2つの2刀流物語。~バイセクシャルな俺と俺が好きな男と

北島 悠

バイセクシャルな俺と俺の好きな男と

 羽村弘樹は幼い頃からずっと、自分は他の普通の人とは少し違うという、漠然とした違和感に悩み続けてきた。思春期に性に目覚めてからは更にその違和感は加速して、社会を恨んだ事もある。


 LGBTは近年、かなり市民権を得たと言える。しかし、弘樹は自分がLGBTの一つ、バイセクシャルだという事を誰にも言えずにいたのだ。



 まずはLGBTについてご存じでない方のために簡単に説明する。ご存じの方は飛ばして欲しい。


 Lはレズビアン。女性同性愛者を意味する。


 次にGはゲイ。男性同性愛者だ。


 続いてBはバイセクシュアル。両性愛者の事。分かりやすく言えば男も女も愛せる人だ。弘樹はこのBに該当する。


 男性も女性も愛する事が出来る弘樹が、まず2刀流だという事になる。


 最後にTはトランスジェンダー。性別越境者だ。性自認・性格・服装、どれか一つでも越境していれば該当する。

 

 弘樹は基本的には女性しか愛する事が出来ない。しかし、今までの人生で一人だけ「この人に抱かれたい」という感情を男性に対して抱いた事があるのだ。


 その相手が山本海斗だった。


 海斗は弘樹の前の職場の同僚で、若い頃の郷ひろみと、キンプリことKing&Princeの平野紫耀しょうを足して2で割ったような顔の超イケメン。


 弘樹に自分がバイである事を確信させた男である。


 弘樹はそれ以前、ことに青春時代には女性に夢中で、自分がバイだったなんて夢にも思わなかった。


 弘樹が海斗に惚れた理由は単にルックスだけではなかった。コミュニケーション能力が並外れていたのだ。当時の職場では非常に顧客に説明しずらい商品を扱っており、この説明がとてもうまかったのである。


 海斗がお客さんと電話で話している所を、弘樹は当時隣で聞いている内に特別な感情を持つに至った。


 しかし、弘樹は海斗にこの気持ちを伝える事はなく、カムフラージュのためのノンケアピールとして、当時海斗とつきあっていた原幸恵はらゆきえの事を好きなふりをしていた。


 そうすれば、さりげなく海斗に近づく事が出来るからだ。


 弘樹がそんなまどろっこしい事をしている内に、海斗は結婚した。しかも彼女だった幸恵ではなく、全く知らない女医さんと結婚。いわゆる「逆玉」であった。


 「逆玉」とは、逆玉の輿の事である。女性が金持ちや高収入の男性を捕まえるのが「玉の輿」で、その逆だから、男性が金持ちや高収入の女性を捕まえる事を意味する。


 さて、海斗はどうやって逆玉に乗る事が出来たのであろうか。


 その秘密は彼が「2刀流」だった事にあった。


 海斗はリアルで結婚相談所に所属し、更に婚活サイトを利用してネットでも結婚相手を捜していたのである。


 つまり「二刀流」の婚活をしていた。


 そのかいあって、女医さんを射止める事が出来たのだ。


 それにしても大変な時代になったものだ。海斗のような超イケメンでもこれだけ真摯に婚活しなければ結婚相手を見つける事が出来ないとは。


 弘樹は結果的に海斗には振られたような事になった。でもあまり悲しい気持ちにはならなかった。


 なぜなら、ちゃんと婚活すれば相手は見つかる、ことにネットを使った出会いの可能性に光を見出す事が出来たからだ。


(ありがとう海斗。君とは上手くいかなかったけど、おかげで俺もちゃんと婚活する気になったよ)


 その後すぐに、弘樹は結婚する気満々でインターネットの婚活サイトに登録した。きっといい人と知り合えるだろう。



◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


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