呟く。

 しばらくするとノック音がなり、一人の女性が扉の向こうから話しかけてきた。


「夢源先生、本日のお客様がお見えになりました」

「あぁ、ありがとう受付嬢ちゃん。今行くよ」


 夢源はボサボサの銀髪を少しセットし、黒縁の眼鏡をかけ、ボロボロのサンダルを履き床を擦りながら歩き始める。


 扉を開けると薄暗い六畳の部屋に繋がってる。夢源用のデスクに背もたれがある椅子、お客様用の丸椅子、そしてベット。

 今は丸椅子の上に女性が俯いて座っていた。


 その隣にはさっきの受付嬢が立っている。

 今日も受付嬢はコスプレをしており、それは、有名コスプレイヤーには負けないスタイルの良さと衣装のクオリティだ。

 ちなみに今回はメイド服。長い黒髪をツインテールにまでしている徹底ぶりだが、いつも太い黒縁メガネと、彼女の冷めた顔つきが可愛さを半減している。


 その格好を舐めるように見た夢源は、

「受付嬢ちゃん、今日は御奉仕してくれるのかな?」

 とセクハラ上司のような発言をする。


「殺されたいんですか?」

 受付嬢は、表情は変えず右手から仕込むナイフを出し戦闘態勢に入り、夢源の胸ぐらをつかみ首筋にナイフを突き立てる。

 夢源の身体はカタカタと震え始め、顔は青ざめていく。

 それを見た受付嬢は、


「私服です」


 と、一言口にし、ぱっと手を離した。


 急に手を離され尻もちをついてる夢源をぽかんと見つめる今日のお客様。

 彼女は長い黒髪を一つにまとめており、メガネの奥の瞳は少し潤んでいる。

 スタイルはスレンダー…だが、ふくよかな胸は隠しきれていない。


「よしっ君にもメイド服を…」

「…先生?殺されたいんですか?」

 受付嬢の冷えきった言葉が夢源と女性の間に入り込む。

 夢源は、即座にその場で土下座し事なきを得た。


 気を取り直すように、少し咳払いをしてから女性に話しかける。


「メールをくれた一花いちかさんで間違いないかな?」


 彼女は静かに頷いた。そして、喉を指さしながら一生懸命口をパクパクさせている。

 どうやら、声が出ないことを伝えているようだ。

 身振り手振りで状況を説明しようとする彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ち、床をひたひたと濡らしてゆく。

