理想と現実

三葉さけ

理想と現実


正月に顔を出した実家で久しぶりに弟家族と会った。

子供向けのテレビ番組もなく退屈している3才の甥に、新聞を細く細く丸めて作った剣を渡すと喜んで振り回し始める。


「おー、懐かしいな。よし、かかってこい」


弟が甥と仲良く打ち合いする姿を見てると、俺と弟もよくやったなと懐かしさがこみ上げた。

おりゃーとりゃーなんて笑いながらやり始めても、剣が当たるたびにお互いムキになっていく。弟に負けるかと手加減もしないで剣を振り回せば、不利になった弟がもう一本剣をつかんで両手に持つ。


「おりゃー、二刀流だ。このこの」

「卑怯だぞっ」

「うるせー」


二本の剣を振り回す弟に対抗するため、俺は片手に一本、もう片手に二本持って立ち向かう。


「こっちは三刀流だ」

「くそっ。俺は四刀流!」


だんだんと増えていく剣。最後は何刀流になったのか覚えてない。結局ケンカになって母さんに怒鳴られてたような。

むやみやたらと新聞紙の剣を振り回してた弟は、高2のとき県大会の3位に入賞した。実家のリビングに飾ってある賞状を指差して3才の甥に教える。


「お父さんは強かったんだぞ」

「つよいの?」

「水泳で3位だからな」

「懐かしいな」

「今じゃトドみたいだもんな」

「うるせぇよ」

「なんで水泳だったんだ? 剣道やりたいって言ってたよな?」


いつも新聞紙の剣で挑んできたのは弟だったし、剣道のマンガを何回も読み返してたのに。


「あーそれな。臭いんだよ、防具がさ。友達の兄貴の防具を見せてもらったんだけど、臭すぎてむせた。その点、水泳は塩素で消毒されるからいいよな~」

「……そうか」


まあ、憧れと現実のギャップってあるから。

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理想と現実 三葉さけ @zounoiru

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