第5話

 寝ぼけたまま、街を歩いたことはぼんやりと記憶にある。

眠気覚ましだと置かれたバオズを、起き上がったカウンターでそのまま食べた。

その味は、この街に戻ってきた頃から変わらない、親しみのある温かい味。


 まだぼけっとしていたが、ふと、街を歩いた時に見た視界がうっすらとよみがえる。



「今日は亡くなった人が帰ってくるんでしたっけ」

「一応ね。西側ではそう言われてる」



 店主は忙しそうにしながらも、ジャンボの呟くような問いかけに答えた。

なら、あの光景は夢ではなくて、本物だったのかもしれない。

すっかり見慣れた道の人通りの中に、数人、懐かしい顔がこちらを見ていた。

一人で歩いていたら、もしかしたら、連れていかれたのかもしれない。



「なー、ジャンボ。なんでそんな疲れた顔してんの?」



 改めて隣に腰掛けたチョコが尋ねた。

バニラはやっと慣れてきたようで、どこか不満そうにしながらも、バオズを食べている。

ジャンボは、少し悩みながらも答えた。



「仕事が大変でさ……なーんか、監督がやな奴なんだよ」

「えー、そんなのやめちゃえば?」

「そう簡単にはいかないよ。色んな人に迷惑がかかるしさ……」

「ジャンボ強いのになぁ。監督なんてひとひねりだろ?」

「ひねったら俺が終わるよ。物騒なこと言うなって」

「ひねれるのは否定しないんだ……」



 やっぱりジャンボおっかねーなんて、チョコとバニラは笑った。

そう、たぶん、ひとひねりかもしれない。

なのに、街の陰から自分を呼ぶ声は、いつまで経っても消えなくて。


 ジャンボはぽそりと呟いた。



「なんか、今日ならちゃんとお化け見れる気がするなぁ」

「やめろよ!お化けなんていないんだもん!」



 とたんにチョコは怖がって怒り出す。その奥で、バニラは困ったように笑っていた。

慌ててなだめようとするジャンボに、バニラが言う。



「お化けが出ても、ジャンボならひとひねりだろ?」



 バニラはジャンボに笑いかけた。

その笑顔に込められた思いを、ジャンボは驚きつつも受け取った。



「なんだか、大人みたいな顔で笑うようになったな」

「誰かさんのせいでね」



 さっき物陰に隠れて泣いてたくせに、バニラはすました顔でバオズを食べた。

今度はジャンボが困ったように笑った。

チョコもバニラもなんだかんだ成長してるもんだと。



「また来年も来ような」



 ジャンボはふてくされるチョコにも、大人ぶるバニラにも、笑いかけた。

二人はなんとなく椅子に座り直して「仕方ないなぁ」なんて言ってる。


 だから、まだそちらには行けないよ。

街の陰に見えた人達にそっと胸の中で答えた。

いつか、その時が来るまでは三人で笑っていよう。


 ジャンボはまたバオズをかじる。

変わらず同じ味なはずなのに、いつもより優しく温かかった。




終わり

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バオズやハロウィン(夜光虫シリーズ) レント @rentoon

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