短編62話  数ある無邪気なギャモン要素……?

帝王Tsuyamasama

短編62話  数ある無邪気なギャモン要素……?

「ねぇ締雪しめゆき~」

「なんだよ」

 今日も斜めポニーテールで元気なかかり 結子ゆいこが、バックギャモンでの対戦を終えて、むなしく黒いダイスカップサイコロ入れる筒を振る俺、相戸あいど 締雪しめゆきに声をかけてきた。

 両ひじを深めのオレンジ色のこたつテーブルにつき、あごを両手の上に乗せ、指先で若干ほっぺたを変形させながら。こたつ布団はこげ茶色。

 そのテーブルよりも、さらに超鮮やかなオレンジ色のはんてん半纏を着ている。家近いからって、それ着たまま俺ん家・俺の部屋に来た。まぁ冬恒例の光景ではあるわけだが。

 今は見えないが、下は深めな赤色の長いスカートだった。どちらかというとズボン派らしいが、今日はスカート。

 はんてんを前にして悪いが、俺はただの濃い青のセーターにジーパンだ。

「締雪ってさ、家庭部とバックギャモン部の二刀流じゃん?」

「どこかの結子さんが、どうしても家庭部に来いって言うからな」

「優しい~」

 もっとほっぺたが変形した。

 結子のことは小学校のころから知ってはいたが、仲良くなり始めたのは五年生くらいから。

 同じクラスになり、さらには家も近めだということも判明し、そこからあれよあれよと目の前のはんてん結子ちゃん、というわけだ。

「実に短い話だったな。終劇」

「っていうことは、家庭部の気持ちとバックギャモン部の気持ちが、いっぺんにわかるってことじゃん?」

「再演。そんなに熱心に、部を支えてるタイプでもないと思うが」

 意味もなく、振っていたふたつのダイスサイコロを落としてみた。黄色ベースに白と黒の三角形が並んだギャモンボードバックギャモンボード内に落とされたのは、3・2だった。

「つまりさ! バックギャモンを取り入れた料理を作ったら、どっちの部にも新入生いっぱい入ってくる! っていうことに気づいたんだよ!」

「俺からしたら、それを合わせようとする結子の想像力がすごいぞ」

「えっへん!」

 結子は女子の中では身長高めなんだから、もっと魅惑のお姉さんキャラや、頼れる姉御キャラにもなれたろうに。

「締雪だったら、どんな料理思い浮かべる~?」

 ほっぺた変形モードが解除されて、手はこたつ内に入れられた模様。

「そもそも『バックギャモンを取り入れた料理』ってなんだよ。スイカの緑と黒の部分で、ギャモンボードのポインタ駒を動かす場所作るとかか?」

「できるの? おもしろそう!」

「無理だろ。種をチェッカー代わりにとかか?」

「それもおもしろそう!」

「変なとこに飛んでいきまくりだろうな」

 結子なら、ほんとにそんなスイカで作ったギャモンボード見たら、飛び跳ねて喜びそうだな。

「そういうのもいいけど、こう……ギャモラーバックギャモン愛好家の心に響く料理とか! 『あ~そうそうこれこれこれ!』って言ってくれそうなやつ!」

「ミックスベジタブルの四角いにんじんが、実はダブリングキューブ倍数表示サイコロだとかか?」

「いいね!」

「いいのか?」

 対戦中に出されたら、テイク受けるパス降りる以外にイートなかったことにするって選択肢も加わるのだろうか。実現したら革命級だろう。

「焼くと64って浮かび上がるトースターで作った、『ダブリング食パン倍数表示トースト』とかどう!?」

「きっと色違いのボディで、2~32も取りそろえてるんだろうなぁ」

「『ダブリングフレンチトースト倍数くり抜きトースト』!」

「切り刻まれた数字を提示されましても」

「『ダブリングハニートースト倍数表示はちみつ仕様』!」

「ちょっと主食用パン食パンとダブリングキューブから離れようか」

 結子は次から次に、いろんなことをしゃべるよなぁ。意外と賢いのだろうか?

 学校でも、休み時間で見かけるたびに、だれかしらとしゃべっている姿な気がする。

 さすがにボードゲームそんなにしない女子相手にまで、こんなにバックギャモンまみれではないと信じたい。強く信じたい。

「なんかいいアイデアない~? もっと家庭部もバックギャモン部も盛り上げようよ~」

「そこのあなたは家庭部のみなはずですが」

 今度は猫背になり、テーブルにあごを乗っけてこっち見てきた。と思ったら顔が横にこけた。

「次は三年なんだからさ~。悔いのないLJC女子中学三年生ライフ送りたいじゃーん?」

「二年と一年は後悔の連続だったのか?」

 とりあえず片づけるか。負けた俺の黒いチェッカーたちよ……。

「ううん、楽しかった」

「ぶっ」

 こういう俺の笑いのツボを時々ぶっ込んでくるから、結子と一緒に遊ぶ時間は楽しい。いやまぁツボらなくても楽しいけどさ。あ、横にこけていた顔がこっち向いた。左ほっぺちょっと跡ついてますよ。

「一年二年と楽しかったのに、三年でだめだったら嫌じゃん!」

 おお、なんか結子がまともなことを言っている。

「確かにな」

「締雪も、苦しい一年間より楽しい一年間の方が、いいでしょ?」

「全会一致」

「でしょ!?」

「満場一致」

 ダイスカップも入れてっと。

(おわっ)

 俺が右手に持っていたダイスカップを、ギャモンボード内に戻そうとしていたら、とんでもない速さでこたつから飛び出してきた結子の両手が、ダイスカップごと俺の右手を、強く握ってきた。そしてキリッとした表情。