 夢源は全てを見据えたかのように、そっと彼女に微笑みかけ口を開いた。


「よくここまで来れたね、偉いよ。さぁゆっくりおやすみ」


 夢源の手が彼女の頭をそっと撫でる。

 優しく、壊れないようにそっと。

 しばらくすると彼女の表情は少し穏やかになり、すっと眠り始めた。

 夢源は彼女をそっと抱きかかえてベットへと運ぶ。

 彼女と目線を合わせるようにしゃがみ、頭を撫で続ける。時間が経つにつれ、彼女の表情は段々と穏やかになっていった。


「魔法の…手ですか」

「そう、よくこの手で妹を寝かしつけたものだよ〜懐かしいな」


 そう言うと、しばらく沈黙が流れる。

 夢源は受付嬢が何を考えているかわかったかのように、

「…今日妹は友達と遊ぶってはしゃいでてさ、ネズミの国行ってくるって。…あっそうだ!受付嬢ちゃんもどう?1回頭なでなで500円!」


 夢源は受付嬢の目の前にでかでかと五本の指を見せつける。

 受付嬢の表情は相変わらず変化は無い。軽く夢源の手をはたき、部屋の隅のロッカーあるものを取りだした。

 それを見た夢源は恐る恐る言った。


「何…それ?」

「本日の睡眠グッズ、巨大ハリセンになります」

「睡眠じゃなくて気絶しちゃうよ?」

「加減するので大丈夫です」


 何を言ってもこの状況は変わらないと察した夢源は覚悟を決めたのか、胸の前で手を合わせ歯を食いしばった。


「お休みやがれください」


 部屋中に痛々しい音が響く。

 夢源は気絶と眠りの狭間を彷徨い、無事眠りにつくことが出来た。




 寝ているのか起きているか、不思議なふわふわした感覚。

 空気が冷たいのか暖かいのか、自分がどこにいるのか、自分が自分なのかもわからない。

 君も本当に君なのか、夢の中の幻想なのか、現実は夢で、夢が現実なのか。

 自分は本当に存在するのか。


 夢の中に入る時に感じる感覚は気持ち悪くもあり、少し心が楽でもある。

 現実逃避と同じ感覚なのか、いつも不思議な感情の意味を探すが見つからない。


 そっと目を開けると、目の前に受付嬢の顔がアップで映る。


「メイド服の天使…ここは天国か」

「違います。一花様の夢の中です」


 天国も夢の中も、もしかしたら変わらないのではないか。たまにふと考えるが答えは勿論見つからない。

 夢の中では自分がわからなくなる時がある。その感覚に深く陥らない為に、頭をフル回転させいつもの自分を思い出し声に出す。

 何もしてないと夢の中に取り込まれそうになるから。


「受付嬢ちゃん僕のことが心配で着いてきてくれたのかい?」

「いいえ。先生の手汗が気持ち悪く不快で気持ち悪く汚くて最悪の極みでしたが、一花さんが先生に襲われないか心配で着いてきました」


 あぁ、この冷たさきっとちゃんと僕の知ってる彼女だ。

 少し安心していると、受付嬢は罵られて喜んでるように見える夢源のことを気持ち悪い、そんな風に思ってる表情をしてた。


 心も安定してきたので辺りを見渡す。


 一花の夢の中は、たくさんの食べ物の絵が所々に描かれていた。

 幼稚園児がクレヨンで描いたような不格好な絵。色も僕が知ってる色ではない。

 リンゴが紫色

 桃が緑

 バナナが青


(まさに夢の中だなぁ…)


 同じ風景が広がる中、しばらく歩いていると大きな音が聞こえてきた。


 ドドドドドド…


 地響きのような音。いや、誰かが走ってくるような…複数人いるようだ。

 音がする方に目を向ける。

 そこには、大きな音と共に、一花とカラフルな食べ物達が走っていた。

 顔面蒼白な彼女、どうやら食べ物達に追いかけられてるのであろう、一生懸命足を動かしているがスローモーションである。


「でたっ!夢あるある!速く走りたいのに走れない!やつだね」


 自分で見た夢と同じ状況を目の当たりにすると、少し感動してしまう。

 これはちゃんと寝ている時の、夢の現象であって現実ではないと。


 しばらく見ていると、遅れて走っている真っ黒なカボチャらしき物がいた。

 カボチャは、段々と速度が落ちていきそばに駆け寄った時にはもう動きが止まっていた。

 カボチャからするはずも無い、荒い呼吸が聞こえてきたので試しに話しかけみた。


「カボチャくん、何してるのかな?」


 呼ばれた声に反応したので、カボチャであっているらしい。

 カボチャは呼吸を整え、話し始めた。


「助けて欲しいカボ。一花様と僕たちのことを助けて欲しいカボ」


 語尾に捻りがなくて少し笑いそうになるのを必死にこらえつつ、そのまま話を続けてもらった。


「突然僕達の声が一花様に届かなくなったカボ。前はみんなで仲良く遊んでたカボ。でも声が届かなくなって、一花様に伝えたい一心で迫ってたら、みんな追いかけるようになってあんなことになったカボ…」


