二刀流のすゝめ
鶴崎 和明(つるさき かずあき)
日本酒とウィスキーの二刀流は二日酔いに至る
昨年のKACはほぼ全てのジャンルに挑戦し、実りも疲れも多いものだった。
その翌年、枯れ果てた私にもたらされた初のお題は「二刀流」だという。
二刀流どころか十一刀流ぐらいはしたのであるが、逆に今年はエッセイ一本で戦い抜いてやろうと意気込んでいる。
とはいえ、気まぐれで他ジャンルに手を出しかねないため、あくまでも「今の目標」ということで肩の力を抜いてやっていきたい。
何分、ここ半年ほどスランプというよりも気分の問題で、投稿できるような作品を書くことができずにいた。
書くことを辞めていたわけではないが、リハビリが必要だろう。
それに短期決戦仕様のKACを用いるのは我ながら酔狂が過ぎる。
さて、二刀流と言われて宮本武蔵が先に思い浮かぶのは、今の私が熊本県民であるせいなのか、それとも流行りに疎いせいであるのか。
いずれにせよ太刀と小太刀を下段に構えた壮士の姿は非常に印象深いが、巌流島の戦いでは船のオールを削ったもので戦ったと初めて耳にした時にはいささか落胆したものである。
ただ、実際に二刀流で戦うというのが難しいというのは、子供の頃に二本の傘を戯れに振り回して遊んだことがあるために知っている。
傘を振り回しているつもりが、片手ではかえって笠に振り回されてしまうのであるが、優れた武芸者でもそれを操るのは難しいのだろう。
だからこそ昨年、大谷翔平選手が大リーグで投手と打者の二刀流で日本中の耳目を集めた際には、まるで夢を見るような心地となった。
それと同時に、真摯に野球へ向き合う姿勢が描かれるにつれ、私よりも若いのによくもまあと舌を巻いたものである。
そして、中身は分からぬものの、好青年であり野球を楽しもうとしているように見えるため、皮肉のひの字すら飛び出してこない。
こうまで差を見せつけられるとおじさん泣いちゃうよ、と言いながら今年の活躍に陰ながら期待してしまっている。
昨年耳目を集めたと言えば藤井聡太五冠もまた同様であるが、それ以上に気になっていたのは羽生善治九段のA級維持であった。
私の子供の頃から活躍し、永世七冠を名乗る権利を有した平成の名棋士。
苦闘を見守る私は、戦隊もののヒーローを応援する子供のようであった。
その羽生九段はチェスを嗜んでおり、昨年度も日本で二位のレーティングを誇る。
世界やアジアの中で見ればまだまだ上はいるものの、将棋のプロ棋士として奮戦する合間にこれだけの成績を残せるというのは、十分に二刀流と言えよう。
昔は尖ったナイフという形容がよく似合い、伝説の5二銀が繰り出された一局では暗殺者かのように加藤九段を見据えていたのが印象的であった。
それが今では穏やかな表情で語るイメージが離れなくなり、自然体という名の慎み深さという名手に私は虜となってしまっている。
A級に再び戻ってきていただき、もう一冠重ねて欲しいと私は無邪気に願っている。
「孤独のグルメ」の原作者である久住昌之氏は、麦スカッシュと井戸水の……もとい、漫画原作者とミュージシャンの二刀流である。
正しくは他に切り絵などにも手を出しているから二刀流どころではないのだが、それでも、どれか一つに集中させるのではなく各分野に磨きをかけている。
その合間で出演している「ふらっとQUSUMI」ではおどけた姿も見せているが、それと同時に店の方との交流は丁寧そのものだ。
その一方で、インタビュー記事などを拝見するとその業界にある厳しさをしっかりと伝えつつ、必要なことを的確に示している。
昨年末の特番で、久方振りに一杯引っかける姿をお見受けして思わず目頭が熱くなったが、今年は心穏やかに嗜まれるのを心待ちにしている。
様々な形での二刀流を横目にしながら、私は久方ぶりに動画作成に挑んだのであるが、その結果としては両輪を上手く回すことができず、どっちつかずの状態となってしまった。
それが顕著になったのは十月であり、創作に手が付かない時期が続く。
これを無理矢理動かし直し始めたのは一月であり、未だに本調子からは程遠い。
様々なものを身体の中に取り入れる時間を増やしながら、それでも脳の蛇口から出てくるものは細々としている。
それが分かっているからこそ文章として外に出すこともできず、それを直視もできないからこそいただいた反応に返すこともできない。
足掻けば足掻くほど沼にはまっていく感覚というのは久しぶりであり、流石に参ってしまった。
同じ二刀流を目指したはずなのであるが、この違いは何なのだろうかと疑問符が付く。
無論、技術的な面も大きいのだろう。
そもそもの腕前が磨かれていない状況で二刀流を目指すこと自体が困難なことである。
しかし、こうして俯瞰して見ていくと少しだけ肩の力が抜けていくのを感じた。
近頃感じるようになった肩こりのせいで上手く力が入らなくなっているだけかもしれない。
ただ、あまり飾らず素直になってみようかと思えるようになっており、いただいた感想にも目を向けられるようになった。
非礼をお詫びしつつ、まずはこのKACという舞台でもう一度、二刀流を演じてみたい。
二刀流のすゝめ 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru
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