官能的な筆致で描かれるオム・ファタール
- ★★★ Excellent!!!
タイトルが前後編でダブルミーニングなのがとてもおしゃれです。
宮津の手を口に入れてみせて翻弄するハルマと、
ハルマの着物の身八つ口に手を入れた宮津。
主人公を智子としていますが、この小説はハルマと宮津の物語の番外編なのではないか、と勘繰ってしまいました。
また、宮津と智子両方を魅了するハルマはオム・ファタールだと感じました。オム・ファタールはしばしば「(致命的な)運命の男」と呼ばれ、惚れた相手を破滅させるような魅力を持っている男性のことを指します。
しかし、このハルマという青年はファム・ファタール的側面も持ち合わせているようです。「運命の男/女」という男女性の違いのみでオムとファムが使い分けられるものではないことを踏まえると、ハルマという青年はさながら、ファム・ファタールの雄、オム・ファタールの雌というような、相手によって属性が柔軟に変化する中性性なのではないでしょうか。
生涯連れ添う気もないのに気に入った相手へ戯れに伸ばすハルマの「手」。
誰の物にもならないハルマを求めて伸ばされてきた数多の「手」。
手に入らないものこそ美しく、妖しく、尊いままでいられるのだと、官能的な筆致で描かれる人物像や関係性がとても絶品でした。
読み合い企画にご参加いただきましてありがとうございました!