Ⅳ 同志

 また、同様に〝鍛霊〟の指導を求めてやってくる他の学生達もチラホラと現れ始め、同室の二人以外にも、同志と呼べるような存在が四人集まった。


 一人はアルフォーン・サロメドンというカテドラニア王国の旧都、トレイドに住む下級貴族の子弟だ。よく引き締まった肉体を持つ黒髪短髪のラテン系青年で、幼い頃より習っていた剣の使い手でもある。


 二人目はニコラレ・ボンバへーリャ。やはりカテドラニアの都だったこともあるボンバヘーリャの街の裕福な商人の家の出であり、神学よりも天文学や古代イスカンドリアの神話に造詣の深い、金髪アフロの若者である。


 三人目はダイゴ・リオンネスという金髪を逆立てた痩せ型の、ちょっとヤンチャっぽいカテドラニア・アルマンサナの平民出身の青年だ。健康のために拳闘を嗜んでおり、やけに痩せているのはそのためであろう。


 最後、四人目は我よりも10近くも歳上の最年長、シェルモン・ロドリゴである。カテドラニアとは同君主国のポルドガレ王国出身であり、もともとは船乗りをしていたが、思うところがあって魔法修士(※魔導書の魔術を専門に研究する修道士)となり、さらにはそこから司祭を目指すべくサン・ソルボーンへ入学してきたという異色の経歴を持つ。外見も大柄でガタイが良く、浅黒い肌に坊主頭という〝海の男〟然りといった人物だ。


 いよいよ大学も卒業という年のある夏の休みの日、この六人の同志に我を加えた七人で、パリーシス郊外にあるモン・メルクリの丘へ行こうという話になった。


 モン・メルクリは斜面に葡萄畑の広がる風光明媚な場所で、物見遊山の地としてもたいへん人気が高かったが、真夏の太陽に焼かれた蒸し暑い街中を離れ、この緑豊かな避暑地へ逃れようという魂胆の他に、我らにはもう一つ、大きな目的があった。


 その山腹にはサン・ディオニス記念聖堂という、この地で異教徒に首を刎ねられ、殉教した聖人を讃える小さな聖堂がひっそりと建っており、ここへも一度、参拝しに行きたかったのである。


「――天にまします我らが神よ! はじまりの預言者イェホシア・ガリールと、殉教者サン・ディオニスの名において、我らはここに固く誓う!」


 そのこじんまりとしながらも清楚で美しい聖堂のドームに、朗々としたピエルドの声が木霊する……。


 その、果敢にも異教徒達を改宗させようとして命を落とした殉教者の聖堂において、当時、唯一司祭の叙階を受けていたピエルド主催で我々は礼拝式を取り行った。


「イェホシアの後継たる預言皇に忠誠を尽くし、預言皇の望む所、遥か海の彼方、地の果てといえども喜んで赴き、まだ見ぬ異教徒達に神の教えを伝え、必ずや神の御国へと導かんことを!」


 そして、各々顔貌かおかたちや体格は違えども、同じ黒いローブを纏った我ら七人は、プロフェシア教の象徴シンボルである大きな一つ眼より放射状に降り注ぐ光――〝神の眼差し〟の前で、生涯に渡って我らが守るべき誓いを立てた。


「ワッチジのジョバンネスコの如く皆で聖地ヒエロシャロームも訪れ、アスラーマ教徒達にも宣教したいものだな」


「ああ。それに遥か東方の国々や新天地(※新大陸)にもな」


 我の呟きに、ファンシエスコも目を輝かせながら自らの理想を語る。


「昨今、巷には腐敗した欲得まみれの聖職者が溢れ、また、〝ビーブリスト(聖典派)〟なる預言皇や教会を軽んじる異端の者達までもが我が者顔で闊歩している……今一度、我らの手で正しき教えを広め、プロフェシア教会を立て直すのだ!」


 続いて秀才ピエルドも、日々胸に溜め込んでいた熱き想いをいつになく昂揚した様子でこの機会に吐露する。


 数年前、神聖イスカンドリア帝国ザックシェン選王侯領のマルティアン・ルザールなる司祭が預言皇の権威を否定し、『聖典ビーブル』の記載のみを是とする異端的活動を始めて以来、その誤った考えに惑わされた〝ビーブリスト〟と呼ばれる者達は疫病の如くその数を増し、今ではサン・ソルボーン大学の学生の中にまで広まり始めている……。


 ピエルドの言う通り、これは我ら宣教師を目指す者としても看過できない問題である。


「それから、魔導書グリモリオの扱いについても改めねば。現状、世俗の民には禁書としながらも、魔法修士は悪魔の力を借りる魔導書を率先して利用している……これからは、悪魔由来のものを全面禁書とし、天使や天体の聖なる霊の力を使う〝テウルギア〟系の魔導書のみを利用可能とすべきである!」


 さらにアフロ頭のニコラレも天文学者らしく、魔導書についての自らの考えを改めて披露する。


 無論、我もそれには大いに賛同である。


 確かに、今の教会における魔導書の扱いには明らかな矛盾がある……神の教えを説きながら、魔法修士や海の悪魔の力を必要とする航海士など、教会の許可を得た者には魔導書を用いて悪魔を使役することを認めているのだ。この禁書政策をさらに厳しく改善することも、我らが果たさねばならぬ責務であろう。


「ハハハ…そう言われてはもと・・魔法修士として肩身が狭い……ま、これからは〝テウルギア〟のみを使うようにするんでご赦免願おう。そして、皆が宣教師として遠方へ赴く折には俺が船長となって船を出してやるから安心せい」


 大いに頷く我や他の同志達の中で、魔法修士出身のシェルモンが豪快に苦笑いをすると、海の男らしくそんな発言をする。


「ならば、拙僧は神の剣となり、異教徒やビーブリストから伝道に努める皆を守ろう」


「俺もだ。伝道を阻もうとするような輩は、俺がこの拳でぶっ倒してやるぜ!」


 すると、剣の達人アルフォーンと拳闘士のダイゴも、彼ららしい神への奉仕の仕方をそれぞれの言葉で口にする。


 騎士の家の出や武術の嗜みのある者が多いためか? どうにも我らのグループには軍隊めいたところがあるようだ……。


 だが、それは今後、異教徒の地で宣教を行なってゆくに当たり、大きな強みとなるであろう。


「ともかくも、まずは預言皇に謁見し、我ら独自の修道会開設の認可を与えていただかねば……会の名前はそう、〝イェホシアス会〟だ!」


 各々に自らの決意を表明した後、イェホシアや十二使節達も祭儀で酌み交わしたという赤ワインを、ピエルドが皆のグラスへと注ぐ。


「我らはここに誓う! 我らの手で神の家を建て直さんことを!」


「神の家を建て直さんことを!」×6


 そして、我の音頭で杯を天に掲げると、同志七人、改めて伝道の誓いを立てたのであった――。




 編者追記:

 〝モン・メルクリの誓い〟と呼ばれるようになるこの礼拝式に集まった七人は、後に預言皇の認可を得て〝イェホシアス会〟という修道会を開き、各地に宣教師を派遣することで預言皇を頂点とするレジティマム(正統派)教会の尖兵として、ビーブリストの宗教改革運動に対抗してゆくこととなる……。


(La Resurrección De Los Creyentes ~信仰者の復活~ 了)

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La Resurrección De Los Creyentes ~信仰の復活~ 平中なごん @HiranakaNagon

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