第3話

「熱が高すぎてね、もう一度来てもらったんだ」



 隣人は目を覚ましたジャンボを見て、ほっと溜息をつきながら、医者に会話の主導権を譲る。



「こんばんは。昼にも診察させて頂きました。

風邪……ではあるんですが、ただの風邪とは少し違うようで。

抗生物質を持ってきました」



 ジャンボは半分くらいしか理解できなかったが、ありがとうございますと呟いた。

チョコとバニラはほとんど眠りながらジャンボにすがって泣いている。



「なんだか、懐かしい夢を見てたよ」



 呑気だな、なんてバニラが不機嫌そうに目を擦った。

ジャンボは二人の顔に手を添えて、涙を拭った。



「俺の家はここだって、ちゃんと思い出せて良かった」



 なんとなく影を含んだ言葉にチョコは余計に泣いたが、バニラは少し考えるように俯いて、そっとジャンボの頭を撫でた。



「なんか、知らないけど。ジャンボの家はここだよ」



 ジャンボは驚き、そしてゆっくり笑って、その手を受け入れた。

あのまま幸せな夢を見ていたかったと、ほんの少しだけ思った自分をどつく。

夢は夢だ。もっと大切な現実がここにある。



「ありがとう」



 ジャンボはバニラを抱きしめた。

涙が止まらないチョコも、なんとか腕を伸ばして抱きしめた。

医者と隣人は顔を見合わせて、少し微笑んで、それぞれ帰っていく。


 ジャンボは二人分の小さな温かさを腕に抱え、ぼんやりと天井を見上げた。

俺はまだそっちへはいけない。

何度か繰り返した言葉をまた、強くつなぎ止めた。

そして視線を二人に戻し、目を閉じた。


 しっかりと、彼らを抱え直す。

そのまま、三人で眠ってしまうまでずっと。



終わり

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風邪(夜光虫シリーズ) レント @rentoon

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