第2話 歳を取る薬
「まだ子供なんだから、早く寝なさい!」
「まだ小さいんだから、これは飲んじゃダメよ」
僕の目の前には歳を取る薬がある。一錠で一年。今八歳だから、二十個飲めば、立派な大人になる。
僕が大人になれば、父さんも母さんも口うるさくなくなるだろう。誰もいない薄暗いリビングで、僕は口いっぱいに歳を取る薬を入れて、水で流し込んだ。
体に何の変哲もない。
本当にこんな薬が効くのだろうか?取り敢えず、ベッドに戻って眠ることにした。
「おはよー」
僕がリビングに入ると、父さんも母さんも目を丸くしている。
「何?僕、何かおかしい?」
「涼太、お前、あの薬飲んだのか?」
僕は昨日の夜中に薬を飲んだのを思い出して、洗面台の鏡を覗き込んだ。すると、そこには立派な大人になった僕が立っていた。
「お父さん!お母さん!僕、大人になったよ!もう大きくなったんだから、あれこれ口うるさく言わないでね」
あれ?父さんも母さんも俯いている。僕が大人になったことが、気に食わなかったんだろうか。
「もう涼太は子供じゃない。大人だ。大人は生きるためにお金を稼がないといけないんだ。小学校には卒業申請をしておくから、涼太はハローワークに行って、仕事を見つけてきなさい」
「え?」
「涼太。あなたはこれから自分で働いて生きていくのよ。頑張ってね」
それから僕は仕事を見つけて、工場で働くことになった。言われた通りに、言われたことを、朝から晩までやる。
工場まで行くのには電車をつかう。電車の中は大勢の人がいて、狭くて息苦しい。それでも、電車に乗らないと工場に行けないので仕方がない。
朝から晩まで働いているので、好きなアニメも漫画も見れなくなってしまった。工場ではよく怒られるし、正直に言って、全然楽しくない。
どうして僕はあの薬を飲んでしまったんだろう。大人になんて、ならなければ良かった。
ショート小説 文尾 学 @zeruda585858
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