学園一の美少女なのに性格が最悪で口うるさい黒髪ポニーテール女風紀委員長(催○NTR調教されそう)に弱味を握られてしまった。

kattern

第1話 ツンデレ黒髪ポニーテール侍メイド二刀流(JK)

 その日は僕がやりこんでいるFPSのイベント開始日だった。

 サービス開始1周年記念イベント。寝る間も惜しんでプレイしている廃ゲーマーの僕は、スタートダッシュを決めようと学校にポータブルゲーム機を持ち込んだ。


 昼休みに人気のない図書館の奥なら誰も気づかない。

 実際、何度かやったこともある。


 とまぁ、僕はすっかり油断していた。


 そしてそれが命取りだった。


「何をしているのかしら佐藤くん?」


「……此原⁉」


 傷んだタイルカーペットに座り込んで、ポータブルゲーム機を制服の内ポケットから取り出した所で――僕は一番見つかりたくない人間に見つかった。


 折り目正しいブラウス。

 目に痛いくらい赤いネクタイ。

 膝下まで隠すロングスカート。

 おろし立てのような清潔感のある黒ソックス。


「こそこそ教室を出たと思ったら図書館でゲームだなんて……」


 巨乳美少女が、目尻を吊り上げ青筋を浮かべる。

 怒れる黒髪ポニーテール巨乳JKは僕を睨み据えると、二の腕につけた【風紀委員】の腕章をこれ見よがしに上げた。


 そして特大おっぱいも「どたぷん!」と揺れる。

 すごい躍動感だ。(ごくり)


 えちえちサムライガールの名は此原心乃美。


 二年生ながら学校の【風紀委員長】を任されている超模範学生。

 僕のクラスメイト。一年生の頃から「不良オタク」と僕に突っかかってくる――口を開いても黙っていても喧嘩になっちゃう不倶戴天の女の子だった。


「貴方ね! いったい何しに学校に来てるのよ!」


「ごごご、ごめんなさい!」


 此原がさっそく僕に詰め寄ってきた。

 すらりとした脚を振り下ろすと、僕の股間に渋茶色のローファーが迫る。慌てて身を引けば、ポータブルゲーム機に接続していた有線キーボードがぽろりと外れた。


 すっかりと此原に気を呑まれたのが運の尽き。

 僕に彼女は深いため息を浴びせると腰に当てた手を僕の胸元へ伸ばす。


 奪い取られたポータブルゲーム機が此原の顔を照らす。


 怒りと光でいつも以上に彼女の顔には迫力があった。

 怖い。

 やっぱり眼力が違うよコイツ――。


「風紀委員長権限でこのゲーム機は私が預かります! 一週間ほど反省しなさい!」


「一週間って! 待ってよ、イベントに出遅れちゃう!」


「貴方が規則を破るからいけないのよ!」


「それはそうだけれど……」


 追い打ちのように言い渡された処罰に僕は愕然とする。

 規則を破ったのは僕だ。僕が悪いのは間違いない。


 けど困るよ、そんなの。


 慌てて薄汚れたタイルカーペットに考え足らずの頭を押しつける。

 もう、僕には此原に土下座するしかなかった。


「ごめん此原! もうしないから! この通り!」


「ダメよ! どうして貴方みたいなクズに温情をかけなくちゃいけないの!」


「少しくらいは動揺しろよ……」


◇ ◇ ◇ ◇


 昼休みが終るまで謝り続けて僕は此原から譲歩を引き出した。


「分かった、週末の学外奉仕作業で手を打ちましょう」


 かくして、土曜日午前10時過ぎ。

 高級マンションの前に僕は立っていた。

 赤茶色をした煉瓦風の外壁に広々としたバルコニー。エントランス前にはちょっとした遊歩道。子供達が水路で楽しそうに遊んでいる。


 待ち合わせ場所として此原からこのマンションの一室を指定されたのだが――学外奉仕活動とちょっと結びつかない。

 こんなマンションでいったい何をするんだ?


「まさか、エッチな奴とか……?」


 美人で風紀委員で性格がキツい。

 此原は間違いなく『エロ漫画で人生滅茶苦茶にされる感じの美少女』だ。

 だから、ついイケない姿を想像してしまった。


 妄想を振り払いながらエントランスのインターホンを操作する。

 すると、色んな意味で思いがけない声がスピーカーから飛び出した。


『はーい! もう着いたんだね佐藤くん!』


「……あれ? 此原?」


『おはよー! 良い天気でよかったね! ごめん、迎えに行きたい所なんだけれど、ちょっと外に出られる格好じゃなくって……』


「あぁ、うん、おかまいなく」


『鍵は開けたからエレベーターで上がってくれるかな?』


 出たのは此原。

 けど、ちょっと学校と雰囲気が違う。

 お淑やか――というよりもコミカル。

 まるで普通の女の子みたいだ。


 鬼風紀委員長ツンデレムーブはいったいどこに?


 不思議に思いながらも僕はエレベーターに乗る。

 すると――操作盤を弄っていないの勝手に動き出した。

 向かうは待ち合わせ場所の部屋がある階。

 たぶんもなにも最上階だ。


 うーん。


「此原の口調といいエレベーターといい、何かおかしい」


 僕はいったい何に巻き込まれているんだ。

 まさかとは思うが――このマンションを支配する成金おじさんに、此原ってばやらしいご奉仕活動を強要されているとか?


