パンorライス?

星ぶどう

第1話

 俺には得意料理がある。おにぎりとサンドウィッチだ。まあ料理と言えるかはわからないが。でもこの2つの料理には自信がある。

 うちの両親の実家は両方とも飲食店を営んでいる。父の方がおにぎり専門店、母の方がサンドウィッチ専門店だ。正反対の2人がなぜ出会えたのかはわからない。だが俺の両親は俺をそれぞれ後継にしようと考えている。俺は一人っ子で父も母も兄弟がいないから、どちらかは後が絶えることになってしまう。だから俺の両親は徹底的に俺に作り方を学ばせた。そのおかげで俺はおにぎりとサンドウィッチの両方の技術を持っているのだ。

 キーンコーン、カーンコーン。

 昼休みになった。待ちに待ったお弁当の時間だ。俺はカバンから弁当箱と宇宙関連の雑誌を取り出した。昼食をとりながらこの雑誌を読むのが俺の日課だ。宇宙はいい。果てしなく広くて、静かだ。宇宙でうちのおにぎりとサンドウィッチを食べるのが俺の夢だ。おにぎりとサンドウィッチの作る技術はあるが、宇宙にはまだ行けない。だからこうして雑誌を読み、宇宙感を感じながら食事をする。

 今日の俺の昼飯は俺が自分で握ったツナマヨのおにぎりだ。弁当箱の蓋を開けるときれいな三角形が3つ並んでいた。こんなふうに綺麗な三角形にするのは中々難しい。俺は4歳の頃から握らされたが、綺麗な三角形を握れるようになったのは小学校5年生の頃だった。

 俺はおにぎりを1つ取った。さて肝心なお味は?うん、うまい。やはり俺の握ったおにぎりはうまいなあ、と自画自賛しながら食べた。もちろんおにぎりだけではなく俺が作るサンドウィッチも天下一品だと俺は思っている。

 学校が終わり家に帰るとすぐに俺はリビングに呼ばれた。父と母が真剣な顔で座っていた。しばらく沈黙があった後父さんがようやく口を開いた。

 「父さん達、ずっとお前がおにぎり屋とサンドウィッチ屋のどちらを継いでもらうかで争っていただろ?それをいい加減もうやめようかなと思うんだ。」

 「え、どういうこと?」俺は聞き返した。

 「実は母さんと父さん、別にどっちを継いでもらっても構わないとずっと思ってたの。むしろ継いでもらわなくてもいいって思ってる。でも私たちの親がどうしても後を継がせたいって言ってて。それで小さい頃から作り方を教えていたの。」

 「そうだったのか。」

 初めて俺は両親の心の内を聞いた。俺の父と母の結婚は断じて許されなかったらしい。だが必ず孫に後を継がせると約束して結婚したそうだ。やはり最後には愛が勝つのか。

 「でも最近うちのサンドウィッチ屋と父さんのおにぎり屋の対決がさらに激しくなって、このまま行くと最悪離婚しないといけなくなるかもしれないの…。」

 「え…。」

 俺は驚いた。そこまで事態が悪化していたとは。

 「だから今日どっちを継ぐことにするか決めて欲しいの。もちろん他にやりたいことがあるんだったらそれでもいいのよ。むしろそっちの方が両親も諦めがつくというか…。」

 俺は少し考えて、そして言った。

 「わかった、良いよ。決めてあげる。俺はおにぎりもサンドウィッチも好きだ。だから俺やるよ。決める前に、最後に両方作りたいから用意してくれるかな。」

 「わかった。」

 俺の両親はすぐに準備に取りかかった。俺には考えがある。絶対に父と母を離婚させたりはしない。

 夜7時。運命の時が来た。俺の前には2つのテーブルがある。1つはどんなおにぎりも握れるように店にある全ての材料と道具が置かれていた。もう1つはどんなサンドウィッチも作れるように店にある全ての材料と道具が置かれていた。俺の両親と2人の祖父母が見守っている。

 早速俺は調理に取りかかった。まず梅干しを手に取ると俺は反対の方に行ってサンドウィッチのパンに梅干しを挟んだ。

 「おい何をする!」

 母方の祖父が怒鳴った。

 「ねえじいちゃん、食べてみてよ。」

 「なに?」

 祖父が不満そうな顔をしながら俺の作った梅サンドを口に入れた。

 「うわ、なんじゃこりゃ。まずい…。サンドウィッチに梅干しは合わないんだよ!」

 祖父は怒っていた。

 次に俺はたまごを手にしてご飯の上にのせ、握っておにぎりにした。

 「ちょっと、どうしたの?」

 今度は父方の祖母が話しかけてきた。

 「ねえばあちゃん、食べてみてよ。」

 「いいけど。」

 祖母は俺の作ったたまごおにぎりを口に入れた。

 「まずくはないけど、ちょっといまいちよね。」

 祖母は困った顔をしていた。

 そして最後に俺はツナマヨを手に取り、おにぎりとサンドウィッチの両方を作った。そしてその2つを父と母、そして両方の祖父母にあげた。

 「うん、やっぱりツナマヨおにぎりはうまいな。」

 「ツナマヨサンドも最高!」

 みんな喜んで食べてくれた。なんだか俺の技術が認められた気がして嬉しかった。そして俺は言った。

 「おにぎりもサンドウィッチもそれぞれの良さがあってそれぞれにしか合わないところもある。でも違いは沢山あっても似ているところもある。このツナマヨのようにね。」

 父方の祖父母と母方の祖父母は互いに顔を見合わせた。

 「だから同じ食べ物なんだし、結局は食べる人の笑顔を見たいっていう気持ちは同じはず。互いに競う必要はないと思うよ。似たもの同士なんだから。」なんか俺良いことを言った気がする。

 「私たちが悪かったわ。サンドウィッチも美味しい食べ物なのにね。」

 父方の祖母が謝った。

 「いやいや、わしらの方こそ。おにぎりもうまいのにな。」

 母方の祖父も謝った。

 良かった。どうやら和解ができたらしい。これで離婚の危機は避けられた。

 「ところで結局どっちを継ぐんだ?」

 喜びムードの中父が聞いてきた。俺は意を決して答えた。

 「どっちもやらないよ。アルバイトでも雇えば?」

 全員が目を丸くした。

 「じゃあ将来は何をするんだ?」父が聞いた。

 俺は答えた。

 「おにぎりもサンドウィッチもマスター気がした気がするから。俺、宇宙飛行士を目指す!」

 




 

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