核武装を目指す兄妹は、まず二刀流から

月城 友麻 (deep child)

二刀流の少女

「次こそは勝ちます!」

 通算999連敗の少女、彩夏はボロボロになって肩で息をしながら日本刀をスラリと抜く。

 衣装もはかま姿に替え、すっかり侍になりきっていた。

「ほう? 刀か、刀は難しいよ?」

 青い髪の少女【シアン】はニヤッと笑うと自分も袴姿となり、日本刀に持ち替え、カチャリと鯉口を切った。


 ふぅと彩夏は大きく息をつき、構えた。彩夏の瞳がキラリと光ると、それに同期して刀身には青い線で描かれた電子回路のような紋様がブゥンと浮かび上がる。そう、この刀はただの刃物ではない、高度なハッキングツールなのだ。相手の体に食い込めばそこから相手の体の自由を奪う情報操作を行い、相手を制圧できる最先端のサイバーウェポンだった。


「ほい、いつでもいいよ!」

 シアンは余裕を見せながら、まるで中国雑技団のような目にもとまらぬ速さで刀をクルクルと回している。

 彩夏のほほを冷汗がツーっと流れた。あの速さで動かされる刀を縫ってどうシアンに迫ったらいいのかまったくイメージがわかなかったのだ。


 彩夏は一旦刀を下すと、ぴょんぴょんと軽く飛んで気持ちを落ち着ける。


「まだ銃の方がいいんじゃない?」

 横でくたばって寝転がってる兄の涼真が雑なアドバイスをする。

「涼ちゃんは黙ってて!」

 彩夏は鬼のような形相で涼真をにらみつけた。

「す、すまん……」

 縮みあがる涼真。


 彩夏は意を決すると刀を左手に持ち、バッターボックスでホームランを狙うかのように、刀をシアンに向けた。

「ほう、リーチを稼ぐ気だね」

 シアンは嬉しそうにニヤッと笑う。


 ホワァァァ!

 叫びながら彩夏はシアンの右側に走り込む。

 シアンは新選組の天然理心流のように刀を下に構え、彩夏の初撃を待つ。


 ソイヤァ!

 彩夏は左手を思いっきり伸ばし、刀をシアンめがけて振り下ろす。シアンはニヤニヤしながら刀を振り上げ、それを迎撃する。

 その時だった。彩夏は刀を投げるように放棄すると、右手で脇差を引き抜き、そのままシアンの胴を狙う。


 うはっ!?

 虚を突かれたシアンはとっさに右手で刀身をつかむが、次の瞬間彩夏は全身の体重をかけて一気に刀身を前に押した。

 刀身はシアンのお腹を軽く切り裂き、そこから青白いスパークがバリバリと走った。


 くぅ!

 シアンの顔がゆがむ。

 彩夏はそのままシアンの体を押し倒した。


 ドン!

 あおむけに倒れるシアン、覆いかぶさる彩夏。

 それは初めてシアンに土がついた瞬間だった。


「や、やったぁ!」

 彩夏は立ち上がると脇差を高々と掲げる。

 そして、涼真の方を振り向き、ドヤ顔で見下ろした。


「お、おぉ……」

 涼真はまるで信じられないようなものを見たように、呆然としながらその光景を眺めていた。宇宙最強と呼ばれるAI戦士、シアンに勝てたというのはとんでもないことなのだ。


「あちゃー、やられちゃったね。きゃははは!」

 シアンは嬉しそうに笑いながらピョンと立ち上がった。

「ふふっ、私、勝ちましたよ!」

「うんうん、彩夏は合格! 僕も二刀流にするかなぁ……」

 と、ちょっと悔しそうに言った。


「ちょっと、俺ももう一回いいですか?」

 涼真も負けじと刀を両手に持って声をかける。

「何? 私の真似するつもり?」

 ジト目で見る彩夏。

「何でも良いものは取り入れないとね」

「いい心がけだ涼真君! 来たまえ!」

 シアンはノリノリで刀を両手に持って高々と掲げた。

「え? シアン様も二刀流!?」

「来ないなら行くぞ!」

 そういって駆け寄ってくると、あたふたしている涼真をあっさりと×状に切り裂いた。

 ぐはぁ!

 涼真は無様に死亡し、さっき寝転がっていた場所にリスポーンさせられた。


「涼ちゃん、あなた二刀流向いてないわ」

 彩夏はそう言ってクスッと笑った。


「彩夏! あなたも来なさい!」

 シアンはノリノリで彩夏にも襲い掛かってくる。

「あー、ちょっと、タイム! タイム! ですってば!」

 急いで上空にワープして逃げる彩夏。

「ダメー! 常在戦場!」

 すごい速度で追いかけるシアン。


 涼真はそんな二人の鬼ごっこをぼーっと見ながら、

「女の子には勝てんわ……」

 と、ぼやいた。

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