世界初? バーチャルラノベ作者誕生!?

アーカーシャチャンネル

本編

 この時代は暗い話題の影響で、混とんと化していた。西暦二〇二〇年も過ぎているというのに、暗闇のトンネルを未だに脱出できていない。


 それはSNS上の方が顕著であり、様々な話題が炎上を繰り返し、それこそフィクションとノンフィクションの区別がついていないような『バズり』目的のユーザーによって、光が見えない闇が続いている。


「どうしようか、この状況」


 その一連のタイムラインを見ていたのは、とある動画投稿者の女性である。彼女のチャンネルは登録者数が伸び悩み、百人をかろうじて超えたくらい。まさにSNS上の状況は踏んだり蹴ったりと言えるだろう。


「このトレンドに便乗しても、一銭も得がないし……」


 彼女は、ふとこのトレンドに便乗してバズればチャンネル登録者数が伸びるとも考えた。しかし、それをやっても一銭の得がないことは炎上勢力の行動を見れば一目瞭然。


 それに加えて、彼女は素顔をそのまま見せて配信をしているわけではない。いわゆる、二次元のアバターを使用したバーチャル配信者なのだ。


 一応、個人勢なので迷惑をかけるとしたらチャンネル登録をしてくれている視聴者のみにはなるのだが、それでも他人に迷惑をかけるのは躊躇(ちゅうちょ)する。



 その彼女は、ふと小説サイトを見ていた。つぶやきサイトのタイムラインを見ているよりは精神衛生上は良いと考えたのだろう。


「コンテストかぁ、どうせ異世界転移都会世界転生、悪役令嬢辺りが……」


 小説サイトのトップページでは、コンテストの告知が表示されている。しかし、これはあくまで短編コンテストであって長編は対象にしていない。これならば、と考えるものの……問題はテーマにあった。


「二刀流?」


 プロ野球でも投手と打者で活躍する二刀流の選手は話題となり、あの有名な剣豪も二刀流の使い手である。しかし、自分の場合はどのような二刀流をするべきなのか?



 小説に関しては、ある程度の形は出来た。あとは投稿するのみだが、ここである問題が発生してしまう。


「二刀流要素が薄い」


 内容はつぶやきサイトの数万フォロワー持ちの人物が小説を執筆するという二刀流。しかし、これだと兼業という事にならないか?


 その疑問があった中で、彼女はふと自分の立場を思い出す。自分は確か、バーチャル配信者ではないか、と。



 彼女がとった行動、それは意外なものだ。何と、小説サイトへの登録と作品投稿を自身のチャンネルで生配信しようというのである。


 さすがにプライバシーに関係する箇所は配信しなかったが、小説サイトの登録方法と小説の投稿を解説した配信は予想外の反応だった。


(本当に、これでよかったのか? 二刀流要素って、どこにあるの?)


 自身も疑問を持つが、二次元のバーチャルアバターがリアルの小説サイトに小説を投稿するという事自体、さりげなく『バズる』要素だったのだろう。


 それに加えて、昨今ではAIも小説を執筆するような時代になりつつあるのだが、それでも小説サイトへ投稿するというのは、まずないと思われている。



 それからしばらくして、自身とは別の理由で小説の方は反応があり、チャンネル登録者も増えた。これには喜ぶべき箇所はある。


 バーチャル配信者をやりつつ、小説を執筆するという二刀流の道を、彼女が歩み始めたのだから。


「投げ銭の反応はないけど、小説サイトにそういったシステムは……」


 ふと考えた彼女だったが、小説サイトにシステムがなければ投げ銭以前の問題である。


 しかし、この小説サイトには投げ銭システムがあった。むしろ、できたばかりだったのである。それでは、彼女も気づかなくて当然か。



 さらに数日後、彼女は配信中に驚くべき発表をすることになった。それは、視聴者をも驚くしかない内容でもある。


「あの小説を見て、勇気づけられたって人も一定数いて、別の意味でも驚いたわ」


 なんと、それは投稿した小説が予想外の反響があったことだ。普通であれば喜ぶようなことだが、投稿した作品の内容だけに素直には喜べない。


「あの小説で収益化できるかはわからないけど、こちらも色々と大変だし、可能な限り頑張ってみる」


 そして、彼女は史上初ともいえるバーチャル小説投稿者として認知されるのだが、それは先の話かもしれないし、現実ではすでに存在しているかもしれないだろう。


 どちらにしても、彼女は一応の目的である動画配信での収益化を思わぬ形で実現させた。そして、二刀流も実現させている。

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