少し前に私が書いた小説『帰還』には、全翼型爆撃機という航空機が登場しています。
今回は、そのモデルとなったナチスドイツの爆撃機である『ホルテンHo229』について、紹介しようと思います。
まず、全翼型爆撃機について説明します。
全翼型爆撃機とは、簡単に言うと、全翼機と呼ばれる航空機の一種です。
代表的なもの(というより、現時点で運用されている唯一の全翼型爆撃機)は、アメリカ軍のB2爆撃機であり、高いステルス性能によりアメリカの核戦力の一角を担っています。
では、全翼機とは何なのか。
これは、機体の全てが主翼のみで構成されている航空機の総称です。
コックピットやエンジンなども全て主翼の中に収納されており、尾翼や胴体はありません。
これには、パーツを減らすことで重量を軽くし、空気抵抗を抑えるというメリットがあります。
ですが、いくつかの重要なパーツを削ることになるため機体の安定性が低下するなど技術的な問題が多く、実際に運用された例はごく僅かです。
現状の技術で利用できるメリットは、せいぜいステルス性能を向上させるという点ぐらいで、そのため、開発された機体も大半が爆撃機や攻撃機などの軍用機です。
そしてホルテンは、その全翼機の黎明期に開発された機体です。
当時、全翼機の開発は主にドイツとアメリカで行われていましたが、アメリカにおける開発は、エンジンなどの関係でやや難航していました。(全翼機の開発に本腰を入れていなかったという理由もあります)
一方のドイツは、1930年代にはすでに全翼機の開発に着手しており、世界より一歩先を行くジェットエンジンの技術なども相まって、開発はかなり進んでいました。
その結果として生まれたのが、ホルテンです。
最新鋭のジェットエンジン、強力な30ミリ機関砲、500キロ爆弾二つを搭載した本機は、当時でも数少ない飛行可能な全翼機であり、また世界初のステルス機でもありました。
もし最盛期のドイツ軍が入手していれば、強力な戦力となっていたでしょう。
ですが、本機の飛行試験が行われたのは1944年代。
すでにドイツの旗色は悪く、戦略爆撃機型や複座型など様々な派生型も計画されていたものの、最終的にはドイツの敗戦に伴って開発も打ち切られました。
ちなみに、ホルテンの開発を担っていたホルテン兄弟は、戦後も航空産業へと関わり続けていますが、アメリカにおける全翼機開発には関係していないと思われます。
アメリカ軍はホルテンの試作機を鹵獲していますが、すでにアメリカでも飛行が可能なレベルの全翼機は開発されていたので、技術的に目新しい点は少なかったのでしょう。
ただ、だからと言ってホルテンが陳腐な機体であったということは全くありません。
ホルテンは実戦で活躍することこそなかったものの、間違いなく、航空機の歴史に名を残す名機ではありました。
当時の技術者たちが全翼機にかけた夢は、アメリカが誇る技術の基、今もB2、そして最新鋭爆撃機であるB21の中に、脈々と受け継がれています。
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ぜひ読んでください。
https://kakuyomu.jp/works/16818093089447643811『帰還』