勇者は絶対に『正義』という訳じゃない
御厨カイト
勇者は絶対に『正義』という訳じゃない
「いやー、勇者様申し訳ありません。こんなクエストに付き合わせる羽目になってしまって……。」
「いえいえ、何度も一緒に冒険して来た私と騎士団長の仲じゃないですか。気軽に頼ってください!」
「……勇者様、……ありがとうございます。」
そう会話をしながらも、俺たちはズンズンと森の中を進んでいく。
「それで結局、クエストというのは洞窟に居ついたゴブリン達を倒すという事でいいんですよね?」
「そうですね、そうなります。」
「正直に言うと、コレ俺たちじゃなくて良いのではと思うんですけど……。」
「それがゴブリンの巣窟の討伐クエストとなると、どうしても手練れの冒険者でないと難しいのですよ。ですが、ちょうどそういう冒険者たちは別件で出払っておりまして。」
「……だから俺や騎士団長であるアメリアさんが招集された、という事ですね。」
「えぇ、そういう事です。」
「なるほどなるほど。」
「……本当に申し訳ない。様々な冒険でお疲れの勇者様にこんなクエストをお願いするなんて。」
「さっきも言いましたが、僕と騎士団長との仲じゃないですか。そんなに気にしないでくださいよ。それに勇者は正義の味方ですからね!どんなクエストでも快くお受けしますよ!」
「……正義の味方、ですか……。……それは頼もしいですね。」
「アハハッ、天下の騎士団長様にそう言っていただけて嬉しいです。」
「……」
「おっと、そんな事を話していたら、目的の洞窟に着いたようです。ここで間違ってないですよね?」
「え、……えぇ、クエストの受注書には確かにここだと書いてあります。」
「よっし、分かりました。それじゃあ、早速行きましょう。……アメリアさん?」
「……あ、は、はい。」
「大丈夫ですか?そんなに暗い顔をして。」
「え、あ、ア、アハハッ、大丈夫ですよ!すいません、行きましょう。」
「……それじゃあ、気を取り直して行きましょうか。」
そうして、俺たちはゴブリンの巣窟がある洞窟の中に入っていくのだった。
********
やはり、洞窟というのもあって中は暗く、見通しがきかない。
そのため、持って来ていた松明に火を灯し、灯りとして使う。
「それにしても……、アメリアさんと冒険するのも何だか久しぶりな感じがしますね。まぁ、今回は冒険というかクエストですけど。」
「確かに前までは結構頻繁に一緒に冒険したり、クエスト受けたりしていましたね。最近はお互い忙しく、あんまり絡めてませんでしたが。」
「僕は勇者としての責務、アメリアさんも騎士団長としての仕事がありますからね。それに、アメリアさんは女性として初めて騎士団長になった方ですから色々大変だったでしょ?」
「今まで男性しかなったことがありませんでしたからね。そりゃあ、大変な事ばかりでした。そもそも、騎士団の寮には女性のテリトリーがありませんでしたから、そこを作ることから始まりましたね。」
「あぁ、前にもその話を聞きましたが、まったく凄い話ですよね。そんな状況下でもしっかりと騎士団長の責務を果たしているアメリアさんは本当に凄いと思います。」
「いやいや、そんな事を言ったら勇者様だって、今まで誰も倒せずにいた北の黒神龍を討伐したりありとあらゆる偉業を成し遂げ、国民からすごく感謝されてるじゃないですか。」
「まぁ、あれは『勇者』という称号を貰った者の性と言いますか、勇者となったからにはやらないといけないことでしたからね。それにやっぱり国民が困っている、苦しんでいる原因となる元を無くすのも勇者としての仕事ですから。俺は当たり前の事をしたまでですよ。」
「……勇者様、貴方という方は本当にカッコ良く、お優しい人だ。」
「いやー、アメリアさんにそう言っていただけるとは恐縮です。ですが、俺はあくまで「当たり前」の事をしているだけですけどね、アハハッ。」
「…………「当たり前」の事、か。……私達では、もう「当たり前」では無いというのに……。」
「うん?何か言いました?」
「あ、いえ、何でもありません。……あっ、勇者様、あの奥の洞穴が例の場所のようです。」
そう言いながら、アメリアさんは手に持っている松明で先を照らす。
「それでは勇者様、一先ず奥の様子を見て来ていただいてよろしいですか?どれくらいの規模なのか確認したいので。」
