二刀流の武士

野林緑里

第1話

その場所にはある噂があった。


深夜におむすびを持って食べると二刀流の武士が現れるという噂だ。なぜおむすびなのかは謎ではあるものの、武士の幽霊がでるというのは興味深いものだ。


そういうわけで僕はおもしろ半分でその噂の峠へと友人たちとおむすびをもって向かうのとにした。


もう夜も更けている。


僕らは普段通ることのない峠へとやってきた。


辺りは真っ暗。


木々が生い茂っており、ときおり聞こえるのは動物の鳴き声だろうか。


僕らを乗せた車はやがて噂の祠へとたどりつく。祠にはだれかの名前が書かれているようだがかなりかすれていて読めたものではない。


その壕のまえに座っておむすびを食べる。


ただそれだけの話だ。


僕らはさっそく祠の前に座っておむすびを食べはじめる。もちろん、だれも幽霊なんて本気で信じているわけじゃないから、僕らはおしゃべりをしながらおむすびを食べるというピクニック気分だった。


どれくらいそれをしていたのかわからない。


「なにも起きないね」


だれかがつぶやいた。


「おむすびももう食べちゃったし、帰ろうか」


一人が立ち上がるとみんながそれに習って帰り支度をはじめようとしたときだった。


ガサガサ


草が揺れるおとがして僕らははっとする。


「ただの草だよ。動物が通ったんじゃないの」


だれかがいった。その一方でおむすびを作ってくれた女子の一人が当然膠着して音のしたほうを見つめ始めた。


「どうしたの?」


もう一人の女子が尋ねる。


「なにか聞こえない?」


「なにが?」


ガサガサ


「ほら、また聞こえたわ」


彼女は顔面蒼白になる。


いったいなにが聞こえるというのか。


ぼくも思わず耳をすましてみる。


聞こえた。


「くれ」といっているようだ。


「本当だ! 聞こえる」


僕がいうと、ほかのメンバーもなにか聞こえてきたと騒ぎ始めた。


「なんか、くれといってないか」


ガサガサ


シャンシャン


草ゆれる音とともに別の音が響き始めた。


くれくれ


同時に声も大きくなっていく。



くれくれ


足音が近づいてくる。


ぼくらは思わず祠を背にして肩を寄せあい音のするほうをみる。


くれくれ


早くくれ



やがてキラリと光るものがふたつ見えた。


「くれえええ! その首をおおお!!」


林のなかから姿を表したのは矢が無数にささり血を流している鎧姿の武将。その両腕には二本の刀が握られていた。


「きゃあああ!」


女子が悲鳴をあげるとそれにあわせるかのようにその二刀流の武将は僕らに向かって走りだし、その二本の刀で切り裂こうと迫ってきたのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二刀流の武士 野林緑里 @gswolf0718

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