第2話
俺は今日、新幹線に乗っていた。
当然仕事をしに行くためだ。基本、殺し屋にも縄張りがあって自分の地域外の仕事はしないのだが、今回行く街は殺し屋が何人も仕事をしくじって、人材不足に落ちっているらしい。
俺の勤める暴力団事務所にその町の暴力団からの正式な相談があり、暴力団幹部が殺し屋の派遣を決定して、その会議で少し前に難しい仕事をこなした俺に白羽の矢が立ったというわけだ。
これからその何人もの殺し屋に仕事をしくじらせたターゲットを殺しに行くところだ。どうも、ターゲット自身が殺し屋らしい。
確かに、殺し屋殺しは格段に難しい。相手もプロだから、こっちを本気で殺しにかかってくるし、技術だって殺す専門のものだ。
しくじる可能性は格段に高くなるし、ミス=死というのが殺し屋の生きる世界だ。
新幹線の乗客。友達と小声でしゃべる学生、スーツを着たおじさん、私服を着た女性。きっとこの中に、まさか自分の乗ってる車両に殺し屋が乗っていると思っている人はいないだろう。
たまに思う。俺にも、ああいう民間人として生きる道があったのではないかと。
人殺しをしなくても生きていける道をどこかで選び取ることができたのではないかと。
だが、平和な道を選ぶには殺し屋という道を選んでから得ることができたものは余りにも多すぎる。私に、民間人は向いていない。
やはりそうなのだ。結局そう結論が出て思考が終わる。いつも通りだ。
なんだかお腹が空いてきた。もうお昼時だ。周りを見ると、何人かが駅弁を食っている。
俺はカバンから海苔が巻かれた正三角形のお握りを取り出した。俺は、鉄道では酔わない
当然、飯を食っても問題ない。
ラップをとると、ふんわり米と、豚肉の香りが広がる。朝、食堂に行って買ってきたものだ。店主は自分の店を『訳あり食堂』と呼んでいるらしいが、俺らはただ食堂、と呼んでいる。確かに訳ありだが、ネーミングセンスはない。彼には、料理のセンスがあってもネーミングセンスは
俺はおにぎりに思いっきりかぶりつく。
少し冷えた白米に甘辛いたれをかけて味付けされた豚肉が入っている。
海苔の塩味と米の甘みはとてもよく合う。それに、豚肉は脂でしっかり栄養も取れる上に美味しい。甘辛いたれも、米にアクセントをつけている。
食べていると、今日の仕事も頑張れる気分になってくる。
今ならどんな強敵がいようとも勝てそうな気がした。
そんな彼を乗せて、電車は走っていった。
殺し屋と、穏やかな昼ご飯 曇空 鈍縒 @sora2021
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