二刀流が口癖の男

にゃべ♪

あいつの口癖は二刀流

「俺は二刀流だぜ」

「何の二刀流だよ」


 最近知り合った須藤は口癖のように二刀流と口にする。二刀流と言う言葉が気に入ってるんだろうな。二刀流って言葉には、両手に剣を持って戦うと言う本来の意味の他にも、全く違う2つの何かの達人とかそう言う意味もある。甘いのも辛いのも好きって言うのも二刀流になるんだそうだ。結構ガバガバだよな。


 で、須藤なんだけど、特に器用な方じゃない。どちらかと言うと不器用な方だ。いつものんびりしているし、マルチタスクが得意と言う訳でもない。だから、ヤツが二刀流と言う言葉を口にしても全然ピンとこなかった。

 ある日、俺はヤツと昼食を共にする。この時はうどんを食べたのだけど、須藤は七味を大量に入れて満足そうな笑顔を浮かべた。


「俺、お菓子も辛いのも好きなんだよね」

「そう言うやつかい」


 こうして二刀流の謎も解け、俺達は笑い合う。この昼食を経て、俺は須藤をちょっと気に入った。笑顔は人懐こいし、力はあるし、割と素直だし。それに、話すと意外と気が合ったりするんだよな。


 そんな須藤だけど、たまに姿を消す事があった。何か事情があるのだろうけど、誰も姿を消す理由もその時どこで何をしているのかも知らない。不思議とこの謎を追求しようと考える人はいなかった。俺もそうだ。そう言うものだろうと言う認識だった。


 ある日、たまたまヤツと帰り道が一緒になる。最初は普通に雑談してたんだけど、話のネタがなくなったので何気なくこの話題を振ってみた。


「お前たまにいなくなるけど、どこ行ってんだよ」

「秘密」


 誰にも行き先を告げずに消えるのだから、そりゃ話してくれるはずもないわな。俺はすぐに訳ありだと感じて、それ以上は聞かなかった。ただ、この話をした時の須藤の顔が少し動揺しているように見えたのは気のせいだろうか。


 ヤツと別れた後、俺は電車に乗る。あまり疲れていた訳でもないのに、いつの間にか寝てしまったようだ。気が付くと乗り過ごしていた事が分かる。焦った俺は次に停まった駅で降りた。

 電車が去った後、俺は謎の違和感に襲われる。


「あれ? この駅……」


 駅自体には何の変哲もなかったものの、周りには誰もいない。駅名を確認したところで、俺は突然の頭痛に襲われる。頭が割れるように痛い。この駅は――。


 気が付くと俺は自分の部屋にいた。布団で寝ていたんだ。自分の足で帰ってきた事を確認して、駅の事は夢だと確信する。どうやって帰ってきたのかの記憶も曖昧なのを気にしない事にして。

 朝、須藤に出会った時、俺は話のネタにこの事を口にする。


「……って言う夢を見たんだ」

「良かったな、夢で」

「だな~」


 こうしてあの不思議な体験は雑談のネタで消費したものの、この日以降、俺は謎の不運に襲われ続ける事になった。

 青信号で道路を渡っていたら車に轢かれそうになったり、何もないところでコケたり、散歩中の犬が突然興奮して追いかけてきたり、すれ違ったガラの悪い人に目をつけられたり、看板が目の前で落ちてきたり……。


「今日は厄日か? それにしてもヒドすぎるだろ」


 不運の規模がどんどん大きくなってしまい、俺は道を歩くのも怖くなってきた。それで出来るだけ人通りが多いルートを選んで歩いていたはずなのに、気が付くと周りには誰もいなくなってしまう。

 流石にこれは変だと思ったものの、自分ではどうしようも出来なかった。何かに導かれていると言うか、誘導されて言うと言うか、操られていると言うか……。


 どこをどう歩いたのか、俺の目の前には人気のない神社の鳥居があった。既に夜になっていて、物音ひとつしない。暗くて不気味な静寂にビビっていたところで、俺は誰かに突き飛ばされて神社の参道に転がった。


「な、何すんだ!」

「そこから出るなよ」


 聞き覚えのある声での忠告。それで周りを見渡したものの、夜で暗いのもあって声の主の姿は見当たらなかった。ただ、この鳥居から外に出たら何かとんでもない事に巻き込まれそうな気がして、足は石のように動かない。

 不安になってじいっと外を見ていると何かが飛んできた。俺はそれをタイミングよくキャッチする。手のひらを確認すると、小さな人形のようだった。


「お守りだ! 持っていろ!」


 声の主の言うお守りを俺はギュッと握りしめる。すると、さっきまで見えなかった何かがおぼろげに視界の中に浮かび上がってきた。

 何と、鳥居の外では異形の化け物が蠢いていたのだ。大きな虫のように見えるそいつは、別の異形のものと戦っているようだった。


 俺は初めて見るこの光景に言葉を失う。しばらく観察していると、大きな虫が神社に入ろうとしていて、それを別の異形が阻止しているようだ。多分、その阻止しているヤツがさっきの声の主なのだろう。


 そいつは両手に長い刀を持っていて、頭には角が生えているようだ。異形同士のバトルははっきり見えている訳ではなくて、その姿は真っ黒で影にしか見えない。ただし、そのシルエットはどこか見覚えがある。

 聞き覚えのある声と見覚えのある姿から結論を導き出した時、俺はまた布団の中にいた。


「また夢かよ」


 あまりにリアルな夢の残像に現実が追いつかない。そして、目覚めた俺の手にはお守りが握られていた。あの時に渡された人形だ。


「あははは……」


 俺は須藤の言っていた二刀流の意味が分かって、布団の上でひとしきり笑ったのだった。

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二刀流が口癖の男 にゃべ♪ @nyabech2016

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