 カボチャの目…と思われる所から涙が溢れ出していた。

 すると、濡れた部分が自分が知ってるカボチャの色に一瞬変わったのが見えた。


「カボチャくんはどうして真っ黒なのかな?」


 ふとした疑問を投げかけると、カボチャはとても驚いていた。

 涙出てきた水溜まりにカボチャの姿を映すと、更に驚きまた涙が溢れ出した。


「なんで…思い出せない…僕はこんな色じゃないカボ…」


 多分原因は色の変化らしい。夢でありそうな事だが、夢の住人が違和感と感じてるものは何かしら問題があるということだ。

 色の変化…夢の中がクレヨンの落書きなのを見てだいたい予想はつく。

 問題は原因を作った犯人を探さなきゃならない。

 その為にある場所へ行くことにした。


「2人…とりあえず人喋るしとして扱おう。ちょっと着いてきて」

「一花さんはあのままでよろしいのですか?」


 どうやらかなり受付嬢は一花のことを心配してるらしい。

 表情は変わらないが長く一緒にいるのか、なんとなくそういうのはわかる。


「受付嬢ちゃん、見守ってあげて。すぐ戻ってくるから」

「かしこまりました。お気をつけて」


 頭をポンポンと撫でる。いつもなら触れただけで怒る彼女は大人しかった。


 ある場所へ向かうために、目を凝らし辺りを見渡す。

 少し背景が揺らめいてるところを見つけ、両手を使いビリビリと引き裂く。

 その先は真っ黒な闇が広がっており、少し気を緩めると吸い込まれてしまいそうになる。


「これは、何カボ?」

「カボチャくんも通ったことある道だよ」


 その答えに戸惑うカボチャを抱き、闇の中へ飛び込んだ。

 上も下も左も右も分からない。浮いてる感覚はなく、足を踏み入れるとそこが道になるそんな感覚だ。

 周りにはいくつものドアが浮かんでおり、様々な夢へと繋がっている。

 この空間、『夢の狭間』と呼んでいるこの空間は、人と人との夢を繋いでいる。

 人は夢の中で、知らぬ間に夢の狭間に巻き込まれている。夢の場面が急に変わるのはこれが原因だ。

 だが、夢の中で意識がある人は狭間をこじ開け自由に移動することができる。ある代償を払って。


 目的の場所に辿り着き扉をあける。

 そこには床一面にクレヨンが敷きつめられており、奥にはクレヨンでできた小屋が見える。

 1歩踏み出すと、カボチャがキラキラ輝きだし本来の色の姿を取り戻した。


「おお、カボチャくん色が戻ったぞ」

「本当カボ?早くみたいカボ!」


 キラキラとはしゃぐカボチャを撫でながら、小屋に向かい、小さな窓にカボチャを映す。


「本当カボ〜嬉しいカボ!」


 カボチャの変化を見て、ここが目的の場所だと確信した。

 すると、

「誰かそこにいるのか!」

 と小屋の中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。

 この人が原因だ、そう思い言葉を投げかけた。


「一花さんを助けたいんです」


 男は黙り込む。一花の存在を知っているようだ。さらに言葉を続ける。


「あなたの力が必要なんです」

「俺の…何故だ」


 男は窓を開け姿を現した。

 30代くらいのサラリーマンなのかスーツを着ているが、かなり乱れていて顔はやつれている。

 男はカボチャを見た途端、何かを思い出したのか隠れるようにしゃがみこんでしまった。


「僕…思い出したカボ、この人会ったことあるカボ。前に一花達と一緒にお絵描きして遊んだことあるカボ。あの時…あ!」


 カボチャは何かを思い出すと、ぴょんと窓から小屋の中に入り、男の元へ近づいていく。

