【KAC20221】選択体育は卓球を選びがち

姫川翡翠

東藤と村瀬とバドミントン

「そういえばさ、知ってる?」

「なにを?!」

「バドミントンって、二刀流ありらしいで」

「嘘つけ!」

「ホンマやって! 昨日ネットで見たもん。ルールにダメとは書いてないらしい」

「やからって! わざわざやらんでもええやん!」

「まあ俺ちょうど両利きやし、リーチ伸びて動かんでええし楽やし最高やん」

「お前さ! そんなに器用やのに! 何でそんなに運動神経死んでるん?!」

「は? 黙れや」

「正直お前が下手過ぎて! シャトル拾うんに必死で! 言われんくても黙りたくなるわ!」

「じゃあ黙れよ」

「あほか! あえて! お前への嫌がらせじゃ!」

「それはそれは。大変ご立派なことで」

「あーくそ! むかつく!」

「あーあ。どこ打ってんの」

「いやいや、はぁ、はぁっ、一歩踏み込めば打てる範囲に返したやん」

「そんなことしたら疲れるやん。両手伸ばして届かへんとこは管轄外やで」

「このカス。いや、は? お前ラケットでシャトル拾えるんのかよ。マジで器用やん。いや、は? そんなことできんのに何でそんなにノーコンなん?」

「才能って非情やな……」

「だまれ雑魚。『無い』側のやつが意味ありげに言うな」

「おい! 『雑魚』っていうな! 『雑魚』に失礼や!」

「……まあそういう謙虚な姿勢は嫌いじゃない、で!」

「俺だってホンマは卓球が良かったんやもん。楽やし」

「いつか絶対! 怒られるからなお前!」

「ええやん、競技自体を馬鹿にしてるわけじゃないし。どんなスポーツだって本気でやれば大変なんて誰でもわかるやん。でも俺は本気でやる気なんてないし、プレイフィールドの広さ考えたら、手を抜いたときにトップクラスで楽そうなスポーツなのは間違いないやろ」

「急に正論やめろ!」

「なんでこんなにじゃんけん弱いんやろ」

「『運』がないんやね!」

「でもさ、じゃんけん勝ったのにわざわざ俺に合わせてバドミントン来るとか、俺のこと好きすぎやん」

「それはしゃーない! 僕お前以外! 友達おらんし!」

「おうよ。仲良くやろうぜ」

「仲良く! したいやつの! 打つ球じゃないねん! さっきから!」

「卓球は二刀流ありなんかな?」

「いや普通に! あかんやろ! というかバドミントンも! あかんやろ!」

「後で聞くか。グーグル先生に」

「倒置法やめろ! 〇すぞ!」

「えぇ……、過激すぎやろ。〇ねや」

「ブーメラン乙!」

「いたぁ!」

「はぁ、はぁ。いや別にお前に当たってないやん」

「スマッチュはあかんて」

「きっしょ。ビビりすぎて噛んでるやん」

「卓球は俺みたいな陰キャにも優しいスポーツなんよ」

「だからホンマに怒られるで?」

「『陰キャに優しいスポーツ』とは言ったが、『陰キャのスポーツ』とは言ってない。怒られるのはお前だ」

「それはごめん。卓球、ごめん」

「選択体育での卓球の人気は異常」

「それは間違いない。まさかの3分の2が卓球希望やったし」

「結局、世の中陽キャよりも陰キャの方が多いからな」

「それは、なんとも言えん」

「なんで?」

「言わんとすることをなんとなく理解できなくもないから」

「だから卓球は陰キャのスポーツ」

「はいアウト。というか、とりあえずお前は論理学を学んで、来い!」

「論理学? が何かは知らんけど、数学じゃあかんの?」

「知らん!」

「お前より俺の方が数学出来るけど?」

「〇ね!」

「でも陰キャは卓球うまいよな」

「陰キャかどうかはともかく! 確かに習ってたわけでもないのに! 異様にうまい人は結構いるな!」

「はっ! 卓球も下手な俺はまさかの陽キャだった!?」

「お前が国語も数学も! 僕より出来るのが! ホンマに納得いかん!」

「陰キャが何で卓球うまいか知ってる?」

「はぁ。ふぅ。え? 知らん」

「あの児童館ってあるやろ? 陰キャは小学生の頃、あそこでだいたいドラえもんとか、鉄腕アトムとか、ちびまる子ちゃんとか、あとはスラムダンクとか? そういう過去の大名作を読むから、マジでその辺に詳しくなる」

