二刀流剣士ジュペのその後
白兎
第1話
光の国の伝説は終わった。
光の子は光の粒となって空へと散った。剣士ジュペと光の勇者シュリ、魔術師ゴドーと語り部のユーリは、いつまでも、その光の粒を見つめていた。
戦いを終えた彼らは、それぞれの道へと分かれた。シュリとジュペはしばらくは同じ方向へと帰った。
ジュペの国、要塞の国ドクーグへと近づくと、その上空を暗雲が覆っていた。
「あれはなんだ?」
ジュペが言った。
「雨雲か?」
シュリがそう答えたが、ただの雲ではなさそうだった。
「急ごう。嫌な予感がする」
二人がドクーグへ入る門へたどり着くと、門は硬く閉じられていた。
「どうなっているんだ? 門番もいない、警備兵はどこへ行った?」
ジュペはただならぬ状況だと悟った。
「シュリ、こっちだ」
ジュペは秘密の入り口を知っていた。そこから中へ入るには特別な鍵が必要で、ジュペは常にそれを持っていた。
隠し扉から中へ入ると、ランタンに灯りを灯し、暗い廊下を進んだ。城の内部へ入ると、父の元へと急いだ。
「父上! どこにおられますか!」
ジュペが声をあげて父を呼ぶと、
「王子!」
父の側近がジュペを見つけ、駆け寄った。
「何が起きているのですか?」
「お二人ともご無事で何よりです。さあ、こちらへ。王も待っておられます」
王は無事だった。
「よく帰った、我が息子よ。シュリも無事で何よりだ。この国を覆う暗雲を見たか?」
「はい。あれは何ですか?」
「黒龍の雲だ。誰かがあれを復活させた。まだ被害はないが、誰が何の目的でこのドクーグに黒龍を仕掛けたのかが分からん」
「黒龍が襲ってきたら、私の剣で斬ります」
「人の剣であれを斬れるものか。神とも魔物とも言われるあれを、人は誰も消し去ることが出来なかったのだ。だからこそ、封印されていたのだ」
「シュリの持つ光の剣ではどうでしょうか?」
「光の剣、もしかしたら斬れるのかもしれないが、あれを斬ってよいものなのか」
二人の会話はそこで途切れた。結局、どうすればいいのか分からないというのが結論だった。
暗雲から、見え隠れする黒龍の姿に、民は怯え、家に籠っていた。
「父上、黒龍は操られているのですか?」
「いや、違う。あれを操ることは出来ない。あれはわが国の中で封印されていた。この国に混乱を起こすためにその封印を解いた者がいるはずだ」
「それでは、その者を探し出し、倒せばいいのですね」
「捕まえろ。再び封印しなければならない」
「分かりました」
シュリと、ジュペは城から出て、街中を捜し歩いた。
「封印を解くことが出来るのは魔術師なのか?」
「たぶんそうだろう」
「目的は何だろうか?」
「この国を手に入れようとしている他国の策略だろう」
路地から広場に出ると、
「王子!」
警備兵の長であるキジが、王子に駆け寄った。
「よくご無事でお帰りになられた」
そう言って、ジュペを抱きしめ、身体をさすった。
「ありがとう。それより、怪しい奴は見つからないのか?」
「それが全く。どこに姿を隠しているのか。やはり魔術師を探すには魔術師の力が必要なのですかね」
ドクーグには魔術師はいなかった。
「あきらめずに探しましょう」
シュリがそう言って、皆を励ました。光の子のヤマトや太郎だったなら、その鋭い感覚で見つけ出すことが出来ただろう。魔術師のゴドーなら、とっくに見つけて吊るし上げているに違いなかった。
シュリは自分が無力なことに気落ちしていた。皆を励ますことで、自分を鼓舞したのだ。
その時、シュリは影が動くのを見た。
「ジュペ、キジ、あの角に誰かいる。気付かなかったふりをして、三方向から追い詰めよう」
シュリが小さな声で言った。自分たちが魔術師を出し抜けるのか?