「分かりました。ちょっと見てきます。」
「お願いします。」
俺は念の為、腰に携えた剣に手を掛けながら、奥へと向かう。
慎重に岩陰から様子を伺う。
やはり暗いがモンスターの姿が見えない、という程では無い。
そんな訳で見回してみるが、見つかるのは岩サソリなどの無害と言っても差し支えの無いモンスター達。
ゴブリンの巣窟と言う割には、ゴブリンの影1つも見つからない。
本当にここで合ってるのか、アメリアさんに聞こうと振り返ったその時――
グサッ
「…………ウッ、グッ、ハァハァ……、ア、アメリアさん、ど、ど、どうして!?」
俺は腕に刺さった短剣、そして刺した本人に対してそう言う。
彼女はそんな俺の様子を見て「……チッ、仕留め損なった」と小さく呟く。
そして、続ける。
「どうして?そんなの決まっているだろ!貴方が私たちの仕事を奪い、誇りを握りつぶしたからだ!」
「……えっ?」
「そのピンと来ていない顔にも、腹が立つんだよ!」
彼女は俺の腕に刺さっている短剣を一気に引き抜くと、そのまま俺の胴を刺そうと一心不乱に突いてくる。
俺はそれをギリギリの所で避け、無事な右手で腰の件に手を掛けようとするが、いつの間にか俺の右手首は深く切り込まれていた。
「ふんっ、無駄だよ。何度貴方と冒険したと思っている。そんな相手の行動を先読みすることぐらい造作もない事だ。」
ボタボタと地面を赤く染める血。
この手では剣を握ることは出来ない。
「ハァハァハァ……、ア、アメリアさん、なんで、何でこんな事を!俺が一体何をしたって言うんですか!」
「……自覚無いからこそ、余計にタチが悪い。……こんな奴の所為で私達、いや私の騎士団は無くなるのか。」
「き、騎士団が無くなる……?」
「……良い機会だ。勇者よ、貴様には今までの恨みを全て晴らし、死んでもらう事にしよう。」
彼女は俺が逃げないように、今度は足首を切りつけようとする。
それを避けようとするが、未だに溢れ出てくる血の所為か反応が遅れ、結局食らってしまう。
「これでもう貴様は動けまい。後は一方的に刺し続けるだけ!」
「グッ、グゥゥゥ、ハァハァハァハァ……、ど、どうして、ア、アメリアさんと俺は、さ、さまざまな苦難を、の、乗り越えた、な、仲間じゃないですか!」
「……仲間、だと?」
「え、えぇ、そ、そうですよ。た、沢山の、ぼ、冒険を、共に、の、乗り越えた、な、仲間、じゃ、ないですか!」
刹那。
彼女の持っている短剣が俺の腹へ刺さる。
ゴプッと血が体の中を上ってくるのを感じる。
そして、声と共にまたしても血が地面を染める。
「グ、グァァァァァァァァァァァァ!!!」
だが、彼女は俺のそんな叫びが聞こえて無いのか、そのまま自分の思いをぶつけ、続ける。
「勇者という貴様の存在によって、騎士団は仕事を奪われ、国民からは蔑まれ、挙句の果て解散することになったのに、当の本人は仲間だからと命を乞う?そんな馬鹿げたことがあるか!」
そして、刺す。
「だ、だ、だから、俺は、そん、なこと、し、知らなかっ、たん、だ。」
「……知らなかった、なんて言って許されると思うな!貴様1人の所為で何人の団員が行き場を失ったと思っている!」
そして、刺す。
「それに、私がこの立場を手に入れるのにどれ程苦労したと思っている!男しかいない場所で実力を認めてもらうのがどれだけ大変だったか……。そんな立場を貴様のようなポッと出の勇者に奪われて、許せるわけないだろ!」
そして、刺す。
「で、でも、お、おれ、は、せ、せいぎ、の、み、かた、とし、て――」
「その『正義の味方』という言葉にも虫唾が走る!何が正義だ!何が弱き者の味方だ!その『正義』の裏には私たちのような『犠牲』があることを忘れるな!」
最期と言わんばかりに、彼女は強く深く刺す。
「あっ…………」
ガハッ
********
「貴方の存在は弱く、結果しか見ない国民からしたら、確かに『正義の味方』だったのでしょう。ですが、生き甲斐やプライドを奪われた私からしたら貴方は――」
頬についた血を拭い、もう動かない”勇者”を見ながら、一言。
「『悪魔』ですよ」
勇者は絶対に『正義』という訳じゃない 御厨カイト @mikuriya777
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