 男の顔を覗き込むようにぴょこぴょこ移動するカボチャは、なにか物悲しい雰囲気を醸し出していた。


「この人は悪くないカボ…」


 少し間を置きゆっくりと言葉を並べていく。


「僕を含めたあの食べ物たちの色を変えてくれたのはこの人カボ。カラフルになったらもっと一花が喜んでくれる。そう言って…」

「違う…俺は…俺は…」


 男は、今まで溜め込んできた苦悩を吐き出すように声を荒げはじめた。

 呼吸は乱れ、時折一花の名前を呟くその姿は、心が苦しみに囚われ我を失ってるように見えた。


 僕は、ぐっと胸に拳を当てどう言葉をかけるかを考えた。

 過去にも色んな苦しみ抱えた人達を見てきた。自分のかけた言葉は正解だったのか、その人を本当に心の底から救えたのか、完璧な正解は無い。

 だけど、目の前で苦しんでる人をほっとくのがダメなことは一番よくわかっている。

 さっきよりも掌に爪痕が残るぐらいかたく拳を握りしめ胸を叩き気合を入れた。

 これが、正解なのか分からない。だけど僕の思いを真っ直ぐに伝えようと思った。


「僕が必ずあなたの苦しみから救い出してみせます」


 すると、男の呼吸は穏やかになり深くとても深い深呼吸をした。

 男はこちらに顔を向け声を震わせながらこう言った。


「お願いだ、助けてくれ」


 その言葉は彼の表情から痛い程伝わってくるきた、本当の心の底からの叫びだと。

 僕はドアから小屋へと入り、男に目線を合わせるようにしゃがんだ。


「あなたの名前は?僕は夢源 大」

「俺は…がく、花咲楽はなさきがくです。花が咲くに楽しいと書く」

「あぁ、よろしく楽くん」


 僕は楽に手を差し伸ばし、握手を求めた。

 それに応えてくれた彼の握力は少し弱かったが、顔は少しだけ笑顔を取り戻してるように感じた。

 様子を伺いながら、僕は楽に問いかけた。


「楽くんの苦しみを僕にも聞かせてくれないかな。もう、苦しませない、絶対助けるから」


 楽は少し間を置き、ゆっくりと言葉を並べていった。


「カボチャくんの言ってたようにみんなで遊んでたのさ。最初は純粋に嬉しくて…あの一花ちゃんと夢の中だけど一緒に過ごせたのが」

「ん?一花さんのこと元々知ってたんですか?」

「え?知らないの?人気アイドルの桃瀬一花。俺、昔からのファンで」



 知らなかった。

 芸能人は僕にとって雲の上の存在。生きてて会えるとは思ってもみなかった。

 そして、目を見張る僕に、楽は言葉を続けた。


「どうせ夢ならって、一花ちゃんと2人きりになりたいと思ってカボチャ…お前らの仲間に悪いことしちまったんだ。その場にあったクレヨンで見た目も変にして、あと喋れなくなっちまえば…って思ったら本当にそうなっちまって…」


 楽は一つ一つ思い出すようにゆっくりと話してくれた。

 夢は強く思えば思ったように変えることができる。本人の意思がなくても、思いの強さに反応し夢は変化する。

 人は誰しも欲を持つ生き物だ。それが夢の中だと欲を満たそうとする。何故なら夢だから、現実ではないから、当たり前の考えである。彼は…楽は何も悪くない。

 少し間を置き、悲しげに時折苦しそうな表情を浮かべまた話してくれた。


「追いかけられてる一花ちゃん、辛そうだった。それを見て俺、怖くなっちまって、逃げ出したいと思ったらここに居たんだ。最低な男だよ。そして目を覚ましたら…一花ちゃん病気により休養って…」


 泣いているのか、楽は僕に背を向ける。


「所詮夢の話、偶然重なった予知夢…正夢…?かと思った。でもその日から毎日同じ夢。目覚める度に俺のせいだと感じることが増えてきて…塞ぎ込んでたところにお前たちが現れた」