 さっきも「外に出られない格好」って此原が言っていた。


「まさか、ドスケベコスプレを強要されているとか? 僕を部屋に呼んで、見せつけNTRプレイでもしようとしてるって――コト?」


 否定したいけど頭に浮かんだイメージが拭えない。


 汚らしいおっさんに組み敷かれる此原。

 頭の中に浮かんだその光景に、僕の胸が苦しいほどに逸る。


 あれほど此原のことを嫌っていたのに何故なんだろう。


 もしかして、僕ってば――此原のことが好きだったりするのか?


 答えの出ないままエレベーターが目的の階に到着する。

 頭上に響いた軽快な音に顔を上げると正面の扉がちょうど開いた。

 はたしてそこには――。


「いらっしゃい! ごめんね佐藤くん、今日はわざわざ来てもらって!」


 服からこぼれそうな上乳。

 ミニスカートちらつく太もも。

 ポニーテールと共に輝くホワイトブリム(メイドさんの頭の奴)。

 そして、スカートの裾から伸びる黒いガーター。


 えちえちエロメイド姿の同級生――此原心乃美が立っていた!


「バカな! 爆乳エロメイドコスだと……! やはりNTRなのか!」


「……やだ。あんまり見ないで」


「あ、ごめんなさい」


「あらためて、ようこそ私の部屋へ!」


「此原の部屋?」


「このマンションの最上階は私の部屋なの。エレベータ直通よ。普段は許可した人間しか入れないんだから。佐藤くんは特別なのよ――感謝してよね?」


 遠くには天蓋付きのベッド。

 アンティーク感溢れるソファーにテーブル。

 ベランダには小さなプールとジャグジーまである。


 広すぎじゃね?


 というか、此原って金持ちのお嬢様だったのか。

 知らなかった――。


 しかし、それより僕の目を惹くのは――そこかしこに転がるオタグッズ!


 漫画。アニメDVD。同人誌。フィギュア。コスプレ。抱き枕。タペストリーにポスター。どれもこれも一般人は持っていないようなアイテムばかりだ。


 畳みたいな液晶テレビの前にはポータブルゲーム機。

 此原も廃FPSゲーマーなのだろう。

 有線マウスとキーボードが接続されていた。


 間違いない。

 ここはオタクの家にしてオタクの部屋。

 いや、オタクの巣窟だ。


 ごくりと僕は生唾を飲んだ。


「此原ってオタクだったの……?」


「ごめんね佐藤くん。【催眠調教されそうなツンデレ風紀委員長JK】なんていないの。本当の私は【オタバレしないよう清楚女子を装う濃いめオタクJK】なの……」


「はい! 後者の方が僕は好きです! なぜなら親近感がヤバイから!」


「あ……ありがと!」


 習ったような優雅な所作で此原が三つ指を突く。「佐藤くん」と優しい声で彼女が僕を呼べば、ざわついた心が静まった。


「ごめんね。君がゲームのイベントで気が気でないことも知っていたの。尾行したのも、ゲーム機を取り上げたのも、貴方を私の家に呼ぶため」


「どうして、そんなことを?」


「君のことがどうしても欲しかったから……」


「ど、どど、どういう意味だよ!」


 もうよく分かんなくっておめめぐるぐるだ。


 テンパる僕に此原が静かにその頭を下げた。

 美しい顔が頭頂部に隠れ、ポニーテールが床に垂れる。


 ―――それは僕が先日彼女にしたポーズ。


「ごめんね、こんな格好したって許してくれるとは思わない。けど、私の【お願い】を聞いて欲しいの」


「……お、お願いって?」


 あれ、これNTRじゃない?

 僕がもしかしてご主人様になる流れ?

 お願いってエッチな奴かな?


 土下座からのHなメイド志願なんて、そんなエロ漫画みたいなことある⁉


 期待と興奮に高鳴る胸を押さえる僕。


 そんな僕に此原は言った――。


「お願い佐藤くん! 私のパートナーになって!」


「や、やった! 朝まで濃厚ドチャシコ展開!」


「今流行のFPSの!」


「そっちかー!」


 ガッツポーズ空振り。

 前のめり気味に僕はその場でずっこけた。


 違った。ちょっとエッチなギャグ漫画だコレ。


◇ ◇ ◇ ◇


 結論から言うと此原は廃ゲーマーだった。

 そして、僕がやってるFPSを彼女もやりこんでいた。


「どうしても今度のイベントに勝ちたいの! だから私とチームを組まない?」


 以上が僕をハメた理由。

 僕を牽制しつつチーム結成の話をするため、彼女はこんなことをしたのだ。


 けれどもなんで僕なのか?


 事情の説明を受けながら、お互いの実力を把握するためにゲームをプレイをしていた僕は、そんな疑問を素直にぶつけた。


 すると、恥ずかしそうに顔を赤らめて――。


「学校で見た佐藤くんのプレイスタイルが同じだったから」


「プレイスタイル?」


「ほら、二刀流でしょ?」


 ポータブルゲーム機から伸びる有線マウスとキーボードを彼女は指差した。


 エイムアシストを使うために、少し前から流行しているプレイスタイル。

 二つの操作方法をシーンに応じて切り替える手法。


 通称『二刀流』。


 なるほど言われてみれば確かに同じ。

 納得の理由だった。


 というわけで、その日から僕と此原はチームを組んでいる。

 意外なくらい息ぴったりでちょっとやみつきになりそうだ。


 犬猿の仲なんて今や嘘のよう。イベントが終ったら、打ち上げかねてデートしようかって計画までしているくらいだ。


 けど――。


「和史くん、強行突破するからフォローお願い!」


「任せろハニー!」


「背中は任せたわダーリン!」


「…………(てれてれ)」


「…………(テレテレ)」


 しばらくはこんなじれったいやりとりもいいかなって僕は思うのだった。


【了】

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