二刀流に憧れた少年

@kekumie

二刀流に憧れた少年

まだ幼い子供の前で髭を蓄えた爺さんがある紙芝居を前で読んでいた。

その物語はガタイも細い二刀流の主人公が向かってくるガタイの良い敵や、2mはあるであろう敵を二つの刃によって倒していき、大事な人を守るというものだった。

その子供の目にはその主人公はとっってもカッコイイもので、そしてあこがれの対象になった。


その子供はその物語を読んだ二年後ほどにある剣士育成の塾に入ることとなった。

二十人ほどの少年が一列になってある老人の先生の前に正座で座り、その列の中には二刀流に憧れたあの子供も混じっていた。

老人は少年たちの前で立つと、背筋をピンと伸ばしながら壁まで歩み寄っていってそしてそこから縦長の木の箱を持ってくる。

そして少年たちの前でその木の箱を逆さまにすると、その箱からどばどばと竹刀が落ちていった。

「拾うといい。今日からみっちり稽古してやる」

少年たちの顔が一瞬険しくなったが、すぐにいつもの顔に戻る。

少年たちは一斉に立ち上がりそれぞれ一本ずつ竹刀を拾っていく。

だが一人だけ竹刀を二本拾っていた。

それを見た老人はその少年にどすどすと歩いていき

「なんで二本拾ってるんだ?」と少しきつい目付きでその少年を上から見た。

「いや...二本使って強くなりたいから」

と少年は少し後ずさりしながら答えた。

「強くなりたいんだな?じゃああ一本捨てろ。話はそれからになる」

少年は手元にある二つの竹刀を見つめ、そして老人のほうへ顔を向ける。

「いやです!僕は二本使いたいんです」

「じゃあうちではない違うところに行くんだな。ワシのところは二刀流の剣士を育てるところではなく、強い剣士を育てるところなんでな」

老人はそう告げると、少年とは逆の方向に歩いて行った。他の少年たちも少しは少年を見つめ、最後まで刈り上げの少年がずっとその少年を眺めていたがやがて老人に続いていくように歩いて行った。

少年は泣きそうなのをこらえながら、ドアから外へと出て行った。


少年は家に着くと、髭を蓄えたじいちゃんのもとへ泣きながら駆け寄っていった。

爺ちゃんは理由を聞くこともなく、ただその少年の頭を撫で続けた。

少年はそれから剣技の塾に通うこともなく、独学で二刀流の剣技を磨き続けた。

晴れの日はもちろん、雨の日や風の吹く日も二本の竹刀やたまに真剣を使ったりしてその実力はだんだんと上がっていった。対戦相手と仮定している藁人形はもうすでに何体もボロボロになっていた。


その少年が十七歳になる日、つまり二刀流を磨き続けて十年ほどがたった日。

その日は突然だった。少年と爺ちゃんが机を囲みながら昼食を食べていると突然ドアが蹴破られた。

二人が一斉にドアの方向を見ると、そこには髪を刈り上げ、肩に剣を担いでいる青年が立っていた。

「金目の物すべて出せ。今すぐだ。抵抗するよなよ」

その青年はどかどかと歩いていき、二人のいる居間へと上がっていった。

ご飯を食べていた少年、青年は入ってきた青年に見覚えがあるような気がし、そしてじわじわと脳が記憶が蘇っていった。

ただ青年はその記憶が蘇ると同時に青年は立ち上がり壁にかけたててあった二本の真剣を取り、二本の剣をその青年へと向ける。

後ろにいた爺ちゃんは立ち上がり、壁に立てかけていた竹刀を取った。

ドアを蹴破った青年は二刀流の青年に思いっきり駆け出していく。

そして青年が振りかぶった一撃を左手の剣で受け止めようとするが、後ろに吹き飛ばされてしまう。ドアを蹴破った青年は吹き飛ばされた二刀流の青年にとどめの一撃を刺そうとするが、そのトドメの一撃を何とかしてして二本の剣で受けきって反撃として右手の剣で首を狙いに行く。だがそれは弾かれ、右手に持っていた剣は吹き飛ばされていった。そして二刀流ではなくなった青年がよろめいた所をドアを蹴破った青年が二刀流の青年の脇腹に蹴りを入れ、二刀流の青年は気絶してしまった。

その二刀流の青年にとどめを刺そうとした青年の剣を何とかして竹刀で爺ちゃんが受け止めた。

そして爺ちゃんと青年の戦いが始まり、決着は一瞬で着いた。


二刀流の青年が目を開けたとき、目の前に居た爺ちゃんには左腕が無かった。切られたところからは血がドバドバ出ており、苦悶の表情が見て取れた。


そしてその日、二刀流の青年は左手に持っていた剣を捨てた。




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