 そして楽は振り向き、僕の目を真っ直ぐ見つめ言葉を投げる。


「これは夢じゃないのか?どうなってるんだ?教えてくれ…一花ちゃんを助けることができるのか?俺は…」

「うん、もう大丈夫ですよ。楽くんは一花さんを救いたいと強く思っている。その気持ちがあれば必ず助けられます」


 僕は楽の肩をぽんっと叩く。

 楽の表情は少し和らぎ、微かに口角を上げ微笑を見せてくれた。


「楽くんの疑問を話すと長くなるから、また後で話します!さぁ、一花さんの所へ急ぎますよ!」

「カボ!」

「あぁ!」


 僕達は急いで夢の狭間に飛び込んだ。

 楽の目は戦いに挑みに行く剣士のような目をしていて、勇気を貰った、そんな気がした。


 一花の夢の世界へ戻ると、地べたに座っている受付嬢の後ろ姿が見えた。


「受付嬢ちゃん!」


 僕の叫び声に気づき、振り向くが目を伏せ、言葉を落とした。


「先生…申し訳ありません」


 何故謝ってるのか。不安にな想いを抱え。近づいていくと受付嬢の膝の上で眠る一花を取り囲むように食べ物たちが心配の声をあげていた。


「先程、一花様が倒れてずっと眠ってる状態です」

「おい、どうなってんだ…一花ちゃん助かるんだよな?」


 不安に声を荒らげる楽。無理もない、一花の顔は本来の肌の色を失っており、衰弱状態であった。

 夢と心は繋がってる。現実と夢がリンクしてる夢を見ると、心に強い刺激を受ける。夢と現実が曖昧の状態だからだ。

 吉夢であればプラスの刺激が、悪夢であればマイナスの刺激を受ける。一花の場合は言わずもがな後者である。

 このまま悪夢を見続ければ、一花の心は死に、心が空っぽのまま生きていくことになる。

 それを防ぐには、現実とリンクしてる悪夢を消し去ること。

 そして、もうその材料は揃っている。


「あぁ、大丈夫だ。花咲楽という救世主が現れたからな」


 楽は僕の言葉に一瞬目を見張った。

 そして、ゆっくりと目を閉じ深く呼吸をした楽は気合を入れるよう頬を両手でバチンっと叩いた。


「あぁ、やってみせるよ。指示をくれないか」


 楽の口からとても力強く発せられた言葉はとても頼もし感じ、瞳はまるで物語に出てくる勇敢な戦士のようであった。

 僕はその瞳に吸い込まれるように向き合い口を開く。


「クレヨンに楽くんの強い想いを、どんな夢にしたいかを願うんだ。その想いに夢は応えてくれるはず。これは、この夢を変えることが出来た楽くんにしかできない事だ」

「あぁ、自分の失敗は自分で塗り替えしてやる!」


 楽はクレヨンをぎゅっと握り締め、強く想いを込めた。

 クレヨンから光が溢れ、夢の世界全体が一瞬光に包まれた。

 カボチャや他の食べ物達は本来の色を取り戻し、ぴょんぴょんと喜びあっていた。


「ありがとうカボ!これで一花様とまたきっと!」

「あぁ、また遊んでやってくれよな」


 カボチャの頭と思われるヘタの部分をポンポンと撫でる。

 そして、カボチャは嬉しそうに仲間の元へと帰っていった。


「これで…本当に大丈夫なのか…?」


 楽の不安げな声に目を向け、僕は笑って見せた。


「あぁ、あとは現実世界の僕に任せてくれ」


 これで一花の悪夢は終わった。

 食べ物達の声が届いてるのであろう、一花の肌色が戻りつつある。


「わかった…一花ちゃんのこと後はよろしくな…夢源…先生」


 そして、楽は安堵の表情を浮かべ、バタンと背中から思いっきり倒れ込み目を瞑った。ありがとうと言葉をこぼし、とても幸せそうな達成感で満ち溢れた顔で静かに眠りについた。


「先生…最後の仕事を」


 受付嬢は膝で寝ている一花の方を向くよう俯きがちに言った。

 最後の仕事、そう僕は


「死神なんだ…ありがとうな楽」


 そして、僕は楽の首に手を伸ばした。そこからの記憶はブツっとテレビの電源が急に切れたようにいつもなくなっている。

 夢の中では最後、何者かに取り憑かれたように最後の仕事をこなすが、目を覚ました僕は何をしたか覚えていない。

 ただ、僕は死神なんだ。

 その事だけははっきりといつも僕の心を蝕むように張り付いている。

 そう、いつも。

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