日曜日だけはパリジェンヌ

吉野牡丹

材料:エッフェル塔の置物

料理。料理という概念は一体何処から始まったのだろう。原始人が牛や豚の肉を焼いた時か、稲作でコメを摂って炊いた時からか。火を使わないと料理と呼んではくれないのか。きっともう時代は変化しただろう。人類は発展のために忙しくなって、生きる概念が「今日一日を生き抜く」ことから「目的のある人生にする」ことへと変化した。今日一日を生き抜くことに精一杯の私は、現代社会の時代において人間の退化の的なのかもしれない。他にも人間として存在するためには繁殖しなければいけない。人間だけではなく、生物としての地球上での役割だろう。そんな私は独身で。25歳になった私は、人間界的には結婚適応年齢真っ只中なのにも関わらず、彼氏もいないのだ。趣味もない。平日は朝起きて、朝食兼昼食をコンビニで買い、バスに乗り電車に乗り、会社で事務作業をし、3時間以上働かなければ残業と見なされない、あったはずのない時間を過ごし、また電車に乗りバスに乗り、トボトボ家へ帰り、4日分食べられるように作り置きした鍋か、テイクアウトをする日々だった。彼氏がいたのも1年ほど前。きっとはじめから何か違っていたのだろう。彼は会社員だった。給料はいいが、工場の流作業がどうも嫌だったらしい。いつも「人生の計画術」や「納得させる話し方」などいわゆる自己啓発本が机の上に置いてあった。その点、私は近代小説が好きだった。彼に「それ読んでなんの為になるの」と聞かれ、私はひどく動揺した。他にも、彼は週末になるとSNSで知り合った人たちとバーベキューや飲み会などに参加する若者だった。同じ年齢なのに、彼を若者だと思うほど私の生活は枯れているのか。いつも彼は私を誘ってくれるので、次は参加しようと心に決めても「行かない。家で漫画読んで待ってるね」と言ってしまうのだった。そして、煙の匂いに包まれた彼が帰ってきて「お前も人脈広げた方がいいよ」と言うのだった。なんだろう。私は変化のない生活に安心する。彼は変化のない生活を怖がる。きっと人類進化のために本能が彼を奮い立たせているのかもしれない。もしかしたら、私は現代に適応できないと見なされ絶滅してしまうかもしれない。そう思っても、ベットの上で漫画を読み、いつの間にか眠っている休日が生きる目的だった。

そんな私はある日、美容室へ行った。担当の美容師の方とは長い付き合いなので、1ヶ月半に1度、1年分の予定が決められているのだ。「次回どうします」の質問に答えなくていいので助かるし、予定が変更されるほど友達もいないので、美容院が側も都合のいい客なはずだろう。待ってる間、鏡の前に雑誌が置かれた。客層に合わせて置く雑誌を選ぶと何処かで見たことがある。その日は海外旅行の雑誌と30代前半向けの雑誌が2冊置かれた。きっと20代前半で30代の雑誌を見たら、手をつけないかもしれない。が、25歳になると30代は近い未来なので、すぐさま手に取り隅々まで目を通し「大人っぽい」を研究するのだ。髪を染めている間、最後の1冊を手に取った。私の性格だと海外旅行は面倒なものに感じる。綺麗な景色、カラフルな食べ物、シワひとつないシーツ、自分のスーツケースは本当に流れてきてくれるのかと呼吸が浅くなる空港。私は楽しめるのだろうかと考えているうちに休みが終わる。雑誌を捲ると、パリでの1日が特集されていた。朝起きてカーテンを開け、軽めの化粧をし、赤色の低めのパンプスを履く。デコボコの道を歩いて、外に置かれたテーブル、椅子に座って朝食をとる。エッフェル塔を見ながら、女の人がクロワッサンにゴッホの絵みたいな黄色とコラージュされた緑、油性っぽい黄色が挟まれ、アートをナイフで切って食べている。水の中で茶色と白の絵の具を混ぜれたようなものがコップに浮かんでいる。そのあとは、美術館で絵を見て、気に入った絵の絵葉書を買い、公園のベンチで読書をする。さっき買った絵葉書を栞にし、今日のディナーに着るドレスを買いに行くそうだ。なんて優雅なパリの女。飛行機に乗ってもつく事がない程、私とは遠くの地にいそうな気がした。最後に新人の子が髪を乾かしてくれた。「どうですか」と毎回同じヘアスタイルを注文する私に感想を聞いてくれた。帰り道、スーパーに寄ってさっき見たパリの朝ごはんを明日食べようと材料を買った。家にない黒胡椒も買ってみた。

日曜日。これで18週目。今日も私はパリジェンヌっぽい朝食を作って食べた。小さなエッフェル塔の置物を見ながら。また明日から頑張れる。この後、ベットで漫画を読むつもりだ。

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