憧れの二刀流

星帽子

第1話 憧れ

「やっぱ現実だわ」


 誰も居ない剣道場で俺は仰向けになっていた。近くには木刀と竹刀が転がっている。顔だけ起こし目の前の防具を付けた人形を見る。

 


 事の始まりは数時間前。いや、もしかしたら数年前なのかもしれない。

 小学生高学年の時、俺はラノベにハマり始めた。そこからアニメ、漫画、ゲーム、などオタクの道を進み歩み始めた。特に好きだったのが異世界系で魔法や剣にバカみたいに憧れた。そしてこの頃に俺の性癖が確立された。おっぱいが大きくて背の小さい子が好きだ。この事を友人に伝えたらロリ巨乳と診断された。確かに巨乳は好きだが、俺はロリコンでは無い。たまたま小さい子が好きになってしまうだけだ。

 

 話を戻そう。とにかく剣を使うキャラには強い憧れを持ち二刀流になったりした時はニヤニヤが止まらなかった。後で聞いた話だが授業中に声が漏れてたらしい。

 中学に進学しても思いは変わる事なく、むしろ悪化した。しかも厨二病を発症していた。異世界転生したらどんなジョブを選ぼうか、どんな武器、どんなチート能力に目覚めるか。そんな事を考えていたら授業なんてあっという間に過ぎる。

 極め付けはここにテロリストが来たらどうやって撃退するか。撃退方法も色々考えた。今まで隠していた超能力とかで一掃したり、魔法とかは無しで普通に体術で撃退したりした。体育の評定は中高常に「2」にだったが、俺だけの世界妄想ではアスリート顔負けである。どうでもいいがラノベにハマったが成績は落ちなかった。代わりに視力が落ちた。


 そしてオレの厨二病絶頂期はあるラノベに染まっていた。「旅の栞本」というラノベだ。

 このラノベは、商人と見習い魔法使いが旅をする物語。目的は世界中を旅する事で他のラノベに比べると、ふわっとしてるがこれがまた面白い。このラノベに出会ったのは普通にイラストが好きだった事。表紙の見習い魔法使いが可愛くて性癖ドストライクで買ったが、それ抜きにしても面白い。後はタイトルが短いのに惹かれた。タイトルが長いのは余り好きでは無かった。普通に面白いのもあるがそれでも読む前は躊躇してしまう。

 このラノベに染まった内の1つが主人公が二刀流を使う事。基本的には短剣メインだが、強敵との闘いでは二刀流にチェンジする。自分の妄想でもかなり満足していたが、更に磨きがかかった。

 そして最終的には真似をしていた。今思えば黒歴史だが厨二病が正常な判断を阻害していた。傘を剣に見立てブンブン振り回していた。やってる事は小学生だがそれでも楽しかった。1番再現できたのは主人公が使う技「ソード・スライダー」だ。簡単に言えば走って斬りつける感じ。

 忘れもしない学校帰りの6月10日。新刊が明日発売で気分はよかった。その嬉しさを表現するかの様に「ソード・スライダー」の真似をした。その直後に後ろから自転車が通り過ぎた。その日はどうやっでも帰ったか覚えてないが、2度とその道から帰る事は無かった。


 高校に入学してからは勉強に追われた。大学に進学する頃にはオタクの熱も冷めていた。一人暮らしする際、今まで集めたゲームやらマンガを売ったりしたが「旅の栞本」だけは手放せなかった。


 大学になった俺は、少しは熱を取り戻したが全盛期には及ばない。それでも楽しかった。

 

 大学で知り合ったサークルの女の子の家の掃除の手伝いに来ている。因みに彼女は「旅の栞本」を知っていた。それで仲良くなった。

 彼女はめちゃくちゃお金持ちで家もバカ広い。プールとか剣道場、地下もある。それで俺は剣道場を任された。普段から掃除してるのか掃除機で吸ってもほぼゴミが出ない。

 倉庫も汚れてないか確認した時、ある物が目に入った。

 木刀と竹刀だ。この時、忘れていた何かが蘇った。持ちたい、振ってみたい。蘇った気持ちは徐々大きくなっていく。


 倉庫から木刀と竹刀、練習で使うのかもしれない防具をつけた人形を引っ張り出してきた。いざ持ってみると重い。どちらも片手で振り回せる様な代物では無い。実際の剣はもっと重量感があるのだろうか。

 だが今はこの重さが心地よく感じた。中学に心の底から夢中になって技を真似をした人に。例えて架空の人物でも近づけた。

 木刀と竹刀を構え、防具付き人形に向けて渾身の一撃を放つ。


「ソード・スライダーっ!!!」





 そして、その場に転げ回った。鍛えても無いし、運動神経も良くない。重い木刀と竹刀を持ち、走って斬りつける。イメージでは完璧で、防具を破壊していたが所詮妄想。2つを持って走るまではよかったが、斬りつける際木刀は人形に当たらず、竹刀は肩に当たったが手にくる衝撃が凄い。


 そして今に至る。手に来た衝撃もだいぶ治まってきた。


「やっぱスゴいわ」


 所詮架空とは言え、剣を軽々扱う。ましてはそれを2本。何をどうすればその領域に行けるのか。改めて自分が夢中になったキャラのスゴさを知った。それと同時に昔の俺が完全に蘇った。とりあえず家帰る前にアニメショップに寄ろう


「早く片付けるか」


 竹刀が当たった時にそれなりに音はした。俺が散らかしたのがバレない内に片付けよう。

 防具付き人形を持ち上げた時に、腕に違和感を感じた。

 

「明日筋肉痛か」


 ついでに薬局にも寄る事を決めた。




 

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憧れの二刀流 星帽子 @aobashi72

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