「手分けをして探そう」
シュリはそう言って、三方向に分かれた。相手は魔術師で、その能力も分からず、危険は承知の上だった。
ジュペがその男に遭遇した。相手は魔法の杖ではなく、剣を持っていた。ジュペは背中の二本の剣を抜き、先制攻撃を仕掛けた。
相手の剣は魔剣で、禍々しいオーラを漂わせていた。
「お前は誰だ?」
男は答えなかった。
男が魔剣を振りかざしてきたが、それをジュペは二本の剣で受け止めた。魔剣のオーラはジュペの剣にまとわりついた。
そこへシュリとキジが合流した。シュリは相手の男の剣から出る黒いオーラを見た。
「まるで、闇だ」
シュリは光の剣を構え、男とジュペの剣が当たる場所に向かって振り下ろした。光の剣から発せられた光の刃が魔剣の黒いオーラを切り裂いた。
男はあっという間にジュペの双剣に押し負かされた。
「さあ、答えてもらおう。お前は何者だ?」
男の喉元に剣を突きつけジュペが尋問した。
男は観念したようで、
「殺せ」
と言って口をつぐんだ。
警備兵たちが男を連行していった。
「男の口を割らせる必要があるな」
ジュペはそう言って、ゴドーの事を思った。
「あの男を呼ぶか?」
シュリも同じことを考えていた。
城の地下牢には魔術封じを施した部屋があり、男はそこへ幽閉された。
次の日、
「呼ばれてきてみれば、黒龍とはな」
ゴドーがドクーグに来た。
「すまない、クリスタへ帰るところだっただろうが、頼める者は他にいない」
「フンッ。そもそも黒龍を封印しているなら、魔術師の一人くらい雇え」
「それもそうだな」
魔封じの部屋に幽閉された男は、ゴドーを見るなり怯えた。
「あんた、伝説の男だな」
「フンッ。そんなことはどうでもいい。お前の素性は分かった。雇い主もな。お前はこのままだと殺される。失敗したら殺すなんて雇い主にお前は忠誠を誓えるのか? お前も同じ故郷の者、ここでお前を始末するのも俺の役目なのかもしれないな」
ゴドーは冷たく言い放った。
「ゴドー、この者はまだ誰も殺してはいない。私の国に被害はない。あの黒龍さえ封印してもらえればいい。ここを襲わせようとした敵国への警告はまた別の話しだ。この男の処遇は父と相談する」
「王子様はお優しい。敵国の魔術師に温情をかけるとはな」
男の名はキサラと言い、ネルビスという国で正式に雇われるための、手柄を立てなければならなかった。
キサラがドクーグの黒龍の封印を解き、混乱に乗じて、攻め込む手はずだった。まだ、未熟な彼には己の力では封印を解くことは出来ず、熟練の魔術師がキサラを通じて、遠隔で封印を解いたという。
「お前にかけられた呪詛は解いた」
ゴドーはキサラにかけられた呪詛を解き、呪詛返しで相手の魔術師はしばらく動けないだろうと言った。
「なぜ、私を助けるんですか?」
「ジュペがお前に温情をかけた。ならば、俺も同じことをする。それだけだ」
キサラには黒龍を封じることは出来ないと分かったが、彼は行き場を失った魔術師。この国に魔術師が必要なことは誰もが知っていた。後は王が決める事だ。
「まずは黒龍を封印するぞ」
ゴドーがそう言って、杖を手に表へ出ようとしたその時、黒龍に向けて何者かが矢を放った。それは普通の矢ではなかった。
「くそ! 他にも侵入者がいたのか」
黒龍に矢は刺さらなかったが、急に暴れ出した。ゴドーは窓から飛び出し、黒龍の気を引こうとした。しかし、黒龍は矢を放った者を見つけ出し、黒い炎を口から放ち、焼き殺した。炎は民家も燃やしてしまった。ゴドーはすかさず民の救助へ向かった。ジュペとシュリは魔法の壁掛けに乗り、黒龍へと飛んだ。黒龍へ向けてシュリが光の剣を振り下ろした。光の刃は黒龍をかすめた。ジュペは双剣を持ち、黒龍へ向かって呼びかけた。
「私はこの国の者だ。お前に危害を加えるつもりはない。矢を放ったのは敵国の刺客だ。気を静めてくれ」
黒龍はなおも暴れ続けた。警備兵たちは民を安全な場所へと誘導している。ゴドーは救助を終え、再び参戦した。
「奴の気を引きつけておけ。俺が封印する」
「ゴドー、封印はかわいそうじゃないかな? 黒龍の本来の住処はどこなのだ?」
「それを聞いてどうする?」
「ゴドーが黒龍を安全な場所へ連れて行ってくれたらいい」
「けっ。王子様は無茶なことを言う」
「出来ないのか?」
ジュペとゴドーの会話にシュリも入って来た。
「出来るさ。あいつのかつての住処も知っている。大昔の話しだがな」
そう言って、ゴドーは今まで見せた事のない壮大な魔術で、あの大きな黒龍を水晶に閉じ込めた。
「お前には、出来ないことはないのか?」
ジュペは呆れたように、そして、感心して言った。
「俺はまた旅に出なくちゃならなくなったじゃないか」
「それは悪かったね。でも、その前に、あの未熟者を鍛えてやってほしい」
それから、ひと月ほど、ゴドーはドクーグでキサラの魔術の指南役として勤めた。
その後、クリスタの街へ帰り、また、黒龍の住処のある場所を目指して旅立った。
シュリは光の国ケシュラの使いの者が迎えに来て、無事国へ帰った。
王子でもある、最高の剣士ジュペは、日々の鍛錬を怠らず、今日もキジを相手に剣術に励んでいる。
二刀流剣士ジュペのその後 白兎 @hakuto-i
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