「一緒に青春のLJCライフを送ろう!!」

「俺男なので無理っス」

「じゃあたしのLJCライフに青春を添えて!」

(ん~む…………)

 この結子の手とかは、いつもの勢いなノリだけでのことなんだろうか? たぶんそうなんだろうと俺は考えているが……。

 結子とこうして仲良くしていられるのは、本当に楽しいことなんだ。こんなにも俺に寄っかかってくれる女子っていうのは、間違いなく結子が一位だろう。

 んでだ。俺は男子だ。気が合って最も仲のいい女子が、こうして両手で握ってまっすぐ見つめ……(今の表情は非常にキリッとしているが)……てくれたら、まぁそのなんだ。そりゃあまあ……

(好きにならずにはいられないわけで)

 最初にいきなり家庭部へ来いって言われたときは、まだびっくり度の方が大きかっただろうけど、結果として、同じ部活に入れてよかったと思っている。これまでの笑わせてもらった二年間を振り返れば、なおさらそう思う。

 そう考えると、結子のぶっ飛んだ勢いに助けられている部分も、結構あるかなとも思う。ぶっ飛んでるけど。

 ……これは俺だけのただの思い上がりなのかもしれないけどさ。ひょっとしたら、結子も俺のこと……たしょーは気になってくれてるとか、そういうとこ……あるんじゃないだろうか?

 そうでもなければ、寒い中そんなオレンジってるはんてんで、俺の家に来ないだろうに。

 こんなキャラだけど、体育のときのしんどそうながらも、爽やかな笑顔を残していくとこのように、結構反則級ギャップかわいさがあることを、いつか本人にわからせてやりたい。

(はぁ~……)

 ……告白とかして、フラれたらがっくりくるだろうなぁ……。俺やだぞ。結子と気まずいLDC男子中学三年生ライフとか。

「あれ、締雪?」

「ん? あ、ああ」

 ちょっとぼーっとしちまったか。

「え、もしかしてUFO未確認飛行物体!?」

 そしていつも斜め上の反応を見せてくれる結子。ちょうど結子の後ろは窓だったな。

「もし見つけたら、まっさきに結子に報告するから安心してくれ」

「よい報告を期待している!」

 いつもそうやって、まっすぐ俺を見てくれてさ。ってかいつまで俺の手握ってんだよ。

(……悔いのない、最後の中学生の一年間、か……)

「結子」

「ん? なに? もしかしてもう見つけた?!」

 今日も元気なポニーテールです。

「ちゃんとUFOならUFOと言うから安心してくれパートⅡ」

「期待している!」

 ほんといつでもどこでも楽しそうだなあんた。

「あのー……さ、結子」

「なになに?」

(……んあーもうっ、言わない悔いより玉砕の悔い!)

「た、たまには~……横に座っても、いいか?」

「うん? いいよ?」

 ここで俺はダイスカップをようやく置くことができ、結子の手の位置は両手とも空中で停止している。俺たちが何度も戦ってきた、黒いギャモンボードは閉じてっと……。

 特に意味はなく、机の端に寄せて。俺自身の移動を開始。

 中腰で立ち上がり、見上げてくる結子を眺めつつ、左回りに移動。

「あ、こっち? はいっ」

 横と聞いて、麻雀での席移動かのように想像していたであろう結子だが、俺は通り過ぎ、ほんとに結子の真横に並んで、こたつに侵入。

 俺の左肩と結子の右肩が当たったが、特にツッコミはなかった。

「どしたの?」

 なんでそこで、右手を耳に当ててひそひそモードへ誘っているのかは不明だが、

「……ふえぇっ?」

 結子の左肩を持って、こっちにゆっくり寄せた。頭同士を軽く当てた。

 一連の動作中に、結子のひそひそモードは解除され、両手が結子の前に集結していた。

「な、なに? どうしたのっ?」

 なにそのちょっとだけ音が高くなるだけでめっちゃかわいい声。

「……悔いのないLDCライフ?」

「へ?」

 結子から離れようとする様子とかはなさげ。

「結子が手を握ってくるんなら、俺が肩を寄せてきても、いいよな?」

「えっ、あ、うん、いい、けど……」

 結構好きからめっちゃ好きになった。接近戦による大音量結子ボイス。

「けど?」

 なんとなく聞いてみた。

「……も、もうっ、どうしちゃったのさぁっ。こんなにその、近すぎたら……」

 ………………そのままセリフが途切れた?

「…………な、なにか言ってよぉっ」

「いや今のは結子のターンだろ」

「だ、だってぇっ……」

 え、なに結子って、こんなテレッテレなんの? 同じテレでもデヘヘー顔なら、しょっちゅう見ている気がするが。

「肩に手を置いていいんだから、肩に手を置いていいんだよな?」

「い、いいけどぉ……でもぉ……でも、そんな、そんなの……」

 なんかだんだん、声が震えてきた?

「……好きすぎて、あたしらしくなくなっちゃうよぉ……って、し、しめゅっ」

 見えた結子のテレ顔は、相変わらずいつもの一直線度合いだったが、唇を合わせるまでに少しの間、見えただけだった。



「……これからは~……あたしの青春ライフ満喫と、締雪の青春ライフ応援の、二刀流で……頑張るっ」

「その計算も含められると、俺は四刀流になってしまう勘定なんだが」

 別に何刀流でもいっか。全部が結子と楽しんでいく時間につながるんなら。

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短編62話  数ある無邪気なギャモン要素……? 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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