「あるあるやなぁ。僕も火の鳥とかブラックジャック、パーマンも読んだわ。手塚治虫先生とか藤子・F・不二雄先生はやっぱり偉大やね」

「すると、卓球がうまくなr」

「ならん」

「違うやん」

「何がやねん」

「児童館ってだいたい卓球台あるやん」

「……そういえば俺の行ってた児童館にもあったな。どこにでもあるもんなんかな?」

「陰キャにだって身体を動かしたくなる時はある。けれど外で遊ぶのは嫌。そうするとどうなる?」

「え、まさかの卓球?」

「そう。児童館にいる陰キャ同士集まって卓球をする」

「それで?」

「すると、適度に運動できて、かつ、同じような感性を持った友達もできる」

「確かに、同じ漫画読んで育ってるからな。え、待って。最高やん!」

「ただ、問題がある」

「ほう?」

「そうやって自分から友達を誘って遊べるようなやつは、そもそも陰キャでも何でもないんよ」

「あ、」

「そしてヒント。俺は卓球が下手」

「あ……、」

「もういいか?」

「ああ。お前がナンバーワンだ」

「村瀬と東藤君、そろそろ試合するからこっちきて」

「おー、宮本君。了解」

「東藤君はラケット1本ちゃんとなおしてな」

「あ、はい……すみません」

「宮本君ってバド部主将やんな?」

「うん、そやで。どうかしたん?」

「聞きたいんやけど、東藤みたいに試合で二刀流ってありなん?」

「普通になしやで」

「え、でも、俺なんかどっかで、すぅ、二刀流ありって聞いたんですけど……」

「うーん、もしかしたら『ラケットの持ち替え』のことなんかな? それやったら咄嗟にやってる人見たことあるけど、文字通りの『二刀流』はあかんやろうな。俺も考えてみたこともないから正確にはよくわからんし、後で先生にでも聞いてみるわ」

「あ、いや、そんなお手数おかけするわけには「そう? じゃあ頼むわ! 僕も普通に気になってきたし」

「おう。じゃあ村瀬と東藤君のペアでとりあえず得点よろしく。次の試合に入ってな」

「りょーかい」「あ、はい」

「なあ、村瀬」

「なに?」

「宮本君は陽キャよな」

「まあ、たぶん? 基準がよくわからんけど、運動部の主将で男女問わず人当たりもいいし、なによりイケメンやからな」

「でも陰キャの俺にも話しかけてくれる。これって宮本君は陽キャと陰キャの二刀流ってこと?」

「いや、ただ陽キャなだけやろ」

「はっ! いや待て、逆に考えろ。さっきまで陽キャの宮本君と話していた俺は陰キャと陽キャの二刀流だった!?」

「もう突っ込まへんで?」

「……」

「なんか言えよ」

「さっきから2点入ってる。得点板くらいちゃんとやれやカス」

「もっとはよ言えやカス」

「……村瀬は?」

「あ?」

「村瀬は、陽キャ?」

「なんで?」

「だって宮本君と普通にしゃべってたし、俺ともしゃべってくれるから」

「はぁ、心底どうでもいい。陽キャとか陰キャとか意味わからんし。そんな区別つけてなにが楽しいのかもわからん。少なくとも『陰キャ』を自称して自虐してると見せかけて、楽しくやってる人らを『陽キャ』とか言って揶揄する風潮を見て、いい気持ちにはならん」

「……」

「まあでも? 友達東藤しかおらん僕は『陽キャ』ではないんちゃうか?」

「……村瀬」

「なんやねん。さっきから三点リーダー多いねんお前」

「得点入ってる。試合見ながら会話できひんのかよ。お前まじで雑魚すぎひん?」

「お前まじで〇すからな。あとで覚えとけよ」

「大丈夫、大丈夫。お前みたいにアホちゃうからちゃんと覚えられるって、痛い痛い! 暴力反